その1-12【暗中飛躍】

「知りたいのであれば、教えてあげればいいじゃないですか」


 いつの間にかヘリのスキットに立っていた有咲が、暁人と夕華の話を聞いてそう言った。


「私たちの秘密なんてそんな大そうなものではありませんし、あんなもの秘密にしてる方がおかしな話だと、私は思うのですよ」


 ヘリの中、そんな狭い空間で夕華に迫った有咲は、その真紅の瞳からまるで心の内まで探るように覗き込んだ。


「あなたは、知りたいのでしょう?私たちがどのようにして、魔法使と呼ばれているのか、どのようにして奇跡を操る力を獲たのか」


「はいそこまで。それ以上はダメですよ」


 俺は夕華に迫っていた有咲の背中に、[ドウジ切]を突きつけた。もちろん、抜き身でだ。横を見ると、主人の身の危険を感じたのか実も短刀を構えている。


「暁人、分が悪いですよ。貴方の刀は、いくら大型でないとは言っても、こんなに狭い室内で振り回せるような物じゃないでしょう?」


「ぇえ!?俺にそれ言います?そんなこと言ったら、有咲さんの槍なんてもっとでしょう?それに、俺と有咲さん、どっちが振ったとしてもその瞬間にヘリは落ちますよ」


 軽い口調ながら俺と有咲さんの間に流れる空気感は、まさに一触即発。

 室内はそんな空気感に煽られて阿鼻叫喚だ。

 有咲さんに迫られたままの夕華はフリーズして戻ってこないし、そんな夕華を見て実はオロオロしてるし、運転席のおっちゃんは震えてるし、レスキュー隊員の2人に至ってはいつの間にか緊急用のパラシュートを抱えていた。まぁ、そうだわな。一般人からしたら、魔法使なんてのは雲の上の人だ。というか化け物だ。その姿を目にしたことはないという人でも、その戦いの痕は知っているだろう。

 ちなみに目の前のこの人は、支部長なのだが名前よりも戦闘の痕跡の方が有名だ。だって視界一面の氷漬けだもの。なんでも夏場にやらかすと期間限定の観光名所になったりするらしい。

 まぁそんな大規模破壊を簡単に行える魔法士がこんな狭い室内で戦闘を始めようかというのだ。

 焦るのもよくわかる。


「はぁ、仕方ないですね・・・今回は、やめておきましょうか。魔法使同士の闘いは、あまり良いものではないですしね」


「空中でヘリが氷漬け、なんて展開が回避出来て良かったです」


「おや、それで言ったら私は空中でヘリが微塵切りになるという惨状を防いだ、という事になるんですかね」


「いやいやあんた始めなければ俺振らないから。ん、どうした夕華?」


  やっとのことで再起動した夕華が、不思議そうな目をして俺と有咲さんを交互に見ていた。


「えっと・・・魔法使同士?」


「・・・・・・ぁあ、言ってなかったんですか暁人?」


 夕華と有咲さん、ついでに実の3人の視線に射抜かれた。

 そう言えば、夕華と実には言ってなかった気がする。というか、言う必要もなかったし。


「暁人、あなた魔法使だったの?」


 有咲さんから開放された夕華が俺の前に立ち問う。


「いや、ごめん言い忘れてた。えーっと、俺、魔法使協会奈良支部所属の魔法使・・・」


 名乗るのもなんとなく気恥ずかしかったので、目の前の夕華から視線を横に逸しながら言うと、途端に夕華の顔がパァッと明るくなった。


「すごいわ!さすがは私の婚約者ね!」


「婚約?暁人、あなた結婚するんですか?」


「いや、まてまて俺まだ婚約するって決めてない」


「あら、ではいつ頃にその答えを聞かせてくれるのかしら?」


「こ、高校卒業までには・・・」


「婚約、つまり結婚するんですね・・・・・・。私なんて、恋人一人としていたことないのに、こうして上司は置いていかれるのですね・・・」


「いや、あの、有咲さん?」


 話を聞いていた有咲さんがバット入ってしまった。

 そう言えば、ちょっと前の会合で酔っ払った時に結婚したい、的なことを叫んでいた気がする。

 有咲さん程の人ならば、引く手数多だろうし、何よりナンパとかもされるのだろうが、問題は初対面時の取っ付きにくさにあると俺は思う。

 この人は、内面的には色々なことに興味を持ち、面白いことも大好きなのだが、如何せん表情がまぁーーーー変わらない。非常に変わらない。一度最近流行りのお笑い芸人の動画を端末で見て、笑っていた場面に出くわしたことがあるのだが、声は笑っているのに表情が一切変わらないが、その後感想を聞いたらしれっと「大変面白かったです」と言っていたので、ただ単に表情が変わらないのだ。

 ので、先程、俺がこうしてトラック事故で負傷した姿を見て彼女が笑ったのは、非常に珍しく、そして人気の芸人よりよっぽど面白かったのだろう。

 俺としては、非常に不本意である。


「暁人、一ついいですか?」


 俺が有咲さんのバット対応を諦めたタイミングで、次は実が喋り始めた。


「なーに?」


「暁人は、本当に魔法使なのですか?」


「本当だよ。魔術士と違って、魔法使の認定、資格は一度付けられたら死ぬまで一生外れない。俺は、小3のあの日から、これから先もずっと、死ぬまで魔法使だ」


「そうですか・・・・・・実はですね、夏風家の力で、貴方のパーソナルデータを見ました」


「え?まじで?結構恥ずかしいんだけど」
















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