不平等がゲームルール。
レティを相手にリスタちゃん談義をしてたら、もう結構な人数が転送されて来てた。ショップエリア内部が賑やかである。
「結構時間使っちゃったな。ごめんレティ、フローチャートの続きお願い」
『……続けて良いですかと、レティは確かに
若干プンプンしてるレティの説明に促され、ショップエリアのシステムにアクセスした。
すると、ネットショップのトップページみたいなワイヤーフレームが目の前にポップする。本当にネットショップ風なんだな。
データとして陳列させる商品欄は大別すると二種類に分けられ、購入者の生前に関係するアイテムとゲームのアイテムがタブ分けされてた。もっと細分化させてラインナップを見たい場合は検索機能やタグ検索を使えば良いらしい。
それで、生前に関する商品とはそのまま、生前に自分で購入した事があるアイテムを此処でも購入出来るらしい。
一通り確認したら、次はゲームアイテムのタブへ移動する。こっちはこの世界特有のアイテム群だけが表示される。
例えば、怪我をした時に使うのだろう『
まぁ、初期装備にしか見えない『鉄の剣』とか『革鎧』が最低でも万単位のポイントを要求されるんだけど。
「なんと言うか、こう、かなり不平等だな?」
『お気づきですか』
「ああ、だって、俺なんて特典で持ち込んだ道具がコレだぞ?」
俺は椅子の横に置いたバッグを膝の上に持ってきて、ファスナーを開けて中を見る。
そこには、俺の私物の『武器』があった。
「生前、俺の趣味は『弓』でね。それも和弓を使った弓道とかじゃなくて、最新鋭のコンパウンドボウを使った狩猟に興味があった」
まぁ、興味があっただけで、出来なかったんだけどな。
俺は弓を使った狩猟に憧れたんだが、死ぬほど残念な事に、日本では弓を使った狩猟が全面的に禁止されてる。
例え狩猟対処のクマやイノシシが相手でも、弓で獲物を狩ると捕まってしまうのだ。
「まぁ、だから俺はこう言う、モノだけは買って狩猟に憧れたまま、一人でシコシコと
本当は海外に行って弓狩猟が出来るところでライセンスとか取りたかったのだが、会社がそこそこのブラックで忙しく、そんな時間を作れなかった。
『なるほど。つまりラインナップにもソレらが有るんですね』
「そう。そして、こんな武器は大人くらいしか買えないだろ?」
あの白い空間には、大人が多かったけど子供も居た。
小学生だったり、中学生だったり、あの場に居た子供の年齢はバラバラだった。
けど、そんな子供なんて、百円ショップで包丁すら買った事が無い可能性がある。
生前に購入した経験のある物が買えるシステムは、単純に『人生が短い』ほど不利だ。長く生きてればその分、色々なものを購入した経験も増えて行く。
人の世で生きる事は、すなわち消費を重ねて行くことなのだから。
他にも、ゴルフクラブとか購入してそうなオジサンとか、
狩猟しろって言われてるのに、ショップで売ってる初期装備が初期ポイントの倍で売ってる。
そんなゲームに於いて、簡単に武器を用意出来る人って言うのは圧倒的なアドバンテージを持ってるだろう。
ちなみに、生前のアイテム購入に必要なポイントは、基本的に日本円とイコールで大丈夫そうだ。昔に五万で買ったコンパウンドが五万ポイントでラインナップされてるもん。
「ああ、そうか。順番に死なせて浄化するのが目的なんだから、不平等で構わないのか。運営はプレイヤーに、適応出来ない順で死んで欲しいんだもんな」
『概ね、その解釈で大丈夫です』
平等にし過ぎてプレイヤーの死期が被ったら、このゲームをしてる意味が無い。魂の浄化槽的なシステムに強い負荷がかかってしまう。
『では、フローチャートを続けます。アキラ様、そのボーナスポイントで有り余ってる財力を利用して、ショップで必要な物を購入してください』
「ふむ。『必要』の定義は?」
『今日を凌げる量の食料と、主にアキラ様が想像する「狩猟」に必要な道具で大丈夫です』
「俺が想像する狩猟、って言うのはアレか。下手にファンタジーなイメージはせず、普通に狩猟するつもりで準備しろって事か?」
『正しい解釈です。様々疑問は有るでしょうが、チャートに従って頂けるならアキラ様に損をさせません。それがハントレット足るレティの存在意義です』
「…………うん。頼んだよレティ」
ショップを見て、買い物をする。
俺のバッグの中には、生前所有してたコンパウンドボウの中でも最も強い物が一式入ってる。だから武器は要らない。
ラインナップは俺は何故か他の人と比べて九倍のポイントが有るけど、本来なら5000ポイントでやりくりするんだよな。ちょっと意識してみるか。
と言うか、明らかに初期ポイントで買えない物を買ってたら目立つだろ。寄生目的に言い寄られても面倒だ。最初は慎ましく行こうか。
