その1-7【魔石刀[ドウジ切]】
「なんか・・・5日前にも来た気がするわね」
病院から少しゆっくり歩いて徒歩25分ほど、少し入り組んだ場所にある歴史を感じさせる日本家屋、道路と隣接する正面玄関の真上にかけられた大きな木製看板を見上げて、私はそう呟いた。
この日本家屋こそが関西圏で最も有名な、デバイスの整備と修理を請け負う店、成田整備店だ。
ちなみに私は言葉の通り、つい5日前にもこの店を訪れている。
「ごめんくださいっ」
物音ひとつしない店内で少し力を込めて叫ぶと、店の奥からパタパタとスリッパを履いたような足音が近づいてきた。
「無神 暁人の使いで参りました」
仕切りに掛けられた暖簾を潜り、現れたのは老齢の男性。この人が成田整備店の店主、成田 大吉だ。
「はいよ~──────ってなんだ、斯波の嬢ちゃんじゃねぇか。ん?嬢ちゃんが来るってことは、あの無神の坊主は夏風家に雇われたのかい?」
夏風家は、デバイスのシェア率が世界3位とも言われる香鳳カンパニー社長の家。香鳳カンパニーの商品の中には、いくつか成田整備店と共同開発の物も存在し、夏風家本家とそこに隣接する香鳳カンパニー本社で働く人間は福利厚生の一環で成田整備店での会計が2割引きされることになっているなど、この成田整備店は何かと夏風家との関係も深い。
ちなみに、2割引きになるのは一人3ヶ月に2回までだ。
「いえ、そういう訳ではなく。うーんと・・・まぁ、たまたま、ほんとーにたまたま付き合いが生まれたと、そういうことにしておいて下さい」
婚約者(?)になった。
というのは、何故か口が裂けても言うのをはばかられたので適当に誤魔化してしまった。
だが、そう言うと老店主は何故か落胆したような顔をした。
「そうかぁ。俺はてっきり、あの坊主が遂に定住先でも見つけたのかと思ってよぉ・・・」
「・・・それで、物はどちらに?」
これは話が始まったら長くなりそうだな、と判断した私は、本来の目的である暁人のデバイスの事を促した。
「っと、そうだったな・・・えーと、どこだったっけな?お、あったあったこれだ」
そう言って、老店主がカウンターの下から取り出したのは、日本刀型のデバイス。頭は青く、柄には黒い紐が巻かれていて目貫がなく、鍔は角が凹んだ丸四角、刀身は見えないが鞘は綺麗な曲線を描いている。
「2尺6寸5分、つまりは約80cm。無神の坊主の専用デバイス、[ドウジ切]だ」
「童子切というと、安綱作の、あの?」
「いや、流石に模造品ではある。こいつの名前も童に子、切って書くんじゃなくてドウジはカタカナで書くらしいぜ。無神の坊主曰くなっ」
童子切といえば、平安時代後期、源氏の棟梁であった源頼光が、酒呑童子という当時京都の大江山に集っていた鬼の首領を斬った際に使われた、という伝説を持つ刀。天下五剣と言われる日本の名刀の一つであり、昔は国宝として博物館、美術館などで管理されていたらしい。現代では魔術時代の幕を開ける動乱に巻き込まれ、所在不明となっている一振だ。
噂によると一度ネットオークションサイトに出品され、海外に渡ったのではないか、という話だ。
「刀身も見るかい?」
「・・・はい、お願いします」
一瞬、持ち主の許可なく刀を抜いてしまうのはどうか、とも思ったがなにか傷などがないか確認しておいた方がいいだろうと思い、私は了承した。
何より、見てみたい。
私の返事を聞き、老店主が柄を持って、刀身を鞘から引き抜くと、驚愕した。
「透明?」
もちろん完全に透明という訳ではない。刀身は少し白みがかっているが、それでも刀身を介して老店主の服の色が透けて見えるくらいには、透明なのだ。
「これは・・・?」
「なんだ坊主から聞いてないのか?」
「えぇ」
「こいつは魔石刀なんだ」
魔石刀。
その単語は広く、一般的なものだ。
ダンジョンで魔獣からの剥ぎ取ることで手に入れられ、デバイスの核でもある魔石。
他のデバイスは魔石を組み込んだ道具であるのに対し、魔石刀の刀身は完全に魔石で作られる。つまり、魔石で作られたデバイスということだ。そしてそんな魔石刀の中心である刀身の作り方は二つ。
小さな魔石を特殊な工法で繋ぎ合わせ、刀身を形作るという方法。
もう一つが、大きな一つの魔石を研磨し、刀身を形作るという方法だ。
そして私の目の前にあるこの刀身、この輝きは、明らかに──────
「嬢ちゃんの驚きは、よく分かる。俺も初めてあの坊主がここにこいつを持ってきた時、すげぇ驚いた。お察しの通り、これは単一魔石による魔石刀だ」
「これほどの魔石を、どうやって・・・」
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