ボーナスポイント。



 ちらほらと後続も転移して来てる中で、俺は未だにパイプ椅子に座ってた。


 ショップエリアに居座ったまま、様々な説明を受けてゲームの遊び方は理解する。ついでに、ショップエリアとやらの使い方と、此処にたくさん並んでる椅子の意味も教えて貰った。


「あ、食事処の代わりなんだ?」


『ショップエリアにてご購入頂いた食事をその場でお楽しみ頂いたり、集団戦で狩猟を行って来た方々の祝勝会や打ち合わせ、休憩にもご利用頂けます』


 要するに、此処ここはイートインが付いたコンビニみたいなモンなんだろうな。それのめっちゃ大きなバージョンとでも言おうか。


 それとも、料理以外も売ってるファミレスの方が近いか? 今どきはタブレットで注文するし、料理じゃなくて武器防具までラインナップされてるファミレスを想像すればそれで良いかもしれない。


 しかしまぁ、此処がそんなコンビニやファミレスみた使い方されるのは、当分先だろうなと思う。


 だって今も、後続のプレイヤーが中央クリスタルの傍に続々と転移して来てるが、誰も彼もが呆然としてり、泣き叫んだり、クリスタルを蹴飛ばしながら罵詈雑言を浴びせたりと、かなり無為むいな時間を過ごしてる。


 このゲームをちゃんとゲームだと理解して動き出してるのは、極小数だけだった。


 まぁ、うん。『お前はもう死んでる』とか、一子相伝の暗殺者の宣言みたいな事を言われたと思ったら、『だからもう一回死んで来てね☆』なんて悪魔みたいなゲームをやらされるんだ。呆然ともするだろう。ワクワクしてる俺がオカシイ。


「で、ハントレット。俺はまず何をするべき? フローチャートみたいなの有ったら教えて」


『了解しました。ではまず、ウォレットをご確認頂いてよろしいでしょうか。アキラ様の現状を正しく把握する所から始めましょう』


「現状? まぁ、分かった。じゃぁそのウォレット? を見せて」


 俺が口頭で宣言する事が認証となって、ハントレットは動作できるらしい。


 何かしらの理由で喉が潰れたりしたら、強く強く念じればハントレットが読み取って動作してくれるそうだ。


 そうじゃなくても、ショップエリアで回復アイテムを買っておけば、潰れた喉も治せると言う。だからそれらを購入して備える為にも、ウォレットをまず確認しろと教えられる。


 ハントレットへ動作の指示を出すと、それがファジーな指示でも対応してくれる。


 青く光って手首の周りを回転する刺青ブレスレットがチカチカと点滅すると、俺の目の前にシンプルなワイヤーフレームの画面が出て来た。勿論、空中に浮いてる謎仕様だ。超技術的なホログラムだとでも思えば良いか。死後の世界だしな、何でもアリだろ。


「ちなみにだけど、この画面って他の人にも見えてる?」


『見えません。見えるように設定も可能ですが、デフォルトではハントレットのマスター以外には見えない仕様です。更に、特定のプレイヤーにだけ見せる設定等も可能となっております』


「なるほど」


 便利な事だ。まぁソロで遊ぶ気なので人に見せる気は無い。誰にも見えてないならそれで良い。


「ついでにもう一つ、ハントレットの声は俺以外にも聞こえてる?」


『聞こえてます。こちらは、プレイヤーを独り言をブツブツ言い続ける不審者に見せない為に、デフォルト設定がパブリックとなっております。もちろん、他のプレイヤーへ聞こえない様に設定も可能で、特定のプレイヤーにだけ見せる設定も同様です』


 とことん、ソロはソロ、パーティはパーティで遊べる様にしてあるんだな。此処だけ見ると凄い親切だ。でも、多分これ親切にしてグングン先に進んで良い感じに挫折したら死ねって事だろ? 恐ろしいな死後の世界は。