「…………食料は、とりあえず栄養とカロリーが取れれば構わない。ブロック栄養食が三箱も有れば今日のパフォーマンスを維持出来る」
ブロック栄養食は一番有名なカロリーをメイクしてくれるアレが200ポイントで、百円ショップやホームセンターで売ってるパチモンは100ポイントで買える。今は美味さや質を見る時じゃない。パチモンの方で構わん。
「それと、メインウェポンはあるけど、狩猟に行くならナイフが要るだろ。それと、動き易い服にちょっとした防具」
食料に300。ナイフもとりあえず使えれば良い程度の質で500。それと激安の殿堂で買ったジャージ一式で1500ポイント。
そして、ちょっとしたダンボール紙の太い筒が500ポイントで、食材をレンジでチンする時に使うラップを二本で200ポイント。
現在、3000ポイント消費中。残り42000。
『……? それは?』
「いきなり革防具とか買ったら目立つだろ。最初は有り合わせで何とかする」
購入した物は、目の前の床に黒い箱がニョキっと生えて、その中に入ってる方式で届いた。リスタちゃんにバッグを出してもらった時と同じだな。
そこからまずジャージを取り出して着替える。上着のシャツを脱ぎ捨てて、チノパンも脱ぐ。死後の世界で恥もクソも無いだろう。
そうして上も下もジャージに着替え、上着は中ほどまでファスナーを閉める。
次に取り出すのはナイフと分厚いダンボール紙の筒。
『ああ、なるほど。自作のプロテクターにするのですね』
「そうそう。ラップってグルグル巻きにすると、意外とカッチカチになるからな」
まずナイフで筒を10~20センチくらいに輪切りする。輪切りにした厚紙パイプをラップでグルグル巻きにして強度と耐水性を与える。
それが終わったらラップを巻いた筒に足や腕を通して、
『関節や胴体はどうするのですか?』
「こうする」
更にショップで買い物をする。百円ショップで売ってるダンボールと、ホームセンターで売ってる自転車用の関節保護プロテクターだ。プロテクターが1000ポイントとちょっと高いが、ダンボールは100ポイントで変えたので別に良い。
残り40900ポイント。
ダンボールをナイフで少しバラしてから、胴体がすっぽり収まる筒状にする。
その後、脱いだシャツをダンボールに被せてから、やっぱりラップでグルグル巻きにして強度を出していく。ポイントは、ラップとダンボールの間に挟んだシャツ。これの袖を肩紐代わりに出来るように加工していく事だ。キャミソールみたいな形の防具にしたいんだよ。
途中、ラップが足りなくなったから追加で二本買う。中途半端な巻きだと強度が出ない。徹底的に巻かねば。ギッチギチに巻いていく。
残り40700ポイント。
完成したら、頭から被って装着する。関節にはプロテクターをつけて終わりだ。
「どうよ?」
『見た目は犠牲となりましたが、防御力は充分ですね』
「ははっ、見た目に命を賭けたい奴はそうすりゃ良いんだよ。俺は違うから、こうやって見た目を犠牲にして防具を作った。ラップとダンボールなら誰でも用意出来るだろうし、材料費安いからな。初期ポイントでも充分な物を用意出来たぜ」
『………………お優しいのですね』
「……んー? なんの事だ〜? 俺には分からんなぁ」
『いえ、何でも有りません。では装備の用意が出来たのでしたら、ショップから出ましょう。次のチャートへ進みます』
「あいよー。…………最後にこっそりポーションと臭い消し、あとタバコだけ買わせてくれ」
ゲームアイテムの中に『万能臭い消し』ってアイテムが1000ポイントで売られていた。スプレー型のアイテムで、ハンターにシューッとぶっかけると一時的に完全な無臭にしてくれるらしい。マジかよ。タバコ吸った後にも狩猟出来るとか神アイテムじゃん。
そんな訳で、初期ポイント内で装備品は揃えたけど、欲に負けて嗜好品へ手を出した。ポーションも保険として買う。カッコつけて死んだら意味無いからな、コレは初期ポイントがどうとか言ってられない。
ポーションが5000ポイント。タバコが550で、臭い消しが1000。
【所持ポイント:34150】
準備が終わった俺は、ポーションなどをポケットに突っ込んだらバッグを持って、小学生が夏休みの宿題に作った工作みたい不格好な姿でレティに促されるままショップから出て行く。
ああ、そう言えば、何やら俺の周りに居た他の人達も、何故か相次いでダンボールやラップを買ったりしてたが、アレはいったい何をするんだろうな?
ちょっと大きな声でレティと会話をしてたオッサンには、全然分からんなぁ。
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