もっとマイナー。
俺がそれを避けられたのは、単に偶然の要素が大きかった。
まず、凶事によって現場が静まり返ってた事。
そして次に、それは射程が短く、そして発射時に独特の音を僅かに出さざるを得ない武器だったから。
「……ッッ!?」
俺は金髪クソ野郎にトドメの一矢を放とうとする寸前、ソレを聞いてゾッとした俺は弓を投げ出してその場に伏せた。
「──なっ!? なんで今の避けられんだよッ!?」
その声は完全に知らない声だった。
トドメを刺し損ねた金髪クソ野郎なんてもう意識に無く、地べたへ無様に転がりながら背後を振り返れば、もう完全に見知らぬ男が俺に向かって走って来る所だった。
男は黒髪で筋肉質、服はタンクトップに短パンとスポーツサンダルで浅黒い肌をした男だ。
手にはパイプに刃物を括り付けた手製の槍を持って居て、その刃を俺に向けて走ってくる。距離にして10メートル程か。
しかし、男は間違いなく俺が「避けた」と口にした。なんで避けられんだよと。つまりたった今なにかしらの遠距離攻撃を俺に対して行ったはずだ。
それはどんな攻撃だったのか? 幸い、俺はそれを知っていた。
「……ブロウパイプっ!」
「クソこんなマイナー武器まで知ってんのかよ!?」
ブロウパイプ。要するに、『吹き矢』である。
男は吹き矢用のパイプに刃物を括り付けて槍としても使ってるのだ。いやに実践的な装備だと言える。
「ぬかったぁっ……!」
その存在を完全に忘れてた。下手したら銃よりも気にしなきゃいけなかった武器なのに。
吹き矢。それは立派な狩猟武器である。
カンボジアだかマレーシアだか、色んな場所で今でも現役で使われてる殺傷兵器であり、その多くは毒物と併用して使う致死性の武器だ。
射程は短いが矢の装填に習熟すれば割りと連射が効くうえに、音が少なく弓よりも静音性に優れてる。
使う毒によっては掠っただけで確殺を取られる『実質的な即死武器』にすらなる恐ろしい道具であり、弓よりも手軽に用意出来る遠距離武器でもある。
現代日本に於いて弓は希少武器で、弓道家かアーチェリー競技者のどちらかくらいしか持ってないだろう。
そして銃も言わずもがな希少武器だ。猟師かクレー射撃競技者くらいしか持ってないレア武器だ 。
だから、遠距離武器に対する意識が下がってた。レア武器ってことはつまり所持者が少ないって事だから。
しかし、パイプなんて誰でも用意出来る。パイプに詰められる尖った物を用意すれば大体なんでも矢に出来る。それで吹き矢は完成するのだ。
俺がヘルヘルにぶち込んだリシンなんて毒でも用意すれば、それこそ解毒不能の確殺武器となり得るのに、俺はその可能性を忘れてた。
いや、リシンは遅効性だし効く前にポーション飲めば助かる? 治らなかった場合はイコール確定の死だから試す気にならん。
「吹き矢に槍とか、ボルネオの原住民かよっ!」
「はんっ、ネイチャードキュメンタリーは楽しいよなぁ! 俺も良く見たぜぇ!」
肉薄する男が突き出す槍を、右手に持ったリリーサー兼用ナイフで弾く。
「そもそも誰だよテメェ!? 邪魔すんな!」
「そうは行かねぇのさぁ!」
しかしながら、マジで誰だよコイツ。本気で知らない奴だし、攻撃される筋合いが無さすぎる。
「レティ! 放り投げたレイヴンの回収は可能か!?」
『可能です。ウェポンラックに回収しておきます』
日本人は吹き矢と言うと忍者とかが持ってる短い物を想像するだろうが、狩猟用の吹き矢はパイプが身の丈よりも長く、その射程は40メートルにも迫る。
成人男性の身長をも超えるパイプに刃物を取り付けた槍兼用吹き矢のリーチは洒落にならず、俺は放り投げたレイヴンの回収に意識を割けなかった。レティがラックに回収してくれて助かった。
「いやマジでなんなんだよお前ぇ!」
ナイフで槍を捌きながら間合いを詰めようとするが、見知らぬ男は槍の使い方が上手かった。容易に近付けやしない。
離れすぎると仕留めそこやった金髪クソ野郎からの狙撃も再開されるだろうし、今の俺は割りと酷い状況だと言える。
進めず、下がれず、何故か命を狙われ続けてる。
いや、金髪クソ野郎から狙われるのは仕方ないよ。俺も逆の立場なら同じことすると思うし。逆恨みだとは思うが納得もしよう。
だがしかし、目の前のタンクトップはマジでなんなんだ。お前はなんで俺を殺そうとするんだ。それにどんな利益が発生するんだ。
クソが。段々イライラして来た。もう良い知らん。覚悟しろよタンクトップのクソ野郎。
「殺そうとして来てんだから、殺されても文句ねぇよなぁ!?」
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