「……ん? お、初期ポイントとか貰えるのか」


 見れば、ウォレットには6000ポイントほど入ってた。これが多いのか少ないのか分からないが、初めから元手が有るのは正直助かる。


 一応、どんな内訳なのかと通帳の方にも視線を飛ばすと、少し意味が分からなくてフリーズしてしまった。


【所持ポイント:6000】

 ・スタートボーナス:5000P

 ・クリスタルボーナス:1000P

 ・プレイヤー:アキラによる呼称「クリスタルさん」が気に入ったのでボーナスポイントを付与しました。良い死出の旅を。

 ・P.S.呼称が「クリスタルさん」では無く「クリスタルちゃん」だった場合、オマケは一桁増えたでしょう。覚えておいて下さい。


「…………最高か? いや、なんかクリスタルは思ったよりずっと親しみ易い存在みたいだな。て言うかクリスタルちゃん、通帳の履歴にコメントって有りなの?」


 俺が思わず呟くと、ハントレットが表示する通帳が勝手に更新されて、ポイント残高に変更が入る。


【所持ポイント:15000】

 ・クリスタルボーナス:9000P

 ・良い心がけです。そして有りか無しかで言えば、クリスタルちゃんが法なのです。


「え、待ってよ普通にお喋り出来るじゃん。お友達になろうよクリスタルちゃん」


 て言うかリアタイで確認してるのか? 最初だけ? 今後も見守っててくれるのか? どうなんだろ。


 それからしばらく、お茶目にポイント支援してくれたクリスタルちゃんへ呼び掛けるも、通帳のポイント履歴はもう応えてくれなかった。残念だ。


「クリスタルちゃんとはお喋り出来ないんだな」


『マザーと雑談は流石に無理があるかと存じます。アレは輪廻のエネルギー管理を司る上位存在です』


「……ふーん。クリスタルちゃんの本名はマザーって言うの? でもクリスタルちゃん呼びが気に入ったって言うなら、マザーって呼び方はあまり好きじゃ無いのかな。…………マザーってだけ聞くと、『母』って意味なのに『母体』的な意味が強過ぎて無機質に感じるもんな」


『あの、アキラ様。重要なのはそこでは無く…………』


 AI的な存在であるハントレットを困惑させながら、俺はクリスタルちゃんの境遇を考える。


 確かに、今際の際死ぬ時に関する記憶を抜いた死者を集めて、デスゲームをやれって言うクリスタルちゃんは酷い存在かも知れない。


 でも、俺達が現世で死んだのはクリスタルちゃんの責任じゃないだろ。俺達は俺達自身のミスや事故、寿命で死んだだけだ。クリスタルちゃんは何も関係ない。


 もちろん『現世で亡くなりました』って言葉を信じるならだけどな。けど疑う材料も無いんだから、今は信用しとけば良いんだよ。


 ハントレットを装着させた時に、相手が超常の存在だって充分に理解出来るだろ。信用出来なくても反抗するだけ無駄なのだ。


 それに、相手を信用するならば、死後の世界や輪廻転生をしっかり回すのに、システムの負荷を減らさなきゃって説明は理解出来る。


 そしてその為の補助システムがこのゲームって言うなら、それも必要な事なんだろう。


 別に、俺達に対して、拷問の末に死ねとか、病床の末に苦しんで果てろとか、そんな事は一言もクリスタルちゃん言ってないんだ。ただ適度に生きて敵度に死ねってだけ。


 此処で頑張ってポイントを稼いで幸せになっても良いし、死んだ事実が信じられないならポイント稼いで記憶を買い戻しても良い。


 ただ俺達は、輪廻転生のシステムへかえる順番待ちをしてるだけ。その時間を待ってるだけじゃ辛いし、魂の浄化を『二度目の死』だと考えるなら順番を他者に委ねたくないと思う奴も居るだろう。


 だって『お前、一番目真っ先に浄化死ね』って言われたら嫌じゃん? 少なくとも俺は嫌だ。少し気持ちを整理する時間くらいはくれって思う。


 だから、浄化の順番はゲームを生き延びて自分で変える。死に納得出来ないなら記憶を買い戻せる。そも、浄化されたく無かったら生き続ければ良い。


 これだけ自由を貰ってるのに、何を文句言う必要が有る?


