第9話 放課後とイヌスケと 中編

 鷲尾さんがイヌスケを撫でてるのを見て俺はニマニマしてると、不意に玄関の扉が開いた。玄関の方を向くと、作業服を着ていたじーちゃんが立っていた。


「おかえり、八夜」


「じーちゃん、ただいま!」


「そん子は?」


「中学校の友達!鷲尾 葵さん!」


「こげん田舎まで遊びに来てくれてありがとうございます。なんもないところですが、ゆっくりしてって下さい」


「は、初めまして!よろしくお願いします!」


 じーちゃんは鷲尾さんに農協の帽子を取って挨拶した。そしたら鷲尾さんは慌てて立ち上がってぺこりと90度おじぎで返す。めっちゃ礼儀正しい子じゃんかよ。前世は俺が遠巻きにエロい目で見てただけだったから知らんかったわ。


「八夜、昼飯は学校でくうたか?」


「いや、食べてないよ」


「んなら鷲尾さん、家ば上がってご飯たべてきんさい」


「えっと...」


 多分もう12時は過ぎてると思う。鷲尾さんは申し訳なさそうにこちらを見ている。もしかしたら断りたいのかもしれないが、俺は可愛い女の子と一緒に食事が出来るのであればいくら外道に成り下がっても問題はねえぜ。ここは猛プッシュだ。


「ねえ、お昼ご飯一緒に食べようよ~」


 腕を絡ませて上目遣い。甘ったるい声で耳元にささやく。これが俺が美少女人生2日間かけて手に入れたテクだ。この技を喰らって断った人はいない。なぜなら初めて使う技だからな!!


「あ、あの、本当にいいんですか...?」


「もちろん!」


「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」


 そう言って鷲尾さんは俺とじーちゃんにぺこりぺこりと、またおじぎした。はい俺の勝ち~。俺の最強がまた一つ証明されちまったぜ。


 俺は気持ち良さそうに寝そべるイヌスケに親指を立てて、玄関に向かう。イヌスケ、俺は戻ってくるぜ。アイルビーバック。


「あんまり綺麗じゃない家だけど、あがってあがって!」


「失礼します...」


 俺が先に家にあがって手招きすると、鷲尾さんはおずおずといった感じで玄関に入って、ローファーを脱いだ。お、今の靴の脱ぎ方いいねえ。俺も真似しよ。俺が誘導してリビングの椅子に二人ならんで座った。 


 じーちゃんもその後家に入って、ささっとリビングからキッチンに移動してきた。ばーちゃんの形見のエプロンを付けて手を洗うと、鷲尾さんに振り返って質問した。


「アレルギーとか、嫌いな食べもんとかありますか?」


「なんでも大好きです!!」


「ははは。なんでも食べれるちゅうのが一番良か」


じーちゃんはニヤっと笑ってから、冷蔵庫から野菜と豚バラを取り出す。


「八夜」


「はーい」


 じーちゃんに呼ばれた俺はキッチンに行き、手を洗ってから玉ねぎと人参を洗う。昔はじーちゃんの料理も良く手伝ってたわ。じんわり心にくるぜ。感慨に俺が浸っていると、鷲尾さんも立ち上がって「私も料理手伝いたいです!!」と叫んだので、俺は玉ねぎの皮むきをお願いした。じーちゃんは黙って俺が洗った人参をヤバいスピードで正確に切っている。これで昔は全然料理したことなかったってんだから驚きだ。


「あ、あの、どこまでむいたらいいんでしょうか?」


「おお~、玉ねぎも可愛くなってる...」


 鷲尾さんから不安そうに差し出された玉ねぎは見事にミニチュア化している。俺が「ここまででいいよ~」と手本を見せると、次からはちゃんとむけるようになっていた。俺もドジっ娘属性を持っているので、共に高め合っていきたい。あとは、キャベツをむしって、ボールに入れといた。


「あとはじーちゃんがやるから、八夜は飯ついでくれ」


「はーい」


 俺が白ご飯を茶碗にのっけてると、じーちゃんは具材を順番にフライパンに投入しながら炒めていた。うまそうなにおいが広がってくる。ベストタイミングでじーちゃんは火を止めるとタレと塩コショウを振りかける。味付けは最後にやるのがじーちゃん流らしい。


「お粗末ですが、どうぞ」


 2皿に盛りつけられたそれがテーブルに置かれる。色とりどりに輝く野菜炒めの完成だ。


「じーちゃんの分は?」


「先に食べたけん大丈夫。じーちゃん、ちょっと田んぼ見てくるわ」


 テーブルに置いてた農協の帽子を被り、じーちゃんは外にそのまま出かけてしまった。


「じゃあ食べよっか!」


「はい!」


「「いただきます!」」


 キャベツと豚肉を一緒に箸でつかんで、口に入れる。シャキシャキした感触を残しつつ、食べやすい柔らかさ。肉も変にあぶらっぽくなく味は塩とコショウとタレが三権分立して黄金バランスをつくっている。完璧な野菜炒めだ。俺はクッキンアイドルの座を狙っていたが、じーちゃんがいる限りそれもしばらくは無理そうだ。


「おいひい...おいひい...」


 横を見ると鷲尾さんが野菜炒めとごはんをほおばりながら、死ぬほど幸せそうにご飯を食べていた。加速度的にごはんと野菜炒めが無くなっている。大食い系美少女の座も狙っていたが、これもなかなか簡単じゃなさそうだぜ。


「「ごちそうさまでした!」」


 いやあ、うまかったうまかった。思わず俺はおなかをさすると、鷲尾さんはニコリと笑って真似しておなかをさすった。え、かわいすぎんか?鷲尾さんは美少女界のダークホースかもしれない。来たるべき日に美少女バトルで決着をつけねばならんようだな。俺はそのXデーを思いながら、満腹で椅子からずり落ちていくのだった。


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