その1ー11【魔法という頂】

 バチバチッ────────────


「「!」」


「うぅ・・・湿布貼られたぁ・・・・・・」


 俺が夕華によって貼られた湿布を服の上から摩っていると、まだ開いたままだった《ゲート》の白色に光る表面に紫電が迸った。

 更なる使徒が向こうの世界からその姿を現そうとしているのだ。


「また、なのね」


「夕華様、今のうちに逃げた方が・・・」


 2人は焦り、どうすれば良いのか迷っている。

 恐らく、先ほどの使徒の突進攻撃を見切れなかったこと、それによって自身の実力不足を痛感しことが原因だろう。

 あの攻撃が自身に向けば、対処などできずに死んでしまう。

 2人はそれをよく理解しているのだ。

 冷静だな、と感心して2人を見ていると、俺の魔力感知範囲内に馴染み深い魔力が進入してきた。

 現れたその魔力は高速でこちらに向かってきており、目的地は恐らくここなのだろう。


 この速度はヘリか。まずいな。


 助けが早く来ることは嬉しいが、生憎ここは地下。しかも天井には先ほど放った俺の斬撃による裂け目ができており、ヘリが真上に来るとその風圧で天井が崩落する可能性が高い。

 俺は急いで体制を整え、車椅子を自分で漕いで少し前に出た。


「2人とも避難だ」


「わかったわ」


「実、とりあえず先に出てくれ、上にヘリが来る」


「わかりました。助けて貰えないかアピールしてみます」


 実が走って向かった後、俺は夕華に車椅子を押されて外へ向かった。ギリギリ地下から地上へ通じるエレベーターも止まっていなかったようで、本当はこんな緊急時に乗ると停止とかして危ないのだが、そうも言ってられず俺たちはエレベーターに乗り込んだ。


「助けてくれるそうです!」


 エレベーターが止まり扉が開くと、ちょうど実の頭上から赤い作業服を着たレスキュー隊員が2名、ヘリから垂らされたロープを伝って降りてくるところだった。

 ただ残念なことに、降りてくるレスキュー隊員は俺の見知った顔であり、両足に包帯ぐるぐるで女の子に車椅子を押される俺を見て笑った。

 俺も非常にいたたまれない。


「ぷっ・・・あなたが要救助者ですね。直ぐに釣り上げます(笑)」


「ぷぷっ・・・大丈夫、安心してください(笑)」


 2人の言葉の末尾に、カッコで括られた“笑”が見える。


「チッ・・・早くしてくれ」


俺にできることは悔し紛れに舌打ちをして、背けることだけだ。


「「??」」


 夕華と実は訳が分からん、という顔をしていた。


「はぁ・・・・・・初めての経験だ。・・・屈辱」


 車椅子に乗った足の不自由な要救助者、つまり俺をヘリに乗せるためにあのレスキュー隊員達がとった方法は、俺をロープでぐるぐる巻きにしてまるで景品か何かのように釣り上げることだった。

 俺は首筋を掴まれた子猫のように、微動だにしないまま空へと釣り上げられるしかない。

 かなり、いやとんでもなく恥ずかしい。

 あいつら怪我が治ったらぶん殴ってやる。


「ほんとにダセェな、これ・・・・・・」


 下を見ると、夕華は控え目に、実は腹を抱えて笑っていた。


「はぁ・・・やっと解放され───────────」


 ついにヘリと同じ高度までたどり着き、俺を縛るロープを巻き上げていた機械が止まると、スキットに直立した女性と目が合った。


「「・・・」」


 直立する女性、簀巻きにされ釣り上げられた俺。

 無言の間が流れる。


「ぷっ──────久しぶりですね、暁人」


 臀部の留め具にかけた槍型デバイス、水縹色の長髪を風に揺らす姿、そしてその絶対零度とも言われた眼光が俺の目に映る。

 八幡 有咲、彼女の名前だ。


「今笑いましたね・・・はぁ、お久しぶりです」


 無表情のまま笑われたので非常にイラッとくるが、この人はただただ表情が硬いだけで面白いことには笑う、そういう人だ。

 釣り上げられた俺を見た彼女は、次に俺の両足へと視線を移した。


「両足を骨折した、とは聞いていましたが、思っていたより派手にやったようですね。まさかあなたほどの人が避け損ねるとは、余程特別なトラックだったんでしょうね。

 ──────まぁ、しかし丁度いいです」


「丁度いい?」


「・・・その、この前電話をした時ですね、あなたの怪我のことをほんのすこ~~しあの子にバラしてしまいまして・・・・・・」


 あの子。

 名前は言わずとも、俺たちの間ならそれで十分に通じる。

 そして、そいつに俺の怪我のことを話したとなれば、そいつが取る行動は一つ。


「えぇ!?ま、まさか?」


「今、その、近畿支部にいるので・・・・・・まぁ、その・・・ではっ!」


「あ、逃げた」
















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