森へ。



『アキラ様、今気付きましたがけられてます』


「え、今更?」


 

 森に入って十分くらい過ぎた。その間、俺は生き物の痕跡を探しながらレティが教えてくれた薬草を採集する。


 恐らくは植生が地球と違うのだろう。見た事も無い多肉植物みたいな奴を根っこから丁寧に採集した。


『お気付きだったのですか?』


「え、いやまぁ、あんな杜撰な尾行なら気が付けるだろ? それより、この薬草はどうしたら良いんだ?」


 採集した後の事は知らないから聞くが、何やらレティが不機嫌そうだ。


『…………当機はその「杜撰な尾行」にさて気付けなかった訳ですけどね。能力の低いサポート要員で大変申し訳ない思いです』


「え、いや待ってよレティ。そこまでは言ってないだろ? と言うかどっちかが気付けたならそれで良いじゃん」


 どうやら、索敵性能に自信があったのに負けたのが悔しいらしい。レティがいじけてしまった。だがサポート要員と自称するならサポートをしてくれ。この薬草をどうすれば良いんだ?


『…………アキラ様は、我々を一個の生命のように扱うスタンスですが、そのうえでかなりドライですよね。擬似知性や上位存在を友人と言うロマンチストなのか、拗ねたバディをどうでも良いと切り捨てるドライな方なのか、判断に悩みます』


「え、いや、どうでも良いとは思ってないよ。『後で聞こう』って思ってるだけ」


『つまり「今はどうでも良い」と判断のですよね?』


 え、どうしたのレティ。なんか面倒臭いメンヘラ女みたいになってるぞ。


 ずっと一緒に居るんだから人間臭くなるのは大歓迎だけど、そっちの変化はちょっと、出来れば止めて欲しい。


『で、どうして教えて頂けなかったので?』


「段々と言葉もフランクに寄ってきたな。良いぞ良いぞ。あー、で、理由だっけか? そりゃ、敵意が無いし、多分あれ、さっき万能晶店ショップハウスに居た一人だろ」


 あの後、猛スピードで鎧作ってから追いかけて来たんだろ。もっと俺から何か学べないかと。


 そんな理由なら咎める理由も無いし、邪魔さえしなければそれで良い。向こうにだってハントレットはついてるんだから、死なない様にアドバイスくらいはするだろ。


「で? 薬草どうすれば良いの?」


『………………売却の宣言をして頂けたら、当機レティが処理致します』


「あ、現地で売れるのね。それは助かる。じゃぁ売却」


 まだ心做しかプンプンしてるレティに従って売却を宣言すると、手に持ってた薬草がヒュンッて消えた。


 こう、何? ボールを七つ集めて願いを叶える漫画でキャラが戦闘中にヒュッて消える感じに、薬草が一瞬で消え去った。


「…………これで売られたの?」


『通帳とログを表示します』


【所持ポイント:34250】

 ・ミルリーフ売却:100P


 ・採集物売却実績解除。

 ・アイテムポーチ機能解放。


「…………なんて?」


『プレイヤーの行動により実績が解除され、解除された実績に応じてハントレットは機能が増えていきます。アイテムポーチは十種類のアイテムを即時使用出来るホルダー機能であり、アキラ様に分かり易く説明すると「十枠しかないゲーム的なインベントリ」機能でございます』


「神機能じゃん」


 レティに早速使い方を聞いて、ポケットに入れてゴチャついてるポーションとスプレー類、それと元々レイヴンを入れてて、今はラップとかダンボールの切れ端とかが入ってるだけのハンティングバッグも選ぶ。


 あとレイヴン本体と、ナイフもそうか。ダンボールアーマー以外の手持ちは全部一旦アイテムポーチへ入れる。


 するとまたヒュンッとアイテムが消えて、あとは俺が出したい時に出せる仕組みらしい。


「同種アイテムのスタック可能数は?」


『999ですね。コレを超えると同じアイテムでも別枠になります』


 よっしゃ! 矢をショトカに入れておけば大量に、音もなく持ち運べる! 最高じゃん!


『この調子で、適宜システムを教えていきますので。今日の陽が沈む頃には過不足なくアキラ様にご理解頂けてると思います』


「おう、頼むぜ。いやぁ、一個目からコレなら他も楽しみだなぁ」


 手荷物がスッキリしたので、弓だけ出して探索を続ける。多分、草食を無視して肉食を狩れって言うレティの指示にもまた意味が有るんだろ。


 森に入る前にウサギだかカピバラだか良く分からない生物が居たんで狩ろうとしたら、レティに止められたのだ。狩るなら肉食の方が良いと。


 だからこうして森に入って、レティが言う獲物を探してるんだが…………、おっと。


「見付けた、足跡だ」


 ひづめじゃなくて爪が見える足跡。二足歩行か? 足の面積と歩幅、土の硬さと足跡の凹み具合を見ると、思ったより大物だな。


「これ、下手したら人よりデカくないか? 大丈夫か?」


『ダメそうなら遠間とおまから射殺してください。それより、アキラ様は足跡から随分とますね? 生前はサラリーマンだったのでは?』


「…………あー、その、趣味が高じて」


 海外に行けるほどの休みは取れなかったが、年に数日の有給なら俺だって取れたんだ。それでコツコツと猟師やマタギに毎年教わりに行ってたんだ。


『ところでアキラ様、ガチ勢と言うお言葉をご存知ですか?』


「ああ、もちろん知ってるよ。俺の事だろ?」


『ハンティング・リィンカーネーションの申し子みたいな方がいらっしゃって、レティは少し楽しくなって参りました』


「ははっ、精々退屈はさせないように気を付けるぜ」


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