その1-8【魔術士になるのは大変だ】

「さすが国立系、避難所もデッカイなぁ」


 避難所に入って、まず最初に思った事がそれだった。

 この避難所は病院の地下、ちょうどエントランスの真下ぐらいにあり、病院の敷地内数箇所から出入りすることが出来る。

 病院外を散歩中だった俺と夕華、あと数名が遅れてやってきた頃には避難所の中には既に大勢の人が避難していた。


「そうね。私の家の地下でも、ここまで大きくはないわ」


「そうか。・・・まぁどっちかというと普通、地下付きの家に住んでる方が珍しい感あるけどな。因みに夕華の家の地下室はどれくらいの大きさなの?」


「たしか、一番大きい部屋で126平方メートルよ」


「・・・教室二つ分?」


 記憶が確かであれば、校舎の標準設計において使われていた教室一つ分の大きさが63平方メートルだった筈なので、夏風家の地下室はちょうど教室二つ分の大きさを持っていることになる。

 正直、かなりでかい。


「まぁ、それくらいはあったかもしれないわね」


 というか、一番大きい部屋、と言っているので総合的に見るともっと大きいのだろう。流石夏風家。

 夕華に車椅子を押され、扉にほど近い壁際に移動する。ある程度まで押してもらい、最後に自分の手で車輪を回して微調整をしていると、夕華は受付で配られていた座布団を俺の横の床に敷き、その上に正座した。

 これがまぁ様になる。

 一瞬視界に映っただけでも当分は忘れなさそうなその綺麗な居住まいは、きっと習慣的に訓練してきたのだろう。


「にしても、このぐらいの深さで本当に大丈夫なのかしら?」


「地上にあるよりはマシだ。それに、《門》災害が本格化すればそんなことは関係ないさ」


 この避難所は、この病院の三つの避難所の中では最も浅い位置にある、らしい。らしい、というのはあと二つの避難所には俺や夕華は入ることが出来ないからだ。

 今、俺たちがいるこの避難所は入院患者や病院関係者以外にも、たまたまその場に居合わせたような人も入れるよう広く解放されているが、残りの二つはそうではない。

 残りの二つの避難所は、重傷者や生命維持装置が常時必要な、自分だけでは動くことが出来ず、かつ専用装置を必要とする重症患者専用の避難所なのだ。医者の先生やナースさんたち等の、医療技術を持つ人たちは大半がそちらに詰めていて、今俺たちがいるこの避難所はもちろんナースさんもいることにはいるが、受付などで対応してくれる事務員さんたちの方が圧倒的に多い。


「警備員の数も少ないわね」


 見える範囲にいる警備員は僅か三名。


「魔術士が少ないのは不安だが、俺たちはいざとなったら逃げれるから。そりゃあ動けない方に回すのが妥当だろ」


 現代で警備員になるには、魔術士の資格が必須であり。魔術士の総数が少ないことから、警備員の給与も国軍には並ばずともほど近い額まで上がっている。


「・・・それもそうね。まぁ、いざとなったら暁人は私が守るわ。私も魔術士だもの」


「え、まじで!?魔術士資格持ってんの?」


「えぇ、持っているわよ。中学卒業と同時に取得したわ」


 中学卒業。

 日本では、それと同時に魔術士資格試験への挑戦が許可されている。


「まじで? 天才じゃん」


 だがもちろん、それはとても狭き門なのだ。


「ふふっ、そうでもないわよ。先生たちがしっかり教えてくれたおかげね」


 現在、日本の魔術士は10万人前後だと言われている。これは東京都千代田区の人口の約2倍程の人数で、日本の総人口から考えると1250分の1と、とても少ない数だ。


「じゃあ夕華は、5つ以上の魔術が使えるんだな。羨ましい限りだよ」


「あら、暁人も使えるんじゃないの?どうやら、デバイスも相当いいのを持っているみたいだし」


「いやぁ、それが残念なことに俺は一つしか使えないんだよ。ま、才能がなかったってことだな」
















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