リハーサル
そのままの足取りでスタジオに向かう。
「ライブが決まりました!あと発表があります!急だけど今日の15:00に集まれる?」
ギターからの唐突な連絡のよるものだった。
最近はライブはおろか、リハすらしていなかった。大体は俺のドタキャンのせいで潰れている。スタジオに着くと3人は既に揃っていた。
「久しぶり。」
スタジオのドアを開けた瞬間から集中していた視線は、口を開いたことでより一層強くなった。バンド内で一番俺に嫌悪感を発しているベースは、じっと睨みを利かせている。なんで来たんだよ、と言いたげな顔だがこちらも暇つぶしで来ただけなのに。本心は言えるはずもない。挨拶はマナーの基本だと教育されなかったのだろうか。残りの2人は俺が来たことに驚いているようで、誰も挨拶を返す者はいなかった。ピリついた空気を打ち破るようにギターが話し出す。
「うん!じゃあ全員揃ったし、なんか発表するんでしょ?ヨウさん」
名前を呼ばれたボーカルのヨウは空気が変わったことに安堵した表情で口を開いた。
「えー、そうです。ライブが決まったっていうのは連絡したと思うんだけど。決まったライブっていうのが……Live of the modsです。」
Live of the mods。名前を聞いた途端、その場の全員に緊張感が共有されたことが肌で分かった。このイベントは当初から出演を目標にしていた日本最大級のモッズイベントである。
「本当に……?」
「本当なんだよ。これを伝えたくて急遽だったけど集まってもらった。それで、レン。」
「お前、やれる?」
ボーカルはその日初めて俺に目を合わせた。今までのように怠惰なままでは拒絶すると言われているような目だった。何より熱意のある人間にのみ立てるステージだ。俺がふさわしい人間であるか試したいのだ。
「やる。」
数秒間の思考の末、出した結論だった。
「分かった。じゃあ次のリハ決めよう。今日はそれを伝えたかっただけだし、セトリとか考えたいし。」
ボーカルは三人を見回してから、解散を告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます