昼過ぎ
結局、新宿のネットカフェで眠った。フルフラットのブースで膝を抱えて眠る姿が胎児を連想させる。母親という繭の中で小さく、丸く、自分を抱きしめながら外界と隔離された安全圏でその時がくるまで眠る。うっすらと漂って残る夢の記憶には愛されていた頃の思い出が映っていた。目が覚めても母親が頭を撫でてくれた感触が嫌にリアルで気持ちが悪くなる。意識が這い上がってきて薄ら目で時刻を確認しては、また目を閉じて、また覚めた。何度も繰り返して飽きた頃、少ない荷物を手にブースから出ていく。足も伸ばして眠れない狭すぎるスペースが俺の秘密基地だ。
精算を済ませ、外に出る。正午過ぎの快晴がひとつまみの罪悪感を植え付けた。ズル休みして仮面ライダーを見て、やりたかったことのはずなのに「やっぱり学校行けば良かった」などと後悔する。的はずれな自慰行為を何年も何年も繰り返している。言ってしまえばバンド活動が1番の的はずれな自慰行為であると思う。今の時代では流行らないロックでクールでオールドな決まった狭い層にしか見向きもされない音楽をやり続けている。自分が気持ちよければそれでいいと割り切れたらどれほど良いか。この音楽で食って生きたい。学生の頃はまっすぐに思えていた。今はもう、惰性で叩くドラムの音がこびりついてしまった。この惰性さはあの女のせいである。どうしたって人のせいにして情けない人間なのだ。
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