クソゲーでござる?



【所持ポイント:84250】


 1ダース居た獲物の内二体を譲り、十体を売り払った結果こんな感じになった。全部A評価で十体だから計五万だな。


 その後に矢を回収出来るだけ回収して、13本まで減った矢をポーチに入れて帰り支度。


 いや、女の子との話し合いも大事だが、肉食獣が彷徨うろついてる森の中で呑気にお喋りとか出来ないからな。矢も減ったし。


 そんな訳でコソコソと歩いて町まで帰還した。


 流石にもう充分な時間が過ぎてるので、町にはチラホラとプレイヤーが彷徨うろついてるのが見えた。


 中には見えない壁にはばまれて家屋ハウジングに入れず、その見えない壁を蹴飛ばして罵詈雑言を無機物に浴びせてる奴も居る。


 え、見えない壁とかあんの? 権利が無いと敷居を跨ぐ事すら許されないのか。


 というか、あのオッサンもなんだよ。まだ錯乱してる奴とかいるのか。治安悪ぃなぁ。


「そう言えば、なぁレティ? ゲームの治安ってどうなってんの?」


『自助努力して頂くほかありません』


 なるほど、やべぇ奴が居ても自衛しろと。


 例えば、今あの見えない壁を蹴ってる奴が錯乱極まって、通り魔やらかしたり女性プレイヤーに性的暴行を働こうが、捕まえに来る国家権力なんざこのゲームには居ない訳だ。


 …………対人戦を意識した武器も用意しないとダメか。ああ、だからウェポンラックは


 普通に考えりゃ、狩猟へ行くのに武器なんて十個も要らねぇよな。


 ボタン押せばシステム通りに動いてくれるテレビゲームじゃないんだから、使った事ない武器をわんさか持ってっても危ないだけだ。


 武器を強化する時に『属性』とか『スキル』が追加されると仮定しても、十個も要らん。


 例えば属性強化が出来る前提で、火と水、風辺りの属性別で弓を揃えて、サブウェポンでナイフを二振りって所か? やっぱ十個も要らん。


 だから、多分空いた枠には対人武器でも入れとくんだろ。剣とか槍とか。それも、防具にだって属性がつくと考えるなら、対人武器も属性別に用意するのか? 面倒だな。


「まぁ良いや。レティ、さっそくハウジングと武器進化やろうぜ。話し合いなら腰を落ち着ける場所が良いだろ」


『ハウジング機能は了解しました。しかし、ハイウェポンは不可能です』


「………………なぜ?」


『お忘れですか? アキラ様は獲物を全て売却しました。


 …………………………oh。


「……なるほど。獲物はアイテムポーチに入れて持ち帰らないと強化出来ないんだな?」


『いいえ、それも不可能です』


「あん!? なんでだよ!」


『説明したのをお忘れですか? アイテムポーチは、リスタ様が持ち込みを認めた生前のアイテムと、万能晶店ショップハウスで販売されたアイテムのみ収納出来ます。つまり、


 …………え、もしかしてこれクソゲーでござる?


「あんなデカい獲物、どうやって持ち帰れと?」


『その為に町の機能が有るのです。中央広場にあった店舗を覚えてますか?』


 たしか、万能晶店ショップハウスと、鍛冶加工場アームドスミスと、狩猟組合ハンターギルドと、運搬蠍屋スティングポーター…………。


「ああ、運搬蠍屋スティングポーター! 運搬を依頼出来るシステムなのか!」


『その通りです。現場で獲物に触れながら指示を頂ければ、当機レティが運搬蠍屋スティングポーターへ依頼を出せます。すると、獲物を運ぶ為のポーターが派遣されます。名前の通りに蠍型の生物ですが

