仕様の考察。



「ご馳走様でしたー!」


「はい、お粗末さまでしたっ♪︎」


「ミク、シャトはおかわり」


「うんっ、いっぱい食べてねシャトちゃんっ」


 たっぷり息抜きをした翌日。家でミクちゃんの作った朝食に舌鼓を打つ俺は、元気良く挨拶をして狩りの準備を始める。


 ちなみに昨日は結局あの焼き鳥食べたよ。めちゃ美味ウマだった。


 なんか、俺が屋台見てるのを知ってた店主が、一旦客を待たせてから俺のところに態々、出来たてをタダで持って来てくれたんだ。


 何故かって聞けば、なんと彼はダンボールアーマーの同士だった。


 最初はシャトみたいにポポポを狩ってたんだが、やっぱあのウサギもどき微妙に強くて、格闘戦で倒すのが結構大変らしい。


 しかもあの草原には、俺はまだ見た事が無いんだけど『ジャゴミン』なる猛禽も存在するらしく、ポポポと取っ組み合いしてる時にそいつからバックアタックされて死にかけたそうだ。


 もしダンボールアーマーが無かったら、心臓にザックリと穴が空いてた様なイーグルダイブをされたらしい。


 普通イーグルダイブって言ったら、急転換して獲物を掴んで連れ去るアレだと思うのだが、ジャゴミンのイーグルダイブはクチバシで刺殺を狙ってくるそうだ。ビット兵器かよ。


 そんな訳で、命の恩人だからってお礼で焼き鳥四本貰い、さらにいくつか美味しい情報も貰った。


 まず、俺はジャゴミンを見た事無かったんだが、そいつが出現するには条件があるらしい。検証して確かめたから間違いないそうだ。その方法を教えてもらったのだ。


 命懸けで調べた情報をタダで貰っちった。マジで俺、初手でダンボールアーマーを布教したのナイス過ぎたな。情けは人の為ならずだわ。


 それと、彼の売ってる焼き鳥は原価20円だそうだ。タレや串も含めてそれらしい。すげぇコスト抑えたんだな。しかもちゃんと美味いし。


 …………でもこれ美味しい情報の意味が違うな? 稼げて美味しいのは彼だし、あと焼き鳥が普通に美味しいだけだわ。俺が情報アドバンテージを得て美味しい訳じゃねぇ。『美味しい情報違い』だわ


 まぁジャゴミンの存在と出現方法を知れたのはデカい。


 そんな訳で今日、俺はジャゴミンを狩りに行く。


 最近気が付いたんだけど、外の景色って草原と森しか無いんだよな。山すら無く、森には川もない。ハウジングの中には井戸が有るから乾かないけど、森は何処まで行っても森である。


 町は広場を中心に四方へ大通りが伸びてて、その先全てに門がある。けど、どの門から外に出ても変わらずそこは草原だし、進めば森があるし、そして森しかない。


 流石にね、俺も違和感を覚えた訳ですよ。


 モンスターにはランクがあり、既にランク2まで狩猟済みで、このゲームにはラスボスが居る事もレティから確認してる。流石にラスボスがランク3とは言わないだろ。もっとずっと先に居るはずだ。


 そうすると、町の外が全部草原と森なのは、率直に変だ。流石に色々と狭過ぎる。森ってスペースも狭ければ、ゲームとしての幅も狭い。


 でも、森しか無いのだ。


 もしかしたら一週間くらい進み続けてれば別のフィールドにでも辿り着けるのかも知れないが、そんな面倒な事は流石にしたくない。


 一週間も森に篭って毎日狩り三昧ならウェルカムだけど、存在すら定かじゃない目的地に向かって一週間も進み続けるのは勘弁願いたい。


 だが、俺程のマジキチすら嫌がる移動方法を、他のプレイヤーがやる? やらんよな?


 と、なると。プレイヤーをより危険な場所に行かせたいはずの運営の思惑とは思えない。簡単に、手軽に、素早く次のエリアに行けた方が運営的にはナイスなはず。


 この矛盾を考えた時、俺が出した答えは「まだ何かしらのフラグを踏んでない」か、「フィールド移動には何かしらの実績解除が要る」の2パターンが思い付いた。


 それをクリアしたなら、何かしらの道が開けるのでは?


 その内、フラグの方なら『そのフィールドで出現するモンスター全種討伐』とかそれっぽくね? と思ってる。なんなら実績解除もコレかも知れん。


 俺がこのフィールドで確認したモンスターはドスリアスト、レベリアスト、ポポポだけである。


 名前で良いなら更にポポコスなる豚? っぽいモンスターと、姿さえ不明なヘルヘルって奴も居る。森の中に洞窟があって、その中に生息してるらしい。


 そこにジャゴミンなる特殊発生のモンスターで、六種。ドスリアをレベリアストの一種として扱うなら五種だ。五の倍数って最初フィールドモンスターの数としては丁度良さそうじゃないか?


 だから今日から当面は、モンスターコンプを目標に動く。まずは確定で呼び出せるジャゴミンから片付け、時間があったら森に行ってヘルヘルを見てくる。倒せそうなら倒してみる。


 面白いのが、持ってる情報から確定で雑魚だと判明してるポポコスに苦戦してるところだ。未だに一回も見た事がない。


 いや、正確に言うと一回だけ見たかもしれない。それは最初にレベを狩った時、レベがついばんでた肉塊だ。あれがポポコスだったんじゃ無いかと思ってる。


 ジャゴミンは確定で呼び出せ、ヘルヘルは生息地が確定済み。


 レベもポポポもうじゃうじゃ居るからすぐ見つかるし、ドスリアについてはクエストで呼び出せるから苦労しない。


 強いて言うならクエストがランダム発行だからそこは運ってところか。


 ポポコスもクエストが有るのでシステム的には予定地に居るはずなんだけど、………………見付からねぇんだ。なんなんだよポポコスさんよぉ。


 このゲームはクエストに制限時間が無いんだけど、ちょっと前に「そろそろツラを拝んでみるか」って受けたクエストが、まだ未達成なのコレもう実質失敗だよな。


 ドスリアなら煽りながら殺せたのに、最弱の豚に敗北してる俺…………。


「さて、じゃぁ行ってくるわ」


 装備品を整えてアイテムの確認まで終わった俺は、ラグの傍に置いてある椅子に座ってブーツを履く。やっぱ森歩きならブーツよな。


 

「はい、行ってらっしゃい」


「いってら」


「おじちゃん、がんばってね!」


 三人から応援を受けながら、ブーツを履いた俺はその身一つで家から出て行く。ポーチとラックのお陰で手ぶらで行けるの楽で良いわぁ。


 左右の胸ポケットにタバコと臭い消しスプレーも完備してあるので、敷地から出るとすぐタバコに火をつける。マナーが悪い歩きタバコだが、死後の世界だし許してくれ。


「…………ふぅぅ、タバコうめぇ」


『ジャゴミンは草原で確定出現ですからね。今からジャゴミン討伐までは好きなだけ異臭を振り撒く事が叶います』


「棘のある言い方だね? なにかご機嫌斜めかい?」


『煙が直撃してるので』


「え、あっ、えっ、? そう言うのダメな感じ!? レティの刺青って両腕に有るんだが!?」


 レティに気を使うならタバコ吸えなくなるんだが!? え、死んだ後にまで禁煙推奨の波が来てるの? 勘弁してくれませんかね!?


『まぁ気にしてないんですが』


「おまっ、止めろよそう言うジョークはさぁ!」


『しかし、偶にはレティもオシャレの一つもしたい物ですね?』


 何やら、レティに構う時間が減ったから拗ねてるのだろうか? 何が原因かは分からないが、オシャレ一つで機嫌を直してくれると言うならお易い御用と言うものだ。


 俺は目的地を180度変えて歩き出した。ハントレット用の有料スキンも、買うにはショップ行かないとダメなんだよな。買い物は大体ショップを経由しないとダメなのだ。


 例外は鍛冶加工場アームドスミスで『制作』する時くらいか。あれは殆ど購入に相当する行為だけど、『制作』だからギリギリ例外なのだ。


「さて、お姫様に機嫌を直して貰いましょうかね」


『ではレティも姫らしく、騎士様の無事でも祈りましょうか。馬も乗れそうに無い騎士ですが』


「馬がこの世界に居るなら練習しとくよ」


『頭から食われますよ?』


「それ馬って言わない。モンスターっていうの」


『おや? 妙齢の女児を馬と呼んでうまぴょいさせてる国出身の方が口にする発言とは思えませんね。普通は二足歩行の生物も馬とは呼びませんよ?』


「やめろソレ最強ワードだろ言い返せねぇちくしょう! ウマ娘に罪はねぇんだ……!」


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