 嫌なら今すぐ自害でもすれば良い。そうすればすぐ浄化されて輪廻に戻れる。


 自害が嫌で、現世で死んだのも納得出来ないなら、記憶を買えば良い。その後に文句を言え。まぁ記憶の削除が出来る相手なんだから、捏造だってお手の物だろ。それすらも信用出来ないならマジで死ぬくらいしか対抗手段なんて無いんだよ。つまり足掻くだけ無駄。


 俺達に出来るのは、クリスタルちゃんを信じてルール通りにゲームを遊ぶ事だけ。仮に反抗するにしても、ゲームを遊びながらひっそりとやるべきだ。


『あの、もう次のシステム説明へ移って宜しいですか?』


 そんな事をつらつらと語ってたら、ハントレットにガン無視されて会話をザックリと切られた。いや君、俺をサポートする存在じゃ無いの? ガン無視って有りなの?


「ハントレットも結構ドライだね。クリスタルちゃんが上位存在とは言っても、同胞みたいなもんじゃないの? 罵詈雑言浴びて蹴られてるクリスタルちゃんが可哀想じゃないの?」


おそれ多いです。我々ハントレットは所詮、マザーに作られた擬似知性ですから』


「そんな悲しいこと言うなよ相棒。なんならハントレットにも名前付けようぜ? ずっと一緒に居るから、相棒バディとか友達フレンズなんてどうよ」


『当機ハントレットの呼称変更がお望みですか? 設定メニューを表示します』


「あくまで事務的! さっきまでの気安い遣り取りどこ行ったよ!」


 ハントレットが表示したワイヤーフレームを見ると、結構詳細に設定を弄れるらしい。ハントレットのデザインすら変えられる。


 マジでネトゲかよって感じに『有料スキン』みたいなデザインもあったけど、デフォルトで使える鎖型デザインを選びつつ、ハントレットの名称を『レティ』にした。


『…………? あの、バディかフレンズが候補だったのでは?』


「ん? いや、なんかハントレットが女の子っぽく感じたから、ハントレット:レディを可愛くモジってみた」


 ハントレット改めレティの見た目を変更すると、本当にそのまま形が変化した。鎖のピクトグラムが手首を一周してる感じのデザインに変わる。


 その様子を眺めながら対応すると、レティが困惑してるのがありありと分かった。なかなかに人間くさいAIよね。


『……当機は無性ですが?』


「いや分かってるよ。何となくそう思ったってだけ。そも、名前ってそんなもんじゃない? 最初はフィーリングで呼べば良いんだよ。愛着なんて後から湧いてくるさ」


 名前なんて物は、その名で過ごした日々が折り重なって愛着となるのだ。最初は安直だったりテキトーで良いんだ。そのウチ手放せなくなるから。


「クリスタルちゃんも、せっかくだからクリスちゃんとでも呼ぶ? それともリスタちゃんとか、スタルちゃんとか、モジってみる? レティはどう思う?」


『早速呼ばれるのですね。了解しました、当機は今からレティです。…………そして、上位存在の呼称を下位存在たるレティが決定するのは畏れ多いのです。どうかお許し--』


 その時、通帳のポイント履歴がまた勝手に更新された。


【所持ポイント:45000】

 ・クリスタルボーナス:30000P

 ・リスタが気に入りました。とても良い心掛けです。


「やっぱお茶目じゃん! ねぇ、見てるなら友達になろうってば! ねぇ!」


『御本体様から回答が届きましたね。もうこの手のご質問はレティではなく、マザー改めリスタ様にお願いします』


 そんな茶番……、茶番? 茶番で良いか。茶番を超えた俺のウォレットには、何故か初期ポイントの九倍が記載されていた。


 俺のスタートダッシュ、えげつねぇな。まだ店の商品すら見てないのに。


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