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私には、
私は生まれた瞬間から財閥のお嬢様で、何不自由なく育てられた。
だけどその恵まれた境遇が、友達を作る妨げになっていた。
お金持ちで
学校生活の中で、そのことに気付く場面が幾度となく訪れた。
『依ちゃん、今日の放課後うちでたこ焼きパーティーするんだけど、来ない?』
『たこ焼き…パーティー?ごめん、放課後はお茶会に招待されてて行けそうもないんだ』
『うわー、”お茶会”って、喫茶店でお茶するってのとは、まったく次元が違うよね…。依ちゃんってやっぱり…リアルお嬢様なんだね』
それからというもの、何度か同じようなことに誘われはしたが、断り続けた結果、当然の如く誘われることはなくなっていった。
誘われることは嬉しかったのに、ことごとくままならない不自由さに、息が詰まりそうな日々を送っていた。
みんな学校では表面上仲良くしてくれてはいた。だけど、あまり会話が成立せず、ますます気持ちが沈む。
そんなある日、ある財閥企業主催のパーティーに行くと、主催者の息子としていかにもモテすぎて、”異性には困っていません”的なオーラ全開のイケメンから誘われるはめに。だけど…。
「俺とダンスを踊ろうって言ったら?」
高圧的な目と発言が
「すみませんが、心を許した相手としか踊りたくありませんので」
私にしてはめずらしく、率直に感情を
心の
他人からの高圧的な態度は生まれて初めてだった。だから即座に平常心を保てなくなり、手段を間違えてしまった。
相手は気持ち悪く
「なんだそれ。まあいいや、俺に対する見たことのない
気色が悪い
「どうして気を付ける必要があるんですか〜?」
これは幼稚な演技にすぎない。私は何も知らない世間知らずなお嬢様ではない。だけど、この手段が正解なのだ。軌道修正、成功。
”本当の依を知る権利があるのは、依を心の底から愛してくれる人だけなんだよ”
物心ついた頃から、両親にそう言い聞かされてきた。
だから、私のことを何も知らない男に脅されようが、警戒しながらも”世間知らず風なお嬢様”を演じることに徹することにした。
「ふーん、わかんないんだぁ。可愛いお嬢さんだな」
この馬鹿にされた言い方は、やはり
「あはっ、まったくわからないですー」
正直自分が気持ち悪く、ここから今すぐ立ち去りたい気分だった。
「俺につれない女がこの世にいたとはなぁ…」
すみませんが、あなたに
とにかく私にとっては、生理的に受け付けないレベルで嫌いなタイプだった。
「ハードルの低い女性を相手にして、あなたは満足なんですか?」
まずい。この男と会ったことで、私の理性は働かなくなったらしい…。
”世間知らず風なお嬢様”を演じることは、この男の前では無理なのだと悟った。
「ハードルの低い女、ねぇ…。大好物って言ったら?」
「別に何も」
男は私の耳元に近づき、ふんっと一度鼻で笑ったあと。
「魅力的な君にまた会いたくなりそうだ」
ならないで…!と、無表情を保ちつつも猛烈に願った。
遠ざかる男など見向きもせず、さっさと歩みを進めた。
だが男は振り返り、私の後ろ姿を見つめていたことなど、知る由もなかった。
家に帰ってすぐ、私の2つ年上で姉的存在のメードの
すると、次の日には専属のボディーガードを
ボディーガードとは
だけど、父親共々、厄介な親子だということは、その
同時に、付き合いでパーティーに愛娘を行かせたことを後悔し、気に病んでいる様子も
心配する両親のためにも、ここはおとなしく従うしかなかった。
早速翌日には、私専属のボディーガードがやって来ることになった。
「え?泊まり込みで私を警護するって何事よ!」
メードの咲さんにめずらしく声を荒げてしまった。
「それ事ですよ、依様。それほど危険が迫ってるかもしれないって事です」
若いのにいつも冷静な口調が玉に
「自由を奪われるのは嫌だけど、私を守ってくれる紳士的で男前なボディーガードさんをどこの部屋に案内する気?」
紳士的で男前かどうかなんてわからなかったけれど、そんな冗談めいたことが言えてしまえるのも、私が咲さんに心を開いているからだ。
「もