レイヴンボルト。




 ヘルヘルを討伐して、二日振りに家まで帰ると、家の中でミクちゃんとシャト、チビッ子五人が全員で泣き腫らした顔をしていた。


「何処行ってたんですかッ!?」


 そしてお叱りを受けた。うん、心配掛けたね。


「ごめんごめん、めちゃくちゃ強い敵が居てさぁ」


「そんなの逃げましょうよ!」


「いや逃げたよ? 逃げ回ってたから二日も家に帰れなかったのよ」


 俺が生きてた事にまた泣き出す全員を宥めて、俺は暫く拘束された。


 二日も帰って来なかったもんだから、俺が死んだと思ってたらしい。いや家賃更新出来てるんだから生きてるのは確定じゃん、なんて空気が読めない事は言わない。


「ごめんな」


「おじちゃんのばかー!」


 アサシネイトを着た六人にポカポカされるとちょっと怖い。全員暗殺者ルックなんだもん。


 そうして「お休みして!」と言われて三日ほど家に軟禁された俺は、四日目にやっとギルドに行く事が出来た。


 ちなみにヘルヘル乗せたサソリくんは追従設定じゃなくてオートでギルド搬入設定だったので、解体はもう終わってる。


 ただ解体した素材はギルドに行かないと受け取れないので、どうなったのか分からなかったのだ。


 結果。


『おめでとうございますアキラ様。ランク3モンスターの討伐実績が解除されましたので、チュートリアルエリアのクリア認定です。メインフィールドへのシフトが可能となりました』


「…………なぁレティ? モンスターコンプがフラグじゃねって頑張ってた俺は滑稽だったかい?」


『意地悪を言わないで下さい。伝えられなかったのは分かるでしょう?』


 そうなんだけどさ。


 ちなみに、チュートリアルエリアらしい初心者の森にはもう数種類ほどランク3が居るらしい。マジかよ全然五種じゃねぇじゃん。


「それは伝えて良かったの?」


『クリア済みのエリアについては問題有りません』


 とりあえず、ギルドで素材を受け取ったら鍛冶屋に行ってサクッと強化だ。


 利用者が増えて来た鍛冶屋で一つの強化台を陣取って作業を始める。相変わらず使用率の低いリリーサーも含めて武器を全部台に置き、今回は矢を含めずに強化開始。


『今回のデザインはどうしましょう?』


「任せるわ」


 二回目という事で慣れた俺はサクサクと操作してささっと確定した。


 今回の強化にはランク2のドスリアと、ランク3のヘルヘル素材を突っ込んだ。その為、付けられるスキルが一つ増えると言う恩恵が得られてヘルヘルのスキルを追加した。



雷藍烏竜らいらんうりゅうレイヴンボルト】

 ドローウェイト70〜90

 射速:520fps

 ◇強射

 ◇軽射

 ◇重射

 ◇雷撃


 重射:任意でスタミナを消費してドローウェイト30ポンド分威力を上昇させる。


 雷撃:任意でスタミナを消費して番えた矢に雷撃を付与する。もしくは直接雷撃を放てる。



 うーん、強い。雷撃の強さは分からないけど、重射の強さは分かる。消費するスタミナって概念はお初だけど、レティに聞けば良いだろ。


 雷撃も、もし大した威力じゃなくても一瞬の麻痺効果が有るだけでも素晴らしいし。


 それより、素晴らしい変化が他にあった。ナイフも一緒に強化してたんだが、なんかナイフとリリーサーが融合しやがった。


 ナイフのグリップがリリーサーと融合して、ナイフを逆手に持ったままリリーサーが使えるようになった。これでリリーサーの使用率上がるな。


 しかもリリーサーも進化して使いやすくなった。ストリングにグリップを押し込むようにするだけでストリングを保持してくれるようになったぞ。やったぜ。


 リリーサーってストリングに引っ掛ける手間が面倒で手早さが欲しい時はどうしても要らなくなっちゃうんだけど、コレならバンバン使って行ける。これでもっと精密に矢が放てるぜ。


 そしてそして、…………なに? fps520? 馬鹿なの?


 それ時速570キロじゃね? 秒速158メートル……、ほぼ秒速160メートルじゃん。音速の半分まで来ましたよマジで。弓のくせにどんな威力になるんだコレ。


 しかも、重射使うと更に威力上がるじゃん? 何処まで強くなるんだ俺のレイヴンは。


 実際、一秒で160メートルも動けない生き物にとっては、160メートル以内に居たら銃と変わらない武器だぞコレ。場合によっては銃より強い。


 今回は効くかどうか分からなかったから、効いた場合は確実に殺してくれる激ヤバ毒物を使用したけど、効くと分かってたなら即効性の毒を使うのも有りだ。


 そういう場合において、特定条件下では銃より弓の方が強くなる。


 例えば、クマを狩る時とか。正直クマを狩るなら弓の方が有効な場合も多い。


 クマは頭の骨が固くてライフルでも即死させるのは難しい。骨で弾が滑って殺せない事が有るのだ。アサルトライフルなら問題無く殺せるかも知れないが、それもはや『狩猟』じゃ無いからな。


 しかし弓なら、強力な即効性の矢をぶっ刺すだけで殺せる。トリカブトやフグ毒なんて割りと簡単に手に入るし。


 即効性の致死毒はリシンと違って一定量までは薬剤量を増やして効果も引き上げられるし、矢が刺さったままならクマが暴れた時にダメージも増やせる。


 こと『一発』と『一矢』を比べた場合、矢に軍配が上がる事は少なくないのだ。


 それに音も無いしな。銃声を含めてビビらせる効果が有効な場合もあるけど、狩猟に於いては基本的に無音の方が良い。だって正面から音でビビらせる効果ってそれも『戦闘』じゃん。『狩猟』じゃない。


 銃は弓より強い。しかし、弓は銃の下位互換かと言えばそうじゃない。『兵器』と『道具』を比べるのはナンセンスだ。


「で、なに? エリアのシフトって?」


『ご説明しましょう。まずはショップへどうぞ』


 ウダウダ言ったが要は新しい弓試したいなって事である。前人未到の520fpsとか楽しみで仕方ない。


 俺は新機能と言うか新エリアの確認がてら、新しい弓をちに行く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る