その1-4【幼馴染メイド、登場】

 目覚めてから一週間後。


「──────そろそろ夕華の来る頃か」


 朝一番に目にする病室の白い天井にも慣れ、先生から許可を貰えたのでそろそろリハビリでも始めようかという頃。


「失礼します」


「はーい──────って、どなた?」


 いつも夕華がやってくる時間帯に俺の病室に現れたのは、メイド服に身を包んだ少女だった。


「斯波 実と申します」


「あ、無神 暁人です。・・・じゃなくて」

 

 異国感溢れるキャラメルブロンドのボブカットに、何故か和風の給仕服。本来ミスマッチな二つは、少女から出る圧倒的な美少女オーラ?によってねじ伏せられるように調和していた。


「私の幼馴染で専属メイド、前に言っていた私の数少ない友達よ」


 斯波さんの背後から現れた夕華がそう説明した。

 いやまぁ、家にメイドさん雇うほどの広さもないし、というか俺自身に関係もないから主な原因は夕華だろうとは思っていたが。


「あ、あぁ~言ってた子ね。で、なしてメイドさん?」


「これより当分の間、暁人様の介助をするように仰せつかりました」


「え・・・あ、そうなの・・・・・・・?」


「夕華様は来週から始まる中間テストに向けて勉強に励まれるので、その間の代役です」


「私が来れない間、何かあったらこの子に言ってね。ほんとうに頼りになる子だから」


 同性で同い歳、しかも幼馴染の主従。

 夕華は斯波さんの肩に手を置いて自信満々の表情だ。

 夕華から視線を外し、斯波さんに向ける。

 キャラメルブロンドのボブカットは長く綺麗な銀色の髪を持つ夕華と並んでいると、もはや眩しいという程に映える。


「ありがたいけど・・・斯波さんはそれで大丈夫なのか?聞いた話だと斯波さんも同じ学校なんだろ、テストとか?」


「私のことは実とお呼びください、暁人様」


「ぁあ~、じゃあ俺も暁人でいいよ。流石に初めてあった同学年の女の子に“様”って呼ばれるのは、こう、男子高校生的にキツい」


 なんかすっごい気恥ずかしい。


「実はね。全国模試一桁常連の才媛なのよ。恐らく今回のテストも心配なし。し、心配なのは、たぶん私の方・・・」


 何故か知らんが、自分の言葉が自分に飛び火してガクガクと震え出す夕華。

 そんなに成績が悪いのだろうか?

 なんとなく、夕華が勉強が苦手なのは分かっていたが・・・。


「そこまで持ち上げられると、少々気恥ずかしいですが。そういうことなので、どうぞ身の回りの事は私におまかせ下さい、暁人」


 ・・・いや、良いんだけどね。良いんだけど、随分あっさり名前を呼ばれた気がする。

 うん。確かに俺が暁人と呼んでくれとは言ったけども。

 いやほら、こう、小説とかだとさ、メイドさんってこうお堅い人が多くて滅多に呼び捨てなんてしてくれないイメージがあるんだけど・・・。

 主人公とかが、下の名前でいいですよー、的なことを言ってもなかなか呼んでくれなくてちょっとした言い合いの末に“さん”付けで収まる、みたいな。

 今そういうのなかったなぁ。

 ナチュラルに呼ばれたなぁ。

 良いんだけど、物足りないなぁ。


「うん、よろしく実」


 内心のちょっとした動揺を表情に出すことなく、夕華にそうしたのと同じように俺は彼女に向けて左手を差し出した。


「えぇ、よろしくお願いします」


 実は、躊躇なく手を握り返した。


「それにしても、メイドさんって本当にいるんだな」


「日本風に言うとお手伝いさんだけれど、いることにはいるわ」


「斯波家は代々夏風家の従者をしている家ですので」


「代々!そりゃすごいな」


 そんな言い方をするのは、大正よりも前の時代だろう。

 正装が給仕服なのも頷ける。


「記録があるだけでも、江戸時代からの付き合いらしいわ」


「へぇ~」


 夏風家の歴史とかは分からないが、家宝の刀とかありそう。


「─────少し喉が渇いたわね。私、向こうにあった自販機で飲み物を買ってくるわ。実と暁人は何がいいかしら?」


「夕華様、私が参りますので、こちらでお待ちください」


「大丈夫よ。二人は初対面なんだし、話しておきたいこととかあるでしょう?私が行ってくるわ」


「・・・わかりました。それでしたら、何か果実系の飲み物をお願いします」


「俺は水とお茶以外だったら何でもいいよ」


「わかったわ」


 夕華が飲み物を買いに向かい、病室にはメイド服を着た同い歳の少女と、片足にギプスを着けられベッドから動けない男子高校生だけが残された。

 謎の緊張感があり、しばらく無言の間が続いた。

 まぁ、夕華がいたとしてもそこそこ喋る深窓の令嬢とかいう謎要素がプラスされるだけなので、そんなに変わらない気もするが。


「二つ、聞きたいことがあるんだ」


「私に答えられることでしたら、なんなりと」


「裕二さんは、なんて?」


 実の雰囲気が少し変わった。

 まぁそうだよな。娘が突然であったわけも分からない男と結婚したいって言ってるんだ、あの親バカ加減なら監視員くらい派遣して当然だろう。


「・・・」


「少し意地悪な質問だったな、すまない」


「いえ」


「二つ目の質問なんだけど」


「はい」


「それって素?」


「・・・お答えした方がよろしいですか?」


「うん」


 実が一度顔を伏せ、そのキャラメルブロンドの頭に乗ったメイドの冠とも言えるヘッドドレスを外した。



























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