作って良かった。



 一体確殺。しかし俺は次の矢を番える。今度は『めっちゃ静かに一切音を立てずに物凄くゆっくり矢を番える』方じゃなく、『静かに素早く矢を番える』方で動く。


 一体は仕留めた。しかし俺はまだ、奴らの習性と知性を知り得ない。群れが襲われ一体殺されたら他は逃げるのか? それとも襲撃者を探して襲って来るタイプなのか?


 そして奴らは俺が何処に居るかも気付けない馬鹿なのか? それとも木に突き立った矢を見て俺の居る方角に気付ける知性があるのか?


 どちらにせよ、もしくはどっちもが最悪のケースだった場合でも、俺はレベの数を減らさねば詰む可能性が高い。


 遠目だからサイズ感が怪しいが、目算では奴らの頭の位置は俺の頭よりも高いように見える。つまり俺よりちょっとデカいのだ。


 俺よりもデカい肉食獣がダース近い数襲って来たら流石に死ぬ。ダンボールアーマーなんて気休めでしか無い。


 レベが敵討ちに燃えるタイプで、尚且つ俺の居る方角に気付ける知性があった場合、奴らが混乱してる今のうちにレベの数を減らさないと今度は俺が狩り殺される。ついでに多分、後ろに着いてきてる女の子も巻き添えで死ぬ。


 いや、勝手に着いてきてる向こうだから俺のせいじゃないけどさ。


 構えを崩さず、少し焦りながらも静かに弓に矢を番え、はやる心を鎮めながらストリングを引いて、射る。……射る。…………射る。


 三射した。焦ったからか一本目は外れたが、それで修正したあと二本は命中した。


 しかし此処で残念なお知らせだ。奴らの状態が混乱から警戒に移行した。混乱から覚めても一目散に逃げないって事は反撃して来るタイプだった。更に追加で矢を当てた二匹、一匹目と同様に矢が貫通した大ダメージなはずだが、ピンピンしてる。


 あれが空元気なのか、マジで軽傷扱いなのかは分からない。当たり所が良過ぎて体内貫通したのに内蔵無傷って奇跡が起きた可能性もあるし、そもそも傷付いても即死はしない臓器だけ潰した可能性もある。


 だが嬉しいお知らせもあったぞ。奴ら知性に個体差がある。


 俺の矢と仲間の傷から敵の位置を割り出して、そのまま俺の方を睨んで走ってくる個体が二匹居だ。だが全然気付かない奴も居るし、なんなら「なるほど完全に理解したわ」って分かってないくせに俺に向かってくる奴を追い掛けて来る知ったかぶりが三匹居る。



 距離は120。この位置で五匹なら…………!



 位置バレしたから隠密性を半分以上捨てて、速度重視で矢を番える。完全に隠密性を捨てないのは俺にまだ気付いて無い馬鹿個体が援軍に来るまでの時間を伸ばすためだ。全バレしたら完全に捨てて引き撃ちする。


 オレに向かって頭を下げて、前傾姿勢で走ってるくレベを射る。射る。射る。


 その位置、その角度、その体勢ならむしろ助かる。胴体狙えば頭に当たる確率が上がるし、こっちに走ってるって事は相対的に矢の速度が上がる。つまり威力が上がる。


「…………ッオラァア!」


 射る。射る。射る。射る。とにかく射る。


 こんなギリギリの戦いになるとは思って無かったから、十分過ぎると思ってた矢の数がめっちゃ心配になるがそれでも射る。


 一匹目は運良くヘッドショット。二匹目は首から入って肺か心臓が壊れて潰れた。三匹は顔を抉りながら矢がれて脚にあたる。


 更に四匹、五匹と潰れて、俺に向かって来てたレベは全て落ちた。残り六。


 俺に射られた二匹は痛みでまだ混乱してのたうち回ってるから後回し、他の馬鹿四匹に向かって射る、射る、射る。


 追加二射程でやっと全員が俺の存在に気付いたがもう遅い。のたうち回ってる奴も立ち上がって俺に向かってくるが遅い遅い。


「………………あっ、やっべ」


 しかし、俺の悪運も尽きたらしい。元気な一匹と序盤二射目で射った一匹を残したまま、矢が尽きた。


「……チィ!」


 俺は弓を捨てる様にしてアイテムポーチに収納し、代わりにナイフをポーチから右手に召喚した。


 途中、半矢のレベがとうとう限界だったのか潰れるように転けたが、依然として元気な一匹は俺に向かって突進してくる。ちくしょう、バケモノと格闘戦なんて経験ないぞ!? いやある奴の方が稀有けうだろうけどな!?


「クソがっ、殺ってやらぁ!」


 覚悟を決めて、左腕を顔の前で横に構えて激突を待つ。俺よりも生物としてのつよさが上っぽいバケモノを相手に、攻撃を回避しながら戦うとか器用な真似が出来るとは思わない。


 まずは俺の左腕を噛ませて、その間に顔面をナイフで刺して殺す。上手く行けばそれで終わりだ。


「ダンボールアーマー作って良かったぜコンチクショー!」


「ホントですよねぇえッッ……!」


「んぇっ--」


 どっしり構えて覚悟も決めて、いざ激突と言う瞬間に、まさか俺の言葉に返事が有るとは思わず、ビックリして振り返ってしまった。敵を前にして俺は馬鹿か!?


「女の子は度胸ってお母さんが言ってたもぉぉぉおんッ!」


「なんの話しッ!?」


 見れば、後方に隠れてた女の子がつたない全力疾走で俺の元まで駆けて来て、通り過ぎ、そして俺の代わりにレベの口へと自分の腕を差し込んだ。


「ぃいッ!? 痛い痛い痛い痛いッ!?」


「そりゃそうだろっ!?」


 この子は何してんの!? 肉食獣の咬合力こうごうりょく舐めんなよ!? 噛み切りにくい生肉とか平気でブチブチするためのパーツなんだからな!?


 レベに組み付いた女の子は、レベごと地面を転がってゴロゴロと無様に転がる。


 しかし、あまりにも予想外の自体に頭が真っ白になって、俺も無様にもほうけてしまう。


 そんな俺に、今度は二つの電子音声が行動を催促するように強く響く。


『プレイヤー・アキラ様! 今のうちにトドメを!』


『アキラ様チャンスです! 今ならナイフで簡単に仕留められます!』


「--そ、そう言う事か!」


 この子、俺の援軍か!? 俺を助ける為に乱入して来たのか!?


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