、敵では無いので攻撃しないでくださいね』


 なぜ蠍なのか分からないが、なるほどそう言うシステムなのか。クソゲーって思ってごめんね。


『ではアキラ様、不動産契約を行うのでしたら万能晶店ショップハウスまで移動してください。賃貸契約も売買契約も、あそこで行います』


 家まで売ってんのかよあそこ。そりゃ確かに『万能』だわな。


 最初に俺が見た時はそんなページ無かったが、システムロックされてたなら権利が無い奴に見えない仕組みだったんだろう。


 新情報をいくつか頭に叩き込みながら、俺は振り返って今まで放置してた女の子に声をかけた。


「じゃぁ、えーと、悪いけど名前だけ今教えてくれる?」


「ふぁいっ!? えと、み、ミク……」


 なんか今にもバグって位置ズレでもしそうなくらいアタフタする女の子は、ミクと言うらしい。そういやさっき、女の子のハントレットがミク様って呼んでたな。


「ほい、ミクちゃんね。俺はアキラ。二十八歳独身の元サラリーマン。趣味は機械弓コンパウンドボウを射ること」


「ぇと、ぁにぇ、ミクは、その、お料理……」


「おお、料理得意なん? 良いねぇ。こんな殺伐としたゲームだし、暖かいもん食えるならきっと心が豊かになるよ」


 相変わらず真っ赤でアワアワしてて、何をそんなに慌ててるのかちょっと聞いてみたい気もするミクちゃんと、軽く自己紹介を交わす。


 なんだろうな、この子。そんなイケメン主人公に優しくされた少女漫画のヒロインみたいなムーヴを続けてて、疲れないんだろうか。


 もしかして脳内に飼ってるイケメンが常時イケボで甘い言葉を囁いてるタイプの女の子か? トリップ系夢女子のガチ勢か?


 まぁどっちで良いか。とりあえず、この子は俺と話しをするんで良いんだよな? それとも、もう解散したくて慌ててるのか? 聞いてみようか。


「……えーと、それで、とりあえず腰を据えて話しをする場所が欲しくて、家を買うか借りるかしたいんだけどさ。その為には最初にいた場所まで戻らなきゃいけないらしいんだよ。だから悪いけど、一緒に来てくれるかな? まぁ、もう俺に用事が無いって言うなら此処で解散でも……」


「い、行きまふ! ついて行きましゅよぅ!」


 ふむ、まぁそうだよな。此処でさよならしても良い相手を助けたりはしないだろ。ハントレットの指示があったとは言え、見るからに荒事とか苦手そうな女の子だし。


「じゃぁ行こうか」


 町の真ん中に行けば良いだけなので、マップだけ表示してロケート機能は使わない。


 歩く町並みは『ゲームに出て来そうな狩猟村』をイメージした文明度なんだろうが、区画が理路整然として綺麗過ぎる。古い町並みなのに、最新鋭の新都市にも見える絶妙な違和感がある。


 町が広いから200人ぽっちが入ったところで込み合ったりしないし、見掛ける人達もまばらだ。たまにダンボールアーマーを着てる人も見るが、でも町の外に行こうって人は見当たらない。


 町の中心まで来ると結構人が残ってて、広場では五人から十人程で座り込んで何やら熱心に話し合ってるグループや、もっと大規模に集まって「我々は、生き残るために力を合わせ--」みたいな演説してる奴もいる。暇人か?


 どうしようも無い状況なんだし、リスタちゃんが此処は狩りゲーだって言ってんだから、狩りをすりゃ良いのに。


 少なくとも、町を出てすぐのところに居る弱そうな獣でも、狩って売ればハウジングは使えるのに。ポイントが足りるかは知らないけど。 


 そんな事を思いながら広場を突っ切り、この世界へ最初に降り立った記念すべき場所である万能晶店ショップハウスに帰って来た。相変わらず体育館にしか見えねぇ場所だぜ。


 外で演説してる奴も、どうせなら此処でやれば良いのにな。そしてら全校集会かよって笑ってやれたのに。いや買い物中煩くてウザイからやっぱ外で良いわ。


 後ろに着いてくるミクちゃんの歩幅に合わせて歩いたから少し時間が掛かったが、無事に店舗へ入ったのでもうシステムに接続出来てるはずだ。店内なら何処でも良いってレティが言ってたし。


「レティ、メニューを頼む」


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