町に出た。



 ダッサい自作ダンボール鎧を着て、コンパウンドボウが一式入ってるバッグを持って、俺はやっと万能店舗ショップを出た。


 ゲーム開始からそこそこの時間を使ってやっと拝んだその町並みは、ハンティング・リィンカーネーションの舞台となる場所であり、これから俺達プレイヤーが暮らす拠点である。


「……デカいな」


『マップを表示します』


 マップを見ると現在地は町の中心になっている。見渡すと周りには広場があり、その広場を囲うようにして大きな店舗が並んでる。更にその外側が居住区画らしい。


「えーと、店舗の名前がそれぞれ、万能晶店ショップハウス狩猟組合ハンターギルド運搬蠍屋スティングポーター鍛冶加工場アームドスミス?」


 ショップエリアはショップエリアって名前じゃ無かったんだな。万能晶店ショップハウス? ミドルサイズのクリスタルが置いてあるから店なのか?


 まぁ良いか。店舗の名前なんて些細な事だ。漢字にルビが振ってあるから何となく店の内容も分かるし。


『アイテムの購入は基本的に店舗の内部でしか出来ません。買い忘れなど御座いましたら、今のうちですよ』


「いや大丈夫だ、ありがとう。で、俺は何をすれば良い?」


『では、視界にロケーターを表示しますので、それに従って進んでください。狩猟に行きます』


「了解」


 レティに同意を返すと、ふわっと視界に線が現れた。目的に向かってひたすらに伸びる棒線だ。これに沿って進めば目的地まで行けるんだろう。


 町は殆ど綺麗な円形で、中央広場から東西南北へ向かって真っ直ぐ大通りが伸びてる。まぁこの世界の方角なんて知らないので、あくまでキッチリ四方向って意味である。


 広場を抜けて大通りへ。中央広場の四店舗以外は全て民家らしいが、見渡す限りほぼ無人。いったい誰が住んでる民家なんだろうか。


「なぁレティ、民家は誰が住んでるんだ?」


『誰も住んでません。アレ等の家屋は全てプレイヤー用です』


「…………に、しては多くないか? プレイヤーって二百人くらいだろ?」


『アキラ様にも分かり易くご説明しますと、此処は新規サーバーの様な物でして』


 ああ、なるほど。つまり後からどんどん追加のプレイヤーが来るのか。俺達はこのサーバーの第一陣みたいな感じで、他のサーバーだったら最初からプレイヤーもいっぱい居たのか。


「そう言えば、プレイヤーも日本人しか見てないな。国別でサーバー管理してるのか?」


おおむね、その認識で合っています』


 他にも色々と聞きたいが、とりあえずチャートに従ってれば初動はミスらないはず。


 万能晶店ショップハウス以外の店舗の事だって聞きたいし、家屋がプレイヤー用と言うならその入手方法も知りたい。でも、多分レティの導くフローチャートに従って行動すれば、その時々に適切な説明が入るんだろう。今聞くのは二度手間だ。


『町の外です。警戒して下さい』


 ロコーターに従って町を出た。真円形の壁に囲まれた町は、開きっぱなしの大きな門を出たらすぐフィールドらしい。


 そこは岩などがゴロゴロしてる草原の様なところで、少し離れた場所には森も見えてる。


「そんなにすぐ、警戒が必要なのか?」


『アキラ様、人は拳程のサイズの落石でも命を落とします。まして、狩猟対処モンスター相手ですから。小さな動植物でさえ油断しないでください』


 そ、そうだったわ。運営は俺達を適度に殺したいんだった。死にたくないからと小動物だけ狙う様な奴をシッカリと殺す為の措置があっても不思議じゃない。


「じゃぁ、武器も用意した方が良いか?」


『可能ならば』


「了解」


 俺は持ってきたバッグを地面に置いてファスナーを開ける。中から取り出すのは愛用のコンパウンドボウ。製品名は【GGB M88レイヴン】だったかな。


 本体以外にも様々なパーツをバッグから出して、一つ一つをレイヴンに装着して行く。


 全てのパーツを取り付けて完成したのは、M字型のコンパウンドボウで、ドローウェイトは60〜80ポンドの本格的な狩猟用。


 ドローウェイトって言うのはストリングを引く時の重さで、それイコール弓の強さって訳では無いのだが目安ではある。


 60~80ポンドって言うのは金具を使って調整出来るってこと。


 俺のレイヴンがどのくらい強い弓かと言うと、ドローウェイトを70〜80ポンドくらいで矢を射ると、矢が獲物の胴体貫通して地面にぶっ刺さるくらい強い弓だ。


 矢の威力って意味なら流石にライフルには負けるかも知れないが、こと「殺傷能力」って意味ならライフルにも匹敵する得物えものである。


『……武器のスタイリッシュさと防具の見た目が奇跡的なミスマッチを起こしてますね』


「ほっとけ。ある程度稼げるって環境整えたら普通の防具を買うさ」


『お優しいことで』


「だからなんの事だ。まったく分からんな」


『アキラ様は所謂いわゆる、ツンデレと呼ばれる方なのでしょうか?』


「やめろやめろ、俺に変な属性を付けるな」


 レティに揶揄からかわれながらも、準備を続ける。コンパウンドボウは完成したが、肝心の矢が準備出来てない。


 ファンタジー作品だと矢筒と呼ばれる物にジャラジャラと矢を入れて腰に吊るすが、現代の機械弓を使った狩猟ではそんな事しない。弓本体にも備え付けられてるが、矢を一本ずつホールドしてくれる専用ホルダーを使う。


 何故かって、矢をジャラジャラと鳴らしながら移動した獲物が逃げるからだ。


「……まぁ、モンスターをハントする時は多分筒にどっさり矢を準備してくると思うけど」


 鹿や兎を狩るって言うならホルダーを使うが、多少の音では逃げないどころか絶対にぶっ殺してやる気持ちで襲って来るモンスターとかが相手なら、矢筒にびっちり入れて持ってるくべきだろ。矢弾やだまが切れたら死ぬんだから。


 さて、専用ホルダーを弓本体に取り付け、そして予備のホルダーも腰に括り付ける。一個のホルダーで十本保持出来るタイプなので、普通の狩猟なら充分すぎる量だ。と言うか多いくらいである。


「準備完了、何時でも行ける」


『…………ダンボールを身に纏いながらキリッとされましても』


「いやマジでそれはほっとけって」


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