スニーキング。



 私の名前はミク。プレイヤー・ミク。


 何かと戦って、倒して、そうやって生きていくゲームに強制参加させられて、私にはそんな事出来ないって諦めてたけど、ダンボールの鎧を着たお兄さんのお陰で少し前向きになれたミクです。


 だから、その、もう少しだけ前を向ける元気が欲しくて…………--




「やめろやめろ、俺に変な属性を付けるな」




 お、お兄さんの後をつけてます。


 お兄さんの真似をしてダンボールにラップを巻いて、手首や身体を守るように鎧を作る。その場に居て、お兄さんの様子を見てた30人ぐらいは皆同じ事してて、ちょっと楽しかった気もする。


 それで、急いで鎧を作ったら、私は体育館みたい建物を飛び出しで、お兄さんの後を追った。


 どこに向かったのか分からなかったけど、ハントレットに聞いてみたら『予測で良ければ』と言って教えてくれた。


 視界に進む方向を線で押してえてくれたり、色々と助けてくれるハントレット。あのクリスタルと同じ声だけど、良く聞いてるとなんか少し違う感じがして、イライラしなくなった。この子は助けてくれる良い子だもん。


「準備完了、何時でも行ける」


 それから、ハントレットが予想してくれた場所に行くと本当にお兄さんが居て、何かを準備してた。


 壁の外に居るお兄さんの後ろで、町を守る壁と門の内側からコソッと見てると、お兄さんは何やら、ゴチャッとした見た目の、凄く強そうな弓? みたいな道具を組み立ててた。


 なんだろうアレ、アーチェリーかな? お兄さん凄いな、ちゃんとした武器を用意してたんだ。私なんてスパイスとか入ったバッグなのに。包丁も入ってるけど、お兄さんのあの弓と比べたら恥ずかしくて『武器』って言えないよ。


『…………ダンボールを身に纏いながらキリッとされましても』


「いやマジでそれはほっとけって」


「んぷひゅ……!」


 またお兄さんの手首が、お兄さんのハントレットがそんな事言うから、聞いてて笑ってしまった。隠れてるのに、まったくもう。


 そうして、お兄さんは最後にポケットからスプレーみたいな物を出して、自分にシューッてかけてから歩き出した。あれは何をしたんだろう?


 話し掛ける勇気も無くて、だからこっそり、後ろからついて行く。


『ミク様。見付かりたく無いのでしたら、あと5メートルほど下がりましょう。森に入るまでは視界が開けてますから、より慎重に進むことをオススメします』


「わ、わかった……」


『それと、これ以降に監視対象プレイヤー・アキラ様が行う行動を、可能なら真似てみて下さい』


「……ふぇ? どういうこと?」


『いえ、あちらのハントレットが導く攻略方針がおおよそ予測出来ましたので、せっかくならばミク様も乗っかってみては如何いかがかと』


 良く分からないけど、お兄さんの真似をすれば良いんだね?


 あと、お兄さんの名前ってアキラって言うんだ。ふーん、そう言えば転送される前にそんな名前で登録してたね。へぇ、よし、覚えておこっと。


 町から出てこっそりついて行く。転がってる岩の影に隠れたり、茂みにしゃがんだりして追い掛ける。


 ……………………べ、別にストーカーじゃないよ?

 

 その、ほら、お兄さんの真似っ子すれば、私ももしかしたら生き残れるかも知れないし、だからお手本にしたいだけだもん。


『森に入りますね。草原の小物には目もくれず。やはり予想通りの様です』


「は、早く追い掛けなきゃ……」


『それよりもミク様、もう包丁は準備して置いてください。森まで追い掛けるなら武装は必須です。アキラ様の反応はマークしましたから、多少離れたくらいでは見失いません』


「わ、わかったっ」


 ハントレットに促されるまま、私は料理道具から包丁を取り出した。バッグには包丁が五種類入ってるけど、私はその中から一番長くて細い刺身包丁を選んだ。


 やっぱり、刃物って長い方が強い気がするから。


 そしたら、左手に持った料理バッグを背中に背負い直す。このバッグは背負えるし手にも持てる、ツーウェイ仕様なのだ。


 手が空いたら、右手に握った包丁を両手でギュッと握り直す。 


『では、追いますよ。ロケーターを表示しますので、なるべくその通りに進んで下さい。此処からは命の危険もあります』


 そう言われて、死ぬかも知れないんだと理解する。けど、もうさっきまでの私は居ない。私も、あのお兄さんみたいに、アキラさんみたいに生きるんだ。


 決意して、私も森に踏み入れる。


 木々の間隔は離れてて、森と言うには歩きやすい場所だなって思う。けど、素人の私はそんな場所でも気を抜いたらすぐ転びそうになるから、気を付けて進む。


 いま、お兄さんは『狩猟』してるんだ。ゆっくり、静かに進んで動物か何かを探して、あの弓で射る。


 なのに、隠れて追い掛けてる私が転んで音を立てて台無しにする訳にはいかない。私に道を開いてくれたアキラさんの邪魔をするくらいなら、音を立てずにモンスターから食べられた方がマシだ。


 ゆっくり、ゆっくりと進む。ハントレットが『これ危ないよ』って言うのを視界に強調してくれるから助かる。


 躓きそうな石とか、踏んで音を鳴らしそうな枝とか、そう言うのを全部、赤い枠で囲ってくれる。見たらすぐを分かるようになってる。


「あ、ありがとねっ」


『お気になさらず。これがハントレットの仕事ですので』


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