合同訓練。



 あの後、根性と腕っぷしで生きてきた癖に使い物にならねぇツヨシの面倒は俺が見ることになった。


 流石に馬鹿やって子供に怪我させたアホとかチビの傍に置いておけねぇ。


 ツヨシは見たまんま脳筋なので弓も使えないが、だから仕方ないのでショップで剣と防具を買い与えて戦力とした。


「借金だからな」


「絶対に返しやす!」


 ツヨシのハントレットと俺のレティで契約を結んだので、どちらかが死なない限りは踏み倒せない借金として武器代を立て替える。


 そんなこんなで翌日。ツヨシを連れて森へ行く。この世界で人間がどれほど雑魚いか教えてやる。


 ちなみに、ツヨシはチビ達の家で厄介になってる。住む場所はマジで仕方ねぇ。こっちは女の子ばっかりなので論外だし、ツヨシもチビ達に償いをしたいって言うので、チビ達の家で家事などをやらせてる。


 意外と料理とかも出来るらしく、チビ達は喜んでた。


「ツヨシ、お前を今日から森に連れてくけどな。今のお前は飯も、住む場所も、全部子供の世話になってるなっさけねぇ大人だからな。死ぬ気で稼げよ」


「勿論でさぁ!」


 ガチで死ぬ気でやらせようと、朝早くからツヨシを連れて大通りを歩く。


「ん? なんだ?」


 そうして町を抜けて草原に出ようとすると、門の内側で人が並んでこっちを見てた。見たことある顔も居る。見覚えのない奴は二陣の新規プレイヤーか、マジで俺が興味なくて覚えてない奴だろう。


 近付きながら確認すると、こっちを見て門で待ってる奴は全部で九人。その内の六人は覚えてる。


「どうした、なんか用か?」


「あー、いや。ちょっとガチ弓さんに頼み事があってさ……」


「まずそのガチ弓言うの止めろ。俺はアキラだ」


 待ってた奴らは、俺以外で森に入って獲物を得てる三人組達だ。二組が全員揃ってる。見た事無いやつは新規プレイヤーを勧誘でもしたのか?


「分かった、アキラな。俺はカズ」


「私はレイナ」


 二組のリーダーがそれぞれ挨拶代わりに名乗って来たが、覚えられるかどうかは分からない。言うほどコイツらに興味無いからな。


「で、なんの用? 今から狩りなんだけど」


「その狩りの事で相談なんだよ」


「その、…………私達にも教えてくれないかしら?」


 あん? なんて?


「俺に教わらなくたって、お前だって成果は上げてるだろ?」


「毎日限界まで頑張って三頭くらいだけだがな」


「流石に、このままじゃダメだと思って……」


 コイツらが言うには、昨日のツヨシ土下座イベントを見てたらしく、その時に俺がツヨシの面倒を見るって言った時も見てたらしい。


 それで、良い機会だから、馬鹿みたいに獲物を狩ってる俺に教えを乞う決心が着いたらしい。前々から考えてたが、一人面倒を見るなら二人三人と増えてもまだマシだろうと、俺に気を使った結果だそうだ。


 二組が一緒に居るのは完全に偶然で、たまたま此処で待ってたら同じ目的だったと言う。


「まぁ構わんが、俺のメリットは? 確かに俺はかなり稼いでて余裕があるが、だからって自分の食い扶持を持てる大人まで助けてやる程じゃねぇぞ。次のエリアだって買いてぇし、装備もまだまだ揃えたい。ポイントはいくらあっても足りないくらいだ」


 当然、人に教えるならその分俺の稼ぎは減る。それは直接的な損害だ。


「勿論、授業料は払うわ」


「アキラの稼ぎに見合うかどうかは分からないが……」


「それと、狩りのやり方を教えてもらったなら、人手が必要な時は呼んでもらって構わないわ。これから先、便利に使える手駒が増えるとでも思って欲しいの」


 ふむ。それなら悪くないか?


 ラスボスはソロで狩るつもりだが、それまでは効率重視で人手が必要な事もあるだろう。


 普通の猟だって勢子せこは有効な手段だ。


 勢子と言うのは、大声を上げながら獲物を追い回したりする役の事だ。そうやって獲物の逃走ルートを狩人が操作することで様々な狩猟に役立てたりする。


 射手が潜んでる場所に誘導したり、罠が仕込んである場所に誘い込んだり、とにかくキルゾーンに向かって追い回すのが勢子である。


 まぁこの世界の獲物は人を見ると襲ってくるから、勢子のやり方は工夫しないとダメだろうけど。


「んー、分かった。とりあえず移動しながら条件を詰めよう。そっちも狩りを少し教わっただけで何回も死地に呼び出されちゃ敵わんだろうし。払ってもらうポイントについても相談しよう」


「恩に着るぜ」


「助かるわ」


 こうして、俺は何故かツヨシ以外にも森での狩りを教える事になったのだった。

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