理不尽な採点。



 -パチッ、パチッ……。


 --ギチギチ、ギュッッ……。

 

 まず、木の枝を短く切って、『レ』の字型に削った物を二本用意する。長い『レ』と短い『レ』の二本だ。枝は太めの物を選ぶ。


 長い方の『レ』は『レ』の部分を上にして地面に深く刺して、短い『レ』は両端にワイヤーを括る。


 枝の『レ』側にはワイヤーの括り罠を、反対側にはただ括ったワイヤーを伸ばす。


 括り罠を木のウロに仕掛け、ウロの中に生肉を入れる。


 地面に刺した『レ』に括り罠の『レ』を引っ掛けて、伸ばしたワイヤーを待って気を軽く登り、上の方にある枝の、二本目の枝にワイヤーを結んだ重りを仕掛ける。


「はい。金神威ゴール○ンカムイで学んだ罠アレンジです」


 タケルくんを家に預けた俺は、すぐに森へと入った。


 何時いつも行くエリア付近がクエストの『生息予想地』だったので、そのまま何時もの道に入って奥へと進み、この一週間で調べた『レベリアストが徘徊しやすいルート』にこの罠を仕掛けた。


 通りかかったレベリアストが肉を食う為にこの木のウロに首を突っ込むと、括り罠が突っ込まれた頭に引っ張られて『レ』の字パーツのロックが外れて、枝の上に置いた重りが引っ張られて下に落ちる。


 俺が重りを置いた枝は罠から見て二本目の枝。つまり罠と枝の間にはもう一本枝があるので、落ちた重りは括られたワイヤーを一本目の枝に吊られ、括り罠に引っ掛かったレベリアストは強制首吊りの刑に処される訳だ。


 この罠を、今俺が居る場所から確認出来る位置に六ヶ所設置した。


『五分でコレを仕掛けますか…………』


「言っとくけど、俺の師匠ならもっと早いぞ」


 クエストで指定される生息予想地は、ある種『生息』とも言える訳で、そのエリアにある『レベリアストの徘徊確率が高いルート』に罠を仕掛けた。


 まぁ来るやろ。十中八九、此処に。


 俺はロープを使って木の上に登って、太い木の枝に座ってひたすら待ちの姿勢を取る。


「…………タバコ吸いてぇ」


『空き時間が出来ると吸いたがりますね』


「そりゃ、そう言う時間に吸う物だからな」


 臭い消しのスプレーは防具のポケットに入ってるけど、吸ってる間もシューシューしてる訳には行かないからな。速攻でスプレー無くなるわ。


 喫煙者はあれだ、何もやること無いのに、吸いたいのに吸えない時間が続くとやたらイライラしてくる生き物だ。ドスリアは早くここまで来て欲しい。


『寝ていてはどうです?』


「いやダメだろ」


『獲物が来たら起こしますので』


「…………ちゃんと起こせる?」


『レティを初め、ハントレットはシステム的にプレイヤーの一部となっております。ですから、許可さえ有るなら強制的に起床させる事も可能です』


 そんな便利そうな機能あるのかよ。もっと早く言ってくれって。『強制起床』って地味に日本人が求める奇跡の一つやぞ。


 まぁ日本人が求めてる地味な奇跡なんて五万とあるんだがな。非課税の五千兆円欲しかったり、人の金で焼肉食べたかったり、オタクに優しいギャルの隣の席で優しくされたかったり。


 ちょっとしか寝る時間無いけど確実に起きたい。そんな奇跡も日本人は欲してる。学生も、社畜も。


「じゃぁちょっと休むわ。後よろしく」


『お任せ下さい』


 と言う訳で寝た。


 ◇


『起きて下さい、獲物です』


 起きた。一瞬でスッキリ起床した。いやまじ凄いなこれ。一秒くらいで完璧に覚醒したぞ。最初から脳がブン回せる。


 下を見れば、少し離れた場所からノシノシと六体ほどのレベリアストが歩いて来てた。周囲をチラチラと見回しながら匂いも嗅いでるのか、その歩みはそう早くは無い。


 その内の一頭は目的のドスリアストであり、明らかに他のレベよりデカい。頭の位置で言えば倍近い高さがあるな。


 今日はあいつさえ仕留めれば、稼ぎ的には大丈夫だ。普通に仕留めてもA判定で五万ポイント。だけど今回はギルドのクエストなので、その分報酬は割高だ。素材全部持ってかれるけど。


 様子を眺め続けると、やがてレベ達はトラップゾーンに差し掛かった。


 配下のレベが生肉入りのウロを見つけてギャァギャァ騒ぎだし、ボスのドスリアが短く鳴いて一喝。それから件の生肉を確認して、…………食わなかった。


 代わりに下っ端のレベを一頭選んで先を譲り、それに喜んだ頭の悪い個体っぽいレベは順当に罠を作動させた。


「ギィッ--……」


 ああ、コイツ部下に毒味させるタイプか。


 俺の用意した罠が不発し、代わりに哀れなレベリアストが首吊りオブジェと化す。まぁあれでも損傷ゼロで狩れてるからS判定貰えるんだけどな。


 さて、俺は第一回の頭脳戦に負けたらしく、ドスリア選手に10ポイントだ。勝者たるドスリアは満足気にギャッギャッと鳴いて俺の神経を逆撫でてくる。ぶっ殺してやるからなお前。


 そして第二回頭脳戦、ドスリアは更にもう一匹、部下に同じ穴へ首を突っ込ませて肉を食わせた。今度はトラップが無く、二匹目のレベはちゃんと美味しいお肉にありつける。良かったね。


 これでドスリアは「トラップは一発、二段構えは無し」って情報と、「肉に毒は入ってない」事を理解した。第二回頭脳戦もドスリアの勝ち。ドスリア選手に10ポイントか。


 さらにドスリアは、もう生肉の匂いで他のトラップを発見してるんだろう。ギャッギャッと嬉しそうに鳴きながらトラップの場所までノシノシ歩いて前足でワイヤーを退ける。


 そして連動して枝から重りが落ちたのも確認すると、安全が確保されたタダ飯を食う為に木のウロに頭を入れた。第三回戦もドスリアの勝ちだ。これで計30ポイントを奪われた。


「ばーか」


 しかし最終問題、問題をドスリアがクリア出来ず、最終問題で100万点をゲットした俺の勝ちだ。ラストクイズの配点が理不尽なのはお約束だぜドスリアスト。日本のカルチャーを勉強して来な、あの世でな。


 殆ど真後ろから、ウロに向かってレイヴンを射る。そこにはドスリアの頭が固定されてて、真後ろから、首筋の後ろから通すように射ると頭蓋にすら阻まれない。一撃でキッチリ脳を破壊してゲームセット。


「頭脳戦ってのはこうやるんだよ。例えばだって具合にな」


 罠がある時点で逃げれば良いのに、半端に知性があったから欲張ってしまったのが良くない。そのお陰で「出し抜いてやったぜ!」と信じて、ヘッドショット一発でお亡くなりになった。


 コッチは精々、襲われにくい木の上から木のウロて言う動かない的をたった20メートル前後の距離から射るって言うイージーゲームで終わったのにな。


「勝負ってのは始まる前に終わってる。これってマジなんだよなぁ」


 その後、ボスを射殺されて慌てる部下たちも木の上から射殺し、安全にクエストを終わらせた。あとは日が沈む前まで野良のレベを狩って、ポイントを更に稼ぎましょうかねぇ。


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