運営の思惑。
「教えてくれ。なぜ今になってこんなシステムが? 俺、殺しは初めてじゃないぞ」
余りにもふざけたシステムが発覚したせいで、少し声を荒らげてしまう。
しかしレティはそんな事を露ほども気にせず、淡々とネタばらしをくれた。
『覚えておいでですか? ファーフトキルとなった例の中年男性は、ゲームスタート時にポーションを買って文無しでした』
その短い説明だけで、
「この、二つのキルログでポイントが違うのは、殺した奴の手持ちポイントって事か」
『ご明察です』
つまり、なんだ。初めて殺したあのオッサンは手持ちがゼロポイントだったからキルログに出なかったのか。このログはあくまでポイントの明細であり、ポイントが動かないなら基本的に更新はされない。
例外はリスタちゃんからのメッセージとシステムアナウンスだけだ。
「初キルがゼロポイントの雑魚だったから、システムは正常に動いたけど俺が気付けなかっただけか」
『プレイヤーキルによって解放されるシステムは有りませんからね。ログに残らなければ分からなくても仕方ないかと』
要するに、このゲームはプレイヤーも獲物なんだな?
そうか。分かった。腑に落ちたぜ。
「やけに優しいゲームだと思ってたんだが、こう言うことか」
そりゃ、町から追い出す仕組みが少ない訳だよ。PKが出来るってだけで充分すぎるもんな。
ああそうだよ。雑魚のままだと狩猟対象になってしまうから、どうやっても外に出て強くなる必要があるんだ。じゃないと街中ですらレアエネミー扱いされて殺される。ここはそう言うゲームなんだ。
って事は、コイツらはポイント目当てで俺を襲って来たのか? 金髪クソ野郎は俺を殺したくて、タンクトップ達は俺を殺した時のポイントが欲しかった。金髪クソ野郎が俺のポイントを諦めれば、お互いに手を組む事に問題は無かったんだな。
「でも、そうすると初心者なんか殺され放題じゃないか? 一度に大漁の死人は困るんだろ? 浄化システム的に」
『はい。なので救済措置は当然ありますよ。ゲームスタートから半日以内のプレイヤーはポイントになりません』
リスキルは禁止って事か。
「教えてくれたのは、初めてキルポイントが手に入ったからか?」
『そうですね。いつも通りの理由です』
マジか。いやマジか。これホント子供に優しくないゲームだな。
「…………あぁ、だからか。レティは確か、クズが組織を作った後に自警団が出来るって言ってたよな。あれは遠回しなヒントだったんだな」
人を殺せる奴は、遅かれ早かれ殺すだろう。そしてキルポイントの存在に気が付き、モンスターを殺すよりも楽にポイントを手に入れる方法を知るのだ。
結果それ専門の組織化が始まるのは自明。ポイント持ってるプレイヤーを不意打ちしてサックリ殺すなら、協力者は居た方が明らかに楽。
そして一人で殺そうとすると手間ばかり増えて、もし正面から向かい合う事にでもなったら返り討ちの危険が生まれる。
ならば、騙して殺す
そしてそんなクソみたいな環境に置かれた善人サイドがどんな行動に出るかと言えば、まぁ自警団が精々だろ。
被害を完全に抑えたかったら怪しいヤツを先制して殲滅するしか手が無い。じゃないと被害が出てから犯人は誰か調べる方法以外に、下手人を潰す方法が無い。
だが、それを出来る人間ならどっちかって言うとクズサイドの人材だろう。簡単にパパっと人が殺せないから善人は善人なのだ。
まったく、ルールとは言えこのクソ仕様を教えてくれないなんて、いくらなんでも酷すぎる。
──……と思ったが、レティは自分に出来る最大限でヒントを既にくれてたのだ。それに気が付けなかった俺がマヌケなだけで。
「しかも特級にヤベェ情報で笑うわ」
被害を減らすなら公開すべき情報だろう。しかし不用意にバラせば、善人サイドに居るかも知れない潜在的なサイコパスにも火を付ける可能性がある。流しずらい情報だ。
警戒を促す為に流した情報で、潜在的なサイコパスや犯罪者が「えっ、殺すとポイント貰えるん!? じゃぁ殺そう♡」ってなったら洒落にならない。本末転倒とさえ言える。
「俺にこんな情報、どうしろと……」
仲間内にだけ教えるのが精々だろうが、しかしウチのメンツは子供にだって多い。ちゃんと隠し通せるか不安である。
だが一番教えておくべきなのも子供達だ。簡単に騙せてポイントもそこそこ持ってるなんて、カモ以外の何物でもない。
「と言うか、コイツらだって何故俺を狙ったんだ?」
その答えは出てるが、そうじゃない。
俺ってこの世界だとトップレベルに戦える奴のはずだ。最初に狙う手合いとしては微妙だと思う。
発覚した時のリスクがデカすぎるし、実際に三人掛かりで来て二人死んでる。俺の考えがそう間違ってない事の証左と言える。
なぜ、このタイミングで俺を狙った?
尋問しようにも、金髪は逃げてるし、女もタンクトップも殺してしまった。死人に口なし、とは捉える側にも言える事。
「…………どうしたもんかねぇ」
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