一週間。



 カチャカチャと音を立てなが俺は一人、家で弓を組み立てる。


 ゲームが始まってから一週間が経った。流石にプレイヤー達もゲームのシステムをある程度理解して、今では広場で野宿する奴らも減って来てる。


 減って来てるとは言えゼロになって無いのは行動遅すぎてヤベェなって笑いそうになるけど、意外と人間ってこんなもんだよなって。


「アキラ、これは……?」


「アキラさん、そのパーツはなんと言うんですか……?」


 今日の俺は、知り合いの女の子二人に武器を授けるべく授業を開いてる。この世界、マトモな武器を得るまでが凄い大変なのに、武器を得た後も大変なのだ。


 ならば、武器入手くらいは手伝ってやりたい。


 しかし、二人とも弓をプレゼントするって言えば首を横に振る。その手の迷惑はかけたくないと言う。だから、俺はポイント立て替えるって名目で武器を都合した。この武器でポイントを稼いだら返してねって事で。


「これはな、スタビライザーって言うんだ。矢を射る時の反動やブレを抑える効果がある。こっちのパーツはアローレスト、矢を番える部分だ。此処に矢を乗せてストリングに掛け、引き絞る」


「この弓の紐が、ストリング?」


「いや、こっちはケーブルって呼ぶんだ。手で引く紐って言うかげんだけストリングと呼ぶって覚えれば良いよ」


「ええと、じゃぁ、このストリング? についてる玉って……」


「おお、よく気付いたな。それって結び目的な何かにしか見えないけど、ちゃんとピープサイトって名前のパーツなんだよ。こっちにあるサイト、もしくはスコープってパーツと一緒に使う」


「…………此処は、グリップ?」


「正解。ただ、コンパウンドボウって正しい呼び方が複数有るパーツも有ってな。その握るところはグリップでも正しいし、ハンドルとも言うし、ライザーって呼び方もある」

 

 こんな風に、女の子達にコンパウンドボウの事を教えてる。


「これはなに?」


「それは滑車カムだな。コンパウンドボウがコンパウンドボウである所以ゆえんだ」


「…………あ、よく見ると、……ケーブルとストリング、別物?」


「気付いたな。名前が違うだけじゃなくて、ハッキリと別パーツなんだよそれ」


「……おなじ紐なのに」


「紐じゃなくて弦な」


 そしてこうやって教えながらも、俺もその間にレティから色々と教わったりした。一時的に俺だけ聞こえるモードって奴にしてる。まだゲームシステムを全部把握出来た訳じゃ無いからな。説明書とか貰ってないし。


 聞いてなかった武器強化の仕様とか、あと今使ってる防具にも実はスキルが付いてるとか、この世界は女の子が妊娠しないのでヤリ放題だとか、色々聞いた。…………なぁレティ、最後の情報は本当に必要だったか?


 まず武器進化だが、一回強化する度にレベルって概念が上昇する仕様らしい。それで、モンスターにもレベル、と言うかランク? が設定されてる。


 例えばレベリアスト。俺がレベと呼んでるアイツはランク1に相当する。ポポポはランク0な。


 で、武器の進化に使われる素材って言うのはレベルとランクがイコールなんだ。未強化状態でレベル1だから、俺のレイヴンは今レベル2。


 レベル2の武器を強化したいなら、ランク2のモンスター素材が必要だ。


 もっと言うと、使う素材によって武器進化も派生が変わって行くらしい。俺のレイヴンはレベリアストって言う『竜属』を使ったから、今後は進化が『竜』に向かうそうだ。そういう派生ルートに入ったらしい。


 …………名前、レイヴンなのにな。


 進化派生と言っても、見た目は好きにデザイン出来るしパラメーターも好みにカスタマイズ出来る。じゃぁ何が派生ルートなのかっていうと、スキルである。


 竜は筋力系の身体能力や威力補正に関わるスキルが多く、あとはモンスターの種類によって特殊能力が着いたりって感じになるらしい。


 俺はまだ見てないが、獣系だと五感系の身体補正と隠密効果などが多いらしい。


 あくまで傾向であって、絶対の法則じゃないらしいけど。


 俺のレイヴンも、多分軽射が『軽く引けるようになる身体補正』で、強射が『引き力に関わらず威力補正』だったんだろう。ドンピシャで竜の系統だ。


「パーツの名前は覚えたな? じゃぁ次は的射ち練習だ」


「「はーい」」


 弓を組み立て終わった俺は、二人にそれを渡した。どうせ立て替えるなら最初から最強を、と思わなくも無いが物理的に無理だから初心者用の物だ。


 ドールミール製シャンティ56だったかな? 少し高いが入門用としては最適なセットモデルだ。四万円くらいで買える。


 ドローウェイトは20〜60まで調整出来て、今は最弱の20に設定してある。じゃないと女の子二人が弓とか引けない。


 レイヴンって最低でも60ポンドだからね。素人の女の子が最初から引ける様な強さじゃないからね。60ポンドってガチの競技用くらいだからね。


「そう、ぶっちゃけ競技じゃないから足幅とか作法とか気にしなくて良い。的に当たれば正義だ。でも変な引き方すると体壊すからな」


 家の庭で、設置した的に向かって練習させる。距離は8メートルくらいだな。


グリップライザーを握った腕の肘は伸ばせ。それはもう腕じゃない、弓を支えるだけの棒だ。曲げるな。引き手は裏返せ。引いたら手の甲が頬に着くように引け。引いたストリングが自分の頬や唇に食い込む感覚だ」


 パーツ名をザッと覚えさせたら弓のちかたを教える。


 俺の場合は一応インストラクターに教わった事もあるけど三割くらいだな。残りの三割は毎年教えを受けたマタギの技で、最後の残り四割は独学だ。


「シャトちゃん、頑張って……!」


「ん。シャトは頑張る」


 ちなみに、今家に二人が居るのは二人が仲良しだからだ。


 ゲーム二日目の朝、その日は朝から俺を狩りへと誘いに来たシャトが家の前で待ってて、早起きして玄関前の掃除をしていたミクちゃんがばったり遭遇。


 その後、二人が二人して「誰よこの女ッ!」みたいな感じで詰め寄って来たの、申し訳ないけど面白くて笑った。


 アレかな、俺もそれっぽい言葉を返した方が良かったかな。「遭遇けっこんしたのか、俺以外の奴と……!(奥歯ギリィ)」みたいな。俺あのセリフめっちゃ好きなんだよな。特に「俺以外の奴と」が良い味出し過ぎてる。


 その後、とりあえず話しは飯食ってからにしようぜって事でシャトを敷地に入れる設定にしてご招待。


 するとミクちゃんの手料理に陥落したシャトがミクちゃんに懐いて、辿々たどたどしく料理を褒めながらニコニコするシャトに、褒められたミクちゃんも落ちたって言うだけの話し。


 その後、二人ともダンボールアーマーに救われた者同士だとも判明し、更に意気投合。もうこの一週間で大親友レベルに進んでた。


 今ではシャトも賃貸引き払ってこっちに引っ越してきた。部屋が足りないから増設しようかと思ったけど、別に良いと言ってミクちゃんの部屋に住んでる。めっちゃ仲良しじゃんすか。


「んじゃ、俺はそろそろ狩りに行ってくるけど、良い子にしてろよ? 的射ちもやり過ぎると腕にクるから、程々に」


「「はーい!」」


 こんな感じが、俺がここ一週間過ごした風景だ。


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