レア武器。



「…………は? え、もしかしてこれ、ドリリング?」


 女を逃げられなくした上で武器を奪い、これから公衆の面前で公開尋問といく前に、俺は襲撃者が持っていた武器に注目した。


 俺は弓猟に憧れていたアホであり、しかし猟そのものも技術として修めるべく武器を選ばずにそれを調べもした。


 その時に、面白い銃存在を知って、記憶の片隅に置いといたのだ。


 それがこの銃、M30ドリリング。


 パッと見はレトロ風な水平二連ショットガンなのだが、この銃は面白い事に水平二連銃身ダブルバレルの下にもう一つ、ライフル弾用のバレルが存在する『散弾ショットシェル小銃ライフル弾の併用』が可能な珍しい猟銃なのだ。


 かなりのレア物で、販売からたった一年しか製造されなかった幻の銃でもある。


 製造数が三千にも届かず、世界にたった二千と五百未満しか無いレア中のレア。


 これ買うのに数万ドルは必要な高級な骨董品だ。


「水平二連なのに音がライフルだったからおかしいなとは思ったけど……」


 数万ドルってつまり日本円だと数百万はするコレクションアイテムだ。こんな銃を、この女が持ってる?


「おい。これお前の武器じゃねぇだろ? 誰に唆された」


「ぐぅうッ……」


 これを日本人が持ってる時点でかなり変な気がするけど、まぁ元は猟銃として販売してた物だし、頑張れば日本にも持ってこれるのかも?


 じゃなきゃ、ここは日本サーバーだけど持ち主はアメリカに居たとかそんな感じか。


 ただ、どっちにしろ一挺で数百万もするレア武器をこの女がコレクションしてたとは思えない。と言うか銃なんて持ってんなら娼婦プレイなんてしなくてもポイントは稼げたはずだ。


 てことは、コイツは主犯に唆されて俺を殺しに来た実行犯でしかない。恐らく銃の持ち主である主犯は別に居る。


 今思えば、最初に接触して来た時にも袖にした瞬間に舌打ちして消えるとか不可解なモーションを取ってた。


 つまりあれは、俺がコイツを買ってノコノコとハウジングまで行ってたら主犯に撃ち殺されてた可能性もあったのか。怖っ…………。


 獲物との生存競争に負けて死ぬなら受け入れるが、こんな下らない対人トラブルで殺されるなんざゴメンだぞ。


 これは何としても、主犯を暴かなきゃな。


「にいちゃん危ない……!」


 とか思ってたら、どうやら主犯の方からお出ましらしい。


 チビの悲鳴が聞こえた瞬間にはドリリングを放り出してその場に伏せてた。ついでにレイヴンとリリーサーを召喚し、逆手に持ったリリーサーのナイフを女の胸に突き立てた。


 主犯が来るならお前は用済みだわ。


 俺が頭を伏せた瞬間、破裂音と共に俺の頭上を何かが通り過ぎてった気配だけは分かった。危ねぇ反応遅かったらヘッドショットで死んでたわ!


 地面を転がるようにして殺した女から距離を取って立て直す。


 銃声が聞こえた方向を見れば、プレイヤー用ハウジングの影から俺を狙撃した奴の姿がハッキリと見えた。


「…………あの野郎ッ!」


 それは見覚えのある金髪で、少し前に俺が凹ませ大学生風のチャラ男だった。


 膝立ちで俺を狙ってたそいつは、仕留め損なったと分かったら舌打ちを一つして、手に持った銃のボルトを操作し次弾を装填した。


 そうだよな。日本で手に入る銃って言えば、水平二連か垂直二連のブレイクオープン。もしくはボルトアクションかポンプアクションのライフルだけだよな。


「死ね……!」


 再び俺を狙おうとする金髪に対し、俺もすかさずレイヴンを射る。


 距離にして60くらいか? 残念だったな。この距離なら弓より銃の方が強いと思ったか? 馬鹿め!


「中途半端なんだよテメェ!」


 こと人を狙う時に於いて、弓と銃を比べた時に銃が勝ってる点って、実のところそんなに多くない。


 そも、人間はノロマな生き物だ。自分に向かって飛んでくる飛翔物に対してそんなに機敏に避ける事など出来やしない。


 例え子供が投げた石だって数メートルの距離じゃ避けられない生き物なんだから、それが例え60メートルもの距離があったとて、音速を越えた銃弾でも音速未満の矢弾でも、『避けられない』って点では変わりないのだ。


 お前秒速160メートルの矢を60メートルの距離で避けられんのか!? 


 この距離なら約0.3秒で届くんだぞバーカ!


「グギィッ……!?」


 ガギッと音がして、どうやら一発目はギリッギリで猟銃を使って弾いたらしい。だが俺を狙う銃を防御に使ったな?


 コンパウンドボウが放つ矢の威力は相当な物だ。獲物の体をぶち抜いて貫通する狩猟用の威力は伊達じゃない。


 男は猟銃でガードした代償に、猟銃が手から弾かれて丸腰になる。


「0.3秒に対応したのは褒めてやるよ!」


 俺はすかさず二の矢を番えて引き絞る。レイヴンの感覚型照準器のおかげで60メートルなんて無いに等しい。


「死ねっ!」


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