歩き方の授業。
教えるのはまず歩き方。
山と森でもまた違うのだが、共通する点としては『人が歩く為の道が無い』事が挙げられる。
もちろんハイキングコースなんかがある山などを並べて「歩く道有りますけどぉ!?」とか言い始めるアホは廊下に立っとれ。
人の手が入ってる場所に道があるのは当たり前だろダボが。人はが集まる場所には建物よりも水場よりも餌場よりも、まず最初に出来るのが『道』だっつの。
さて、大っぴらに道が無くても人の手が入った森や山と手付かずのそれらでもまた条件がかわる。
何故なら前述の通りに人が居ればまず最初に道が出来るからだ。
ただ一人がそこを歩くだけで、土が踏み固められ、枝葉は折られ、邪魔な
草むらを歩いただけでも草木が踏み折られてそこが道となる。
「分かるか? 人と言う大型の動物が移動して、それでなんの変化も無いほど森も山も図太くない。必ずそこに道が生まれる。それを何日も、何ヶ月も続けばさぞ歩き易い道となる」
歩き易いように、道を塞ぐ枝は切られて行く。踏み折られて土が固まった草むらはやがて枯れ、自然が自然とそこに道を定める。
それを繰り返したのが人の手が入った自然な訳だ。
これに比べると、人がほぼ入ったことが無い自然って言うのは想像を絶する程に歩き難い。
「…………じゃぁ、この森は人の手が入ってる森と思ってもいいんですか?」
「そうだな。二重の意味で」
レイナに問われたので頷いて返す。
この森は俺が何度も入って手を入れてるし、もっと言うと最初から歩き易かった。
多分、ゲームとしてデザインされてるからある程度最初から人が移動し易い森にされてるんだろう。
そも、本格的に人が手を入れてる植林地のように木々のスペースが空いている。木々が密集して通れないなんてガチ未開の森って感じはしない。
「だが、だからと言って素人が問題無く歩けるかと言われれば答えはノーだ」
「一番はやっぱり慣れる事だが、狩猟をするならその上で、『野生の歩き方』と言う概念を意識する必要がある」
山や森は、木々も草も視界を遮る要素がオンパレードな場所だが、だが人が思うよりずっと視界が通るし、人が考える倍は視界を塞がれる。
「ようは獲物からは丸見えで俺達は獲物を見付けられないって事だな」
この森に居る肉食獣はレベリアストとガルガル、ヘルヘルの三種類で、ガルガルは条件付きで出現するから置いておく。ヘルヘルも洞窟から基本的に出て来ないから無視で良い。
しかし、レベリアスト系は普通に徘徊してるモンスターだ。
「俺達人間からの視界は通らず、群れで活動する人間サイズの肉食獣からは先に補足される。この危険性については
人間は脆弱な生き物だ。ちょっと頭に落石が当たるだけで簡単に死ぬ。急所を守るはずの頭蓋骨がこんなに脆い生き物も珍しいんじゃないか?
そんなクッソ弱い人間様が、人間よりも力が強い肉食獣に先制攻撃されたらどれほど危ないかは語るまでも無い。しかも群れで囲まれてたらほぼ詰みだ。
「……え、私達って毎日こんなに危ないことしてたの?」
「まぁ、武器も有るから完全に俺達が格下って訳でも無いだろ。実際撃退はしてるし」
その辺少し気になったので聞いてみると、レベリアストは群れの数を減らされて敵対パーティと同数になったら、その時点で逃げ出すらしい。
ふむ、それは知らなかったな。俺ソロだし。
「まぁ良いや。とにかく、人は森で生きるのに適してないんだ。だからその分警戒しなきゃならない」
「具体的には?」
「まずこれから教える道の選び方を覚えろ。それで、歩いてる途中はどんな風に視界を動かすのかを体に叩き込め」
長い講釈が終わった俺は、そのまま森の歩き方と視線の運び方を教える。
「ほれ、此処からあの木まで歩くと、そこの木がブラインドになってソッチ方面をカバー出来るだろ? だから木に隠れて無い方向に視線を向けて、あっちの倒木なんかを気にしろ。ああ言うのは手軽に隠れられるアンブッシュだから危ないし、逆に俺らも利用出来るから早めに安全かどうかを確認しておけ」
一つ一つ教えていく。
「なら、此処から向こうに動きたい場合は、このルートで……」
「そうそう。それで、今視界の運び方を迷ったな? あっちの根っこが浮いてる木から順に右へ確認しろ。そっちの方面は視界が通ってるから遠くまで見やすい」
木の根や草むらを歩けば足跡が消せて痕跡を残さないが、その代わり音が出るから気を付けるように全員へ教えてく。
「警戒する優先順位を常に考えて目を動かせ。リアルなら茂みの中に熊とか居て知らずに近寄るとか普通にあるからな」
このご時世でも熊に殺されるって被害が減らないのはそういう事なのだ。普通の獣は隠れる事も上手い。
「足音を立てないのは基本だ。そこからプラスアルファを常に思考しろ。……まぁ今日中に出来るとも思ってないし、少しずつ覚えてけ。次は獲物の追い方を簡単に教える」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます