猫嫌い。

朧塚

猫嫌い。

私の家の隣に住んでいる、おばさんは、とにかく猫嫌いで有名だった。

私の家の周辺では猫を飼っている人間が多く、おばさんはとにかく猫に対しての呪詛を吐いていた。やれ、臭いが酷い、自転車に傷を付けられた、ゴミを漁られたなど。

「餌付けする連中がいるから、嫌いなんだよ」

そう言って、おばさんは毒づいていた。

飼い猫だけでなく野良猫も多かった為に、おばさんだけでなく、車上荒らしをされたとかで怒っている人間も少なからずいた。


ある日の事だった。

おばさんが何かを地面に撒いていた。

大量の団子みたいだった。

所謂、ゴキブリなどを殺すホウ酸団子だ。猫が食べるであろう魚の切り身の中に仕込んでいるのが見えた。

私は朝、出かける時に、何気なくおばさんに団子の事を訊ねてみた。

「色々な薬剤を混ぜたからね。どれか効くんだろう」

おばさんは腹立たしそうに言っていた。

私は少し引いたが、気にせず会社へと向かう事にした。

何日かした後、猫は嗅覚に優れているから、団子を食べない。だから、別の手段を取るとおばさんがぼやいているのを見かけた。


しばらくすると、猫の死体を見かけるようになった。

しかも、どぶ川にボロクズのように投げ捨てられている。

近所のおばさんの事が気になって仕方が無かったが、私は仕事の事を考えて忘れるようにした。


夜。猫の鳴き声が聞こえる。

隣近所だ。やたらと煩い。

にゃー、にゃー、と、喧しいが、私は仕事で疲れているので、イヤホンを耳に入れて睡眠用のBGMを聴くと、すっかり気にならなくなった。


近所のおばさんの家の庭からは何か酷い悪臭が漂っている。

私はおばさんに会ったら一言、何か言おうかと思ったが止めにした。

何か鍋で煮物か肉料理をしている臭いも漂ってくる。近所の窓から湯気が漂っていた。

露骨に肉を燃やす臭いもした。

私はなんだか、嫌な予感がしていた。

仕事に行く時は、とにかく近所を見ないようにした。

それでも、そこら中で猫の死体。それも腐乱死体や惨殺死体のようなものをよく見かけるようになった。

猫を飼っている者達も、猫が事故で亡くなったり、原因不明の突然死のようなものをしているのをよく見かけた。

なんとなく、都合により猫を手放す事になる者も多くなったみたいだ。


それから三ヵ月くらい過ぎた頃だろうか。

おばさんが亡くなっている事を聞かされた。

なんでも、内臓を何者かによって喰い荒らされていたらしい。

どうやら、虫やネズミがおばさんの身体を喰い荒らしていたみたいだった。

家の中には謎の祭壇があり、猫の頭蓋骨が置かれていて、呪いの言葉がびっしりと書き記されていたのだという。

まるで、何か呪術めいたものだったのだと。


それから、この近辺から猫はいなくなった。

ただ、私は夜に悪夢を見る。

何処か遠くでサイレンのように、猫の断末魔が聞こえてきて、私に助けを求めようとする。

私はそれを聞かないようにする。

私は何も知らないし、おばさんのやっていた事は何の関与もしていない。

ただ、猫の気配にしばらく取り憑かれた…………。

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猫嫌い。 朧塚 @oboroduka

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