矢の使い方。



「なぁ、ダーツの起源って知ってるか?」


「ッッ……!?」


 槍がウザくて距離を詰められ無い。しかし距離を離すと金髪からの援護射撃が入るだろうし、吹き矢と弓なら再装填どっちが早いか分かったもんじゃねぇ。


 だから俺は、矢を投げた。


「クソがァッ!?」


 言わずと知れた大衆娯楽、ダーツ。離れた場所から的に向かって短い矢を投げる遊びであり、現代ならネカフェやゲーセンにでも行けば誰でも手軽に楽しめるし、百均で良いなら粗末な家庭用のセットが数百円で揃うだろう。


「番えなきゃてねぇなんて誰が言ったよ! 矢はそのままだって使えんだよバーカ!」


 その起源は狩人のちょっとした暇潰しであり、輪切りにした丸太を立て掛けて的にし、矢を手で投げたのが始まりとされてる。


 丸太の年輪やヒビ割れを上手いこと点数分けして行われたそれは、現代のダーツボードに色濃く名残がある程には、起源との関係が深いと分かる。


 何が言いたいか? つまりダーツの起源になるくらいに、矢ってのは実のところ手でも投げられるのだ。


「チィッ……!」


 もちろん、大した威力なんて無い。飛距離も当然無いし、仮に当たったとして1センチも刺されば奇跡的な結果と言える。


 だがそれでも、タンクトップのクソ野郎は避けざるを得ない。だって自分も毒を使うのに、俺が毒を使わないなんて楽観は出来ないから。


 吹き矢と弓矢。奇しくも同じく『矢』を武器とする者として、毒の有用性はよく分かってるんだろう。


 ハントレットから矢を取り出しては投げ、距離を離されすぎないように近付いては矢を投げる。金髪からの援護も阻害しながら渡り合う。


「しまっ──……」


「詰めが甘ぇんだよタンクトップ」


 体捌きで矢を避け、無理なら槍で弾くタンクトップの隙を見て、俺はトリックスターを起動して奴の足を狙った。


「こんなもんッ──……」


 すぐに槍を振り回してワイヤーを弾き飛ばし、ついで俺の接近を阻むタンクトップだが、トリックスターで足を搦め取られたせいでバランスを崩して地面に両手をついてしまった。


 チャンス。


 トリックスターを装備したまま、レイヴンを召喚して矢を番える。狙いはタンクトップ……、では無く振り返って金髪クソ野郎!


「死ねやオラァァアッ!」


 俺を撃とうと銃だけは構えてた金髪の脳天に向かって矢を放つ。また咄嗟に銃で防御するが、二度のクリティカルヒットを防御したのが祟って明らかに銃が破損した。


 追撃で確実に殺そうとするが、流石に二射目は背後のタンクトップに妨害される。


「はんっ、援護が無けりゃ……!」


 明らかに撃てなくなった銃なんて怖くない。俺は横一閃に振られた槍を転がるように避けて、そのまま奴と距離を取る。槍を振った状態から吹き矢を装填するなら、俺がこのまま矢を番えて放つ方が早い。


 もうタンクトップと距離が離れても邪魔されない。銃は壊した。だったらコイツはもう怖くない。


「るぁアッ……!」


「ギッ──……!?」


 今度こそタンクトップの頭に矢をぶち込んでやった。そして振り返って金髪を────…………。


「………………クソがっ! 逃げてんじゃねぇよ!」


 今度こそ殺してやろうと振り返れば、もうそこには金髪クソ野郎の姿が無かった。銃が壊れた時点で逃げ出しやがったなあいつ。


 結局、名前も知らん女と名前も知らんタンクトップの首だけが手に入り、名前も知らん金髪クソ野郎は逃がしてしまった。マジでクソ。


「なんだってんだよ……、どうして狙われた?」


 金髪クソ野郎なら分かる。俺に恨みがあるだろうから。


 だがこの二人はなんだ? なんで俺を殺そうとした? 金髪クソ野郎の仲間だとして、手を組んだ理由は?


 あの金髪が、人を雇える程に潤沢なポイントを持ってたとは思えない。なら、この二人は何を見返りに俺を殺そうとしたんだ? まさか、無償ロハで手を貸した訳でも無いだろ?


「分からん。全然分からん」


『分かりませんか?』


 血の匂いが漂う場所で悩んでると、俺の手首からそんな質問を投げられた。いや、質問と言うよりは確認か。


「分からん。レティは分かるのか?」


『予想で良ければ』


「教えてくれ」


『では、ポイント収支のログをご覧下さい』


「あ? ログ?」


 なぜに今、ログの確認? まぁ、やれと言われたなら、やりますけども。






 ・プレイヤーキル:29560P

 ・プレイヤーキル:3047P






「……………………は?」


 プレイヤー、キル? ちょっとごめん意味が分からない。


『当ゲームは、ので』


 余りにも分からなすぎて、レティの言葉さえ耳を素通りして行った。


 だけど一つだけ理解した。このゲームは、ぬくぬくと街で遊ぶだけの存在を認めてくれないらしい。


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