第11話 またあした!!
鷲尾さんと危うくエッッッな関係になりかけたが、母さんの帰宅によって強制終了となった。危なかったぜ。これが美少女バトルだったらと思うとぞっとする。俺は確実にKO負けを喫してただろう。俺の必殺技『ママ系美少女のバブらせ頭なでなで連続攻撃』に、『押し倒す』。たったそれだけのカウンターでこの俺を制圧してみせた。鷲尾さんチート主人公すぎんだろ。最初は注目選手の一人としてか見てなかったが、鷲尾さんはあまりにもポテンシャルがデカすぎる。可能性の獣だ。ダークホースってレベルじゃねえぞ。
俺は鷲尾さんの秘められた力におびえていると、ドタドタと階段を上る音が聞こえてきた。ガチャリと開くドアと同時に母さんが部屋に乱入してきた。 毎回ノック無しで入ってくるから、まじで村クエに出てくるイ●ルジョーかよと当時は思ってた。
「あらま......その制服、中学校の友達!?こんにちは~。学校からだと かなり遠かったでしょ?わざわざうちの八夜のために、ここまで来てくれてありがとうございます~。あっ、私、八夜の母です~」
「あの、鷲尾 葵です...」
「八夜はいつもガサツで向こう見ずだけど、どうか仲良くしてくださいね~」
母さんのいつものクソデカ漢声はどこへやら、たっけえ猫なで声で鷲尾さんに話しかけていた。お外モード全開だ。昔は若作りワロタと思ってたが、今では大事な処世術なんだとひしひしと感じる。大人はどちゃくそ頑張ってるぜ。ところで母さん、今しれっと俺の悪口言わなかった?
「いえいえそんな!むしろ私の方がずっと優しくしてもらっているので...」
「葵ちゃん、そんなに褒めても八夜が調子に乗るだけだからダメよ〜」
調子に乗るのは俺の良い所だろおがよ!俺は頬をふくらませて抗議の意を示した。鷲尾さんはこっちをチラリと見て、ふにゃりと笑う。はい俺の最強ムーブ決まった〜。美少女はね、エグ●ディアそろえなくたって、ほっぺたふくらませるだけで勝ちなんすわ。
ジリリリリリリ!!!
うわぁびっくりしたー。青い狸の形をした時計が鳴り響いている。もう午後の3時か。思ったよりゲームしてたな。
「あっ、もうこんな時間...。すみません、夕方の5時から塾なので今日はもう帰ります」
「あら、家まで送っていくわよ~」
「そんな、申し訳ないです...」
「母さんの車乗ってきなよ~ジェットコースターみたいで楽しいからさ~」
俺は鷲尾さんの手をぶらんぶらん揺らしながらお願いする。これぞ無邪気系美少女の神髄だぜ。
「誰の運転がジェットコースターって??!!」
「うぎゃあああああああああ!!!」
母さんから頭グリグリの刑に処された。いくらタイムスリップして過去に戻ったからって、体罰は時代錯誤だろおおおがよおおおおおおお。俺は鷲尾さんの手を離し、全力で母さんの手をはがそうともがくが、手をわちゃわちゃさせるだけに終わってしまった。今なら孫悟空の気持ちが痛いほど分かるぜ。なぜなら痛いからな!
「葵ちゃん、お家はどの辺にあるの?」
「○○市です...」
「なら急いで車で行かないと、間に合わないわよ!」
「ハヤクイコウゼ!」
それから母さんと俺と鷲尾さんは車で鷲尾さんの家に向かう。1時間弱ぐらいかかったな。まじで車で正解だったわナイス母さん。鷲尾さんの家結構でかいな。三階建てぐらいありそう。しかもここ、高級住宅街の匂いがプンプンするぜッ。そんなことを思ってると、鷲尾さんはもう車から降りてた。そしてまたあの綺麗な90度でおじぎした。
「家まで送っていただき、ありがとうございました!今日は楽しかったです!」
「またあした!!がっこーでね!!」
「はい!!」
俺が車の窓から手を振ると、鷲尾さんは今日一良い笑顔を見せてくれた。今日は衝撃の連続だったぜ。世界最強の美少女になるにはまだまだ修行が足りねーのが分かったわ。大事なのは修行パートだってばーちゃんが言ってたもんな。言ってないけど。
車のエンジンがかかる音がして、俺と母さんが乗る車はゆっくりと発進した。俺と鷲尾さんはお互いが見えなくなるまで手をふっていた。
「友達ができて、よかったわね」
「うん」
住宅街を抜けて、クリーム色のぼろい軽自動車が県道を走る。母さんがCDのボタンを押すといつもの音楽が流れてきた。ジャジーでヒップホップなメロディーと一緒に英語の歌詞が流れる。母さんのお気に入りの曲だ。
「この曲作ってた人ね」
「うん」
「つい最近交通事故で亡くなっちゃたのよ」
「えっ」
そういえばそんな事を昔言われた記憶がある。
「友達、大切にするのよ」
「...うん」
俺は窓を開けて風を感じることにした。いくら時が戻ったところで、また俺や、母さんや、じーちゃんや、イヌスケも、年を取る。昔に戻って浮かれてたが、確実にまた時は流れていってる。せっかくもらったチャンスだ。後悔のねえように生きたい。思い立ったら即行動だ。ニヤっと笑った俺はすっと手を窓の外に出した。これがおっぱいの感触か。俺のおっぱいはまだ成長してなさすぎてノーブラだから感触ぜんぜんちげえけど、これからこうなるんだな。いやなって欲しい。ふとサイドミラーで俺を見ると、美少女がオレンジの光と風に包まれながら、不敵に笑ってた。鏡の中の俺もなかなかやるな。負けられねえぜ。
「手出したら危ないでしょ!!」
「すみませんでした」
母さんに叱られるのに若干嬉しさを感じながら、車のスピーカーから放たれる音楽に耳を傾ける。目を閉じてその心地良さに身を任せる。母さんが何度も聞くだけあるぜ。死したトラックメイカーは、そのビートの中で確かに永遠を掴んでいた。陳腐な考えだが、それでいいと思えた。
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