レイヴンクロー。
【
ドローウェイト70〜90
射速:475fps
◇強射
◇軽射
俺の前に完成したそれは、藍色の業物だった。
聞くの忘れてたけどレベは鱗版と羽毛版が居て、そのどちらもが綺麗な深い藍色をしていた。
新しく生まれ変わったレイヴンクローは、所々にレベの、レベリアストの鱗と羽があしらわれた芸術品へと変化していた。
黒いカーボン製ボディがすっかりインディゴに塗り代わり、機械然とした雰囲気が心做しか生物チックに感じる。
でも、それでも、全体の雰囲気は俺が気に入ったレイヴンそのもの。これは、神武器や……!
『お気に召しましたか?』
「召した。召し過ぎて召されそう」
『既に召された
「せやった。俺、召されてた……」
新しくなったレイヴンを手に持って見て、構えて、ストリングを引いてみる。手を離してストリングを弾くことはしない。コンパウンドボウは空射ち厳禁なので。
しかし、引きが軽っ……! 空気かよ!
「え、この軽さでfps475? 馬鹿なの? それ時速520キロくらいだから、秒速で140メートルちょい? 馬鹿なのっ!? 本当に音速迫って来てんじゃん!?」
音速は秒速340〜360だったか。空気条件で変わるらしいが、大体そんな感じだったはず。
え、射速が音速の半分くらいなったんだが?
「あ、あとスコープとかスタビライザーが消えた?」
『物は消えましたね。効果は残ってます。と言うか強化されてますよ。特にスコープが。試しに矢を番えて、射るつもりで引いて見てください』
レティに言われるまま、一緒に強化された矢(安い方)を若干シンプルな見た目に変わったレイヴンに番えて、構えて引く。
「……んぉっ!?」
すると、一気に俺の視界がクリアになって、より遠くが見えるようになる。それも、なんとなく感覚で射線が分かる。何処に
なんだこれ、序盤で手に入れて良い武器じゃないだろ。
「公式チート?」
『元武器の品質が高いので、こんなものかと。それに他のサーバー、特に海外サーバーなどもっと酷いですよ。アサルトライフルを強化してるプレイヤーとかザラですから』
「何その魔境」
『まぁその分、魔境に相応しいモンスターが徘徊してるんですが』
「もっかい言う。何その魔境」
俺、日本サーバーで良かったわ。
「あ、そう言えばレイヴンこれ、もうラックに仕舞えるの?」
『可能です。今設定しましたので、ポーチと同じ感覚で収納出来ます』
言われた通りにするとレイヴンがシュッと消えた。一応レティに画面を見せてもらうと、確かにアイテムポーチからウェポンラックに移動してた。
『しかし、見事にポイントを使い切りましたね。明日の家賃更新どうするのです?』
「……………………あっ」
やってしまった。もう一回狩りに行くか。一日に森と町を何往復する気なんだよ俺。
「あの、ポイント、お貸しします……」
「あ、いや、ありがとうねミクちゃん。でも良い大人が高校生の女の子にお金借りるって、その時点でメンタルにダメージ入るんだわ。その優しい気持ちだけ受け取るね」
「あっ、えと、ごめにゃさ……」
「いやいや、これは大人の男って言う生き物が面倒臭いだけだよ。気を使ってくれたミクちゃんが謝るのはおかしい」
俺は善良な女の子の頭をくしゃくしゃ撫でて、取り敢えず用事は終わったからと一緒に
て言うかミクちゃんもハウジングの家具買って、飯の食材まで買ったら家賃ギリじゃね? 貸せるほど無いよな?
「まぁ良いや。取り敢えず一回、家までミクちゃん送るよ。また変なの居るかもだし」
「あ、ありがとうございましゅ……」
俺は家の場所知らないので、レティにロケーターを出して貰って町を歩く。店を出ると流石に暗くて、もう広場に人は…………、居るんだよな。皆まだハウジング解放してないから。した奴も居るんだろうけど、九割近い人間はまだっぽい。
人がグループごとに集まって雑魚寝でもするのか、そんな広場を悠々と歩いて抜ける。
ロケーターの案内に従って進むと、広場からそう遠くない位置に家がある。と言うか広場から見えてるわ。
「ハウジングの場所はランダム?」
『指定も出来ますが、指定されませんでしたので』
なんとなく、嘘を感じた。レティは気が利く奴なので、選べたなら選ばせてくれたはず。
多分あれだな、門に近いと俺が狩りに行くの楽だけど、その分ミクちゃんが広場に来るまでが遠い。遠いって事はトラブルに遭遇する確率も高いって事だ。
俺なら相手ぶっ殺して終わりだか、ミクちゃんはそうならない。レティがその辺に配慮してくれたのだろうか。それを今言うとミクちゃんが気にする。だから気の無い返事で誤魔化したのか。
「ありがとな」
『さて? なんのお礼でしょうか。当機は全く心当たりが無くて分かりませんね』
ああ、なんだ。俺がショップでダンボールアーマー作った時の意趣返しか? 分からねぇなぁって。
家の前まで来ると、そのままミクちゃんが敷地に入るのを見届ける。見えない壁を潜ると外からミクちゃんが見えなくなる仕様らしい。
入る前に「ご、ごはん作ってまってます!」と意気込んでたので、帰りは楽しみにしたい。
さて、俺ももう一回だけ狩りに行こうか。夜の森って普通に危険度激ヤバだから行きたく無いけど、家賃がなぁ。
【所持ポイント:230】
死んでるからなぁ。
ふと、狩りに向けて歩き出した俺の目が面白い物を捉えた。そして目が合った。
「…………あ、ダンボールの人だ」
「その覚えられ方は辛いものがある」
家の隣、って程じゃ無いがそこそこ近くのハウジングから人が出て来たのだ。
黒髪ショートのパッツンヘアが良く似合う女の子で、中学一年生くらいに見える身長だ。黒っぽい暗殺者風の服を着てる。どう見てもショップで買った防具だな。
「ハウジング解放してるってことは、ゲーム進めてるんだな?」
「そう、あなたのお陰。……ありがとう」
ぺこりとお辞儀する女の子は、クーデレっぽい喋り方で大人しい感じだ。ただ、俺はなんのお礼を言われたんだ?
「…………ああ、もしかしてダンボールアーマーが役に立ったのか?」
「そう。本当に助かった。草原で、ポポポって言うウサギみたいなのをひたすら狩ってポイント貯めた。でも、あれも防具無いと危なかった。ポポポは意外と危険」
クーデレっぽいだけで意外と良く喋る女の子が言うには、草原にはポポポって巫山戯た名前のウサギ? ……に、見えなくも無い絶妙に可愛くないモンスターが居るらしい。
一匹500ポイント程らしいが、石で殴り殺す感じで狩ってたのでC評価販売で250ポイント。すばしっこい上に群れないから探すのがだるいそいつを、朝から今まで狩ってたそうだ。
めちゃくちゃ偉いなこの子!
「それで、本当に防具が大事なんだと学べた。だから稼いだお金も、防具に使った。ハウジングはCで我慢。どうせ一日単位だから、稼げたら別の所借りれば良い」
ポポポってモンスターは雑魚のくせに攻撃力が高いのだそうだ。頭にほんの小さな角っぽい突起があって、それを使って頭突きみたいに突っ込んで来る事しかしない。
でも、脚力が異様に強くて、ダンボールアーマーが無かったら危なかったと言う。頭突きを生身で受けたら骨折か裂傷くらいは有り得たと。
「だから、本当に感謝してる。…………名前、聞いて良い?」
「ん、あ? ああ俺の名前か。アキラだよ。プレイヤー・アキラ」
「そう。……アキラ、ありがとう。シャトはシャト。プレイヤー・シャト」
シャト。シャト? 日本名じゃ無さそうだから、プレイヤーネーム決める時にオリジナルのつけたのかな。
でも「オリジナルの名前か?」って聞いてもし実名だったら「お前キラキラネームだな!」って馬鹿にしてる風だから止めよう。聞かない事にする。
「アキラは、おでかけ? ショップでご飯なら、ご一緒したい。お礼したい」
「あ、いや、俺は今から狩りに行くんだよ。ちょっと大量にポイントをスっちまって、日を跨ぐまでに稼がないと家を追い出されるんだ」
「…………お金、貸す?」
いや、高校生からもメンタルがヤバいって理由で断ったから、中学生から借りた時点で俺は即死すると思う。
そんな訳でやんわり断ると、シャトは俺がお金をスった理由を聞きたがった。ダンボールアーマーの時は慎重だったのに、無意味にお金を無くすとは思えないってさ。照れるぜ……。
「ほら、コレだよ。武器の強化してたんだ」
「…………………………ふぉぉおおっ」
褒められて得意げになった俺は意気揚々とレイヴンを取り出して見せた。その瞬間、シャトは眠そうだった目がギンギンに開いてキラキラする。鼻の穴も広がって興奮してるのは凄く分かった。
「…………かっこ、いい」
「だろ? コレの強化でスっちゃってさ。今からコレの試運転も兼ねて、資金回収に行くんだよ」
「……シャトも、行きたい」
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