チビッ子支援。



 ドスリアのクエストをやった日からまた数日。


 なんだかんだ、この辺の初心者向けモンスターで一番美味しく稼げるのは結局レベリアスト系だと言うことが判明したので今はレベ狩りに精を出してる。その結果、ポイントはかなり安定して稼げてる。


【所持ポイント:340000】


 これが今の俺の所持ポイントだ。結構スッキリしてる。と言うのも、俺はしも四桁のポイントは三日ほど前から寄付するようになった。


 町や草原でタケルと同じくらいの子供を見掛けた場合、その時に俺が持ってる四桁までのポイントをその子達にあげてるのだ。


 なんと言うか、所持ポイントの数字がゴチャッとしてるの嫌だし、表示がスッキリして子供達が喜び、さらに俺の名声まで上がるって言うならやらない手は無い。


 幸い俺にとっての下四桁は、レベ二頭をA判定で狩ればゼロに出来る程度の事なのだ。レベを狩ってたら奇数分はみ出た獲物を譲るくらいの話し。


 11匹狩ったから、切り悪いし一頭分あげるねって。それだけで皆が幸せになれるんだから素晴らしい行為だろう。


 それにぶっちゃけ子供の遭遇率って激低だからな。多分このサーバーの初期ロットプレイヤーで小学生は五人くらいしか居ないぞ。


 そんな事をしてる内に、俺はチビッ子に懐かれる。当たり前なのだが。


 そうすると勿論、家にいるタケルとも仲良くなり、その内パーティを組んで狩りをする様になる。


 タケルは最初、俺の家の手伝いが有るからって断ろうとしたんだけど、「いや、それなら普通に稼いでお金を払えば良いだろ? 自分も家賃を払ったら、お礼としてじゃなくて自分の家として住んで良いんだぞ?」って言うと「ホントだ! おじちゃん頭良い!」と喜んでくれる。


 馬鹿な子は可愛いなぁ。


 そしてつい昨日、五人の小学生がパーティを組んだ。折角なので俺は全員に子供用の弓をプレゼントした。強化パラメーターが低いけど、全部進化済みのコンパウンドボウだ。


 これな、強化する前なら俺の所持ポイント50万超えてたんだよ。俺もお人好しだなぁ。


 子供用なので相応の練習モデルを買って、さらに俺のレイヴンと同じスキルを付けてある。強射と軽射だ。


 元の性能が20〜40ポンドの入門用で、30ポンドに設定して軽射を付けたから実質10ポンド分の強さで引けるし、威力は45ポンド分で競技用にも匹敵する。


 パラメーターは強度と軽量化に多く振ったので、そんなに大量のお金は使わなかった。


「ほら、狙ってみろ」


 そうして武器が用意出来たので、俺はチビッ子と女の子達を連れて草原に来てる。狙いはレベリアストだ。


 レベリアストは本来草原には居ないのだけど、今回は俺が連れて来た。


 脚を両脚を射って動けなくしたレベの首に縄を括り付けて、サソリくんを呼んで森から草原に生きたまま運搬した。


 怪我をしてる脚に結束バンド何重にも加工した特製の足輪を付けたあと、木の杭を地面にぶっ刺して縄を括って、結束バンドに結び付ける。


 そこまで用意出来たら、レベの脚にポーションをかけてすぐ離れる。


 そんなこんなしてたらアラ不思議! なんと捕獲済みで元気な肉食獣が草原に!


 正直アホほどポイント使ってる。だって一匹連れて来るのに両足にポーションかけるから一万ポイント飛ぶからね? それもサソリくん呼ぶから運搬費もかかるし。


 そこまでして草原にコイツらを連れて来た目的は、チビッ子の実績解除。ついでにシャトも。


「こ、ここまでしないとダメだったんですか……?」


「いや、無くても良かったかも知れないけど。でも皆は、もし俺が死んだらどうやって矢を補充するの? 生前、こんなもの買ったこと無いでしょ?」


 乗り気なチビッ子とシャトを尻目に、今回これに参加しなくて良いはずのミクちゃんが真っ青になって俺に問う。生き物を的にするのが生理的にダメなんだろう。正直これは嬲り殺しの部類だし。


 でも、必要だからやってる。言った通りに、俺が弓を融通した子達は全員、自分で矢を買えないのだ。いや、ゲーム用の初期武器に使う店売りの矢なら買えるけど、規格の違う弓の矢なんかマトモに使える訳が無い。


 だから、俺はこの子達にハイウェポンシステムを解放させて、矢を強化させたいのだ。そうすればショップで買えるようになるから。


「ほら、もう初めて良いぞ。六匹連れてきたから一人一匹な。獲物を売却した時のポイントも自分のものにして良いから」


 俺が宣言すると、俺のレイヴンを目指してるシャトと、初めて武器らしい武器を持ったチビッ子達は喜んでレベを虐め始めた。とても残虐な絵面だ。ミクちゃんが青ざめるのも分かるというもの。


 しかし、子供ってこの世でトップクラスに残酷な生き物だからな。あの世に来ても変わらないだろ。


 俺は昔、というか生前、公園の池で釣った魚を逐一踏み潰しては楽しそうにキャッキャしてる子供を見てドン引きした経験がある。あの時はマジで背筋が凍ったよね。


 一瞬、「え、もしかして俺の知らない種族の幼生体だったりする?」とか本気で思ったもんだ。人間の子供って多分、野生の猿並に残酷な生き物だぞ。


 今もほら、男三人女の子三人(シャト含め)が居て、全員がからな。


 俺が用意した子供用にしては最強格の弓で練習台されてるレベは、あっと言う間にになる。


 やがて、遠距離から一方的に射られ続け、反撃も抵抗も何もかもが不可能な状況を理解したレベ達は、大声で笑う子供たちを徐々に恐れ始め、怯え、最後は可哀想な程に震えて蹲って絶命して行った。


「あ、矢は抜いてから売れよ」


 その一部始終を見てたミクちゃんは血の気が引いてフラフラだ。そりゃ俺たちとあの子達でが違うからな。


 俺とミクちゃんは後方から残虐極まりない『狂宴の宴』って感じの演目を見てて、当事者たる六人は『楽しい楽しい的当て大会☆』を見ていたんだ。そりゃテンションが違うに決まってる。


 こう言う認識の差が理解出来ない人達が古今東西争いを止めないんだぜ。お互いのことを理解出来ない火星人だとか思えば良いのに、「何故理解出来ないんだ!?」と怒って攻撃するから争いになるのだ。


 まぁ良いや。全員が自分のハントレットを操作して実績解除を確認したので、今から鍛冶屋に行く。


「よーしチビ共、矢は持ったか? 持ったまま歩くのは危ないからポーチに仕舞え」


「「「「「はーい!」」」」」


「りょ」


 チビッ子もシャトも、薬草は採集した事があるのでポーチは使えるのだ。


「それじゃぁ、俺から全員にレベリアストの素材を譲るから、それを使って矢を強化しろ。やり方は自分のハントレットに聞け。あ、もうお前らが持ってる弓はラックに仕舞えるからな」


 俺がそう言うと、チビッ子達はすぐに手に持ったコンパウンドボウをシュッと消して喜んでた。ただ反応は薄い。別にラック無くてもポーチで同じこと出来るからな。


 ウェポンラックが便利なのは、あくまでポーチを圧迫しない点である。そこは間違えちゃいけない。


 現場のあと片付けをしたら全員を引き連れて町に戻る。流石にもうこのくらいになると、広場で寝泊まりしてる奴は居なくなった。やっとポポポくらいは殴り殺せたのか、それとも普通に死んだのか。どっちだとしても興味無い。


 町を歩いてるプレイヤー達は、コツコツと薬草集めかポポポ狩りを繰り返して貯めただろうポイントで、大体の人が一番安い『鉄の剣』か『鉄の槍』を購入してる。一万ジャストで売ってるからな。


 対して防具は何を使ってるかと言うと、私服のままって奴が多い。防具って地味に高いんだよな。


 だって俺が今着てるサバイバーだって一番安い奴だったけど二万したからな。剣と比べて倍だし、初期ポイントと比較すると四倍だぞ。クソ高ぇ。


 まぁ地味にスキルついてるからな、これ。俺のサバイバーは少し筋力にプラス補正が掛かり、シャトが着てるのは暗殺者みたいな奴は気配遮断補正が付いてるそうだ。誤差レベルの補正だけど。


 そのせいで、町中では店売り防具着てる奴はトップランカーみたいな空気がある。最初期から店売り防具を着てる俺やシャトなんか、超強いガチ勢扱いだ。


 ただ、やっとこのゲームがマトモに回り始めた感じはして来たので俺としても悪くないと思ってる。嬉々として危険な森に出掛けてた俺はマジでヤバい奴扱いされてたので、ガチ勢扱いされてる方がまだ良い。


「ほら、着いたぞ。強化は自分でやれよ」


 鍛冶屋に到着したら早速強化だ。ボックスの素材はチビッ子達のハントレットにもう送ってある。


 昨日の内、狩ったポポポを態々わざわざギルドに持ち込ませて、マテリアルボックスを解放させておいた。ボックスからアイテムを送るにはボックスが無いとダメなんだ。データ化しちゃってるから取り出さない物になってるからな。


「よーし、強化は終わったか? ならもうお前らは一人前のハンターだ。好きにポポポを狩って、好きに稼げ。矢を仲間に向けないように気を付けろよ。矢はなるべく回収して使え。だけど少しでも歪んでる矢は絶対に使うな。変な飛び方して仲間に刺さるからな。これからは自分で矢を買う事になるから、矢の代金と稼いだお金の計算はするようにしろよ。それと--……」


「ふふ、アキラさんは、お父さんみたいですね」


 滔々とうとうと注意事項を語ってた俺は、ミクちゃんにそう言われてスンっと黙った。まだ六児の父には成りたくない。


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