舎弟。



「兄貴、おはようございやす!」


「誰が兄貴か」


 第二陣を町に迎え入れた翌日。俺は狩りに向かう為に朝早くから家を出るた。


 すると門の前に人影が一つ、ずっとそこで動かない様子が見えたので何事かと思ったのだが、門から出て見るとそこには馬鹿が居た。


「お勤めでしょうかっ!? お供いたしやす!」


「とりあえず『お勤め』言うの止めろや。俺は筋者じゃねぇし捕まってもねぇしコレから自首する予定もねぇよ」


 ツッコミが追い付かねえ。


 この三下口調で俺をヤクザの親分みたいに扱う馬鹿は、アレだ。昨日ぶん殴ったアホだ。ツラ貸せって言うから顔面潰してやったアイツだ。


 え、なに。なんで俺、これに懐かれたの? 殴って懐かれるヤンキーの謎理論こわっ……。


「待って待って。マジで突っ込みが追い付かん。まずなに、お前は昨日の今日でどんな了見で俺を兄貴とか呼ぶの? 全部説明してくれない?」


「分かりやした。ご説明させて頂きやす!」


 あとその三下口調も気が散るから止めろ。


「俺は兄貴の強さと漢気に感動したんでさぁ!」


 待て初手から突っ込みどころってどう言う了見なんだよマジで。俺のどこに漢気を感じたんだこの馬鹿は。


 もう秒で突っ込みたい。だが話の腰を折っても仕方ないだろう。俺の予想だと一つ一つに突っ込みを入れてたら日が暮れるだろうと思う。


 比喩じゃない。本当に日が暮れるほどに時間を使う。


 さて、説明を最後まで聞いた結果、ヤンキー特有の謎理論は依然として謎だったけど、全体的には一定の理解を得られた。


 まず馬鹿の名前はツヨシと言う。ツヨシは目が覚めた後、俺に釘を刺された後に周りで見てた奴らに『自分がどうなってたか』を聞いて回ったらしい。


 すると、『顔面が凹んでほぼ死んでた』『不思議な薬で治して貰わなかったら多分死んでた』『ほぼ死んでた』『むしろ生きてるのちょっとキモいから近寄らないで』等々、色々と聞けた訳だ。


 その結果ツヨシは、俺の事を『パンチ一発で自分を殺せる腕っ節を持って、なおかつ一度は生意気な自分を許して治す度量もある漢』だと認識したそうだ。馬鹿なのか。


 しかし、一度そう言う色眼鏡を装備してしまうと、その後に聞く様々な情報は全てプラス補正が働いてしまう物。実際にプラスな事情だったならその感動も相応だっただろう。


 曰く、襲われた女の子を守る為に暴漢を躊躇わずに射殺した人殺し。


 曰く、大した見返りも無く子供を保護して回ってる偽善者。


 曰く、右も左も分からないプレイヤーの一部に格安で防具を作れる方法を伝授してその命を救った英雄。


 等々、色々と聞いたツヨシは『マジで漢じゃねぇか!』と感動したらしい。何故だツヨシよ。


 そうした事があり、ツヨシはいきなり「ツラ貸せ」と無礼を働いた上に命を助けてもらったお詫びとお礼に、舎弟になる事を決意したんだとか。


 はっはっはっはっはっ要らねぇ。超要らねぇ


「お前はまず、俺の舎弟になる前にガキ共から生きる術を学べ。この世界だと喧嘩の相手は人じゃなくてバケモンなんだよ」


「しかし兄貴……」


「良いから、なんも言わずに一旦ガキ共に頭下げて教わってこい。俺の言ってる意味が分かるから。多分」


 俺はツヨシをタケルに押し付けた。ごめんタケル。


「タケルとシャトから合格貰ったら俺んとこ来い。そしたら森で扱き使ってやるよ」


 ごめんシャト。タケルのサポート頼んだ。


「…………はい。分かりやした」


 ◇


「タケルの兄ぃ! シャトの姐さん! 本当にすんませんでしたッ!」


「ん。もっと反省すると良い」


「えと、僕はもうだいじょうぶ……」


 少し気になって早めに帰ってきた俺は、少し日が沈み始めた広場で土下座してるツヨシを見付けた。何やってんだアイツ。


「どうした?」


「あ、兄貴ぃ! 兄貴の言う通り、俺ァとんでもねぇ未熟モンでしたぁ!」


 ギャン泣きして頭下げまくるツヨシがうっとおしいからシャトに事情を聞いた。


 なんか、ツヨシがイキって「俺に任せろ」と言うからポポポ狩りを任せたら、仕留め損なってる奴を放置したせいで鳥を召喚して死にかけたそうだ。


 それをタケルが身を呈して守りながら、シャトが指揮するチビッ子パーティで鳥を射殺したらしい。


 タケルはその時に怪我をしたらしいが、もうポーションで完治してる。


 が、俺はそれを聞いて、頭を下げてるツヨシの髪を掴んで持ち上げた。


「お前、タケルに怪我させたのか?」


「すいやせんっ! 本当にすいやせんでしたっ!」


 本人も自分が情けなくて仕方ないんだろう。もうガチで泣いて謝り続けてる。しかし、俺も一言言っとかなきゃならない。


「てめぇ、自分のケツをこんな小さな子供に拭かせたんだよな? 恥ずかしくねぇのか」


 俺が痛い所を突っつくと、ツヨシは本気で恥ずかしいんだろう。歯を食いしばってうぐぅ〜と泣いている。


「タケル、俺がコイツを任せたばっかりにごめんな。コイツが気に入らないなら俺がキッチリ殺しとくけど……」


「だ、だいじょうぶだよ!? ころさないであげてっ!」


「タケルは優しいなぁ」


 しかし、軽い気持ちで馬鹿の世話を任せた俺の責任は大きいだろう。


「とりあえず、消費させちゃったポーション分は俺が補填するし、今日ツヨシのせいで稼げなかった分も俺が出すから」


「べ、別にだいじょうぶなのに……」


「そうはいかねぇよ。俺がかけた迷惑だ。本当に悪かったな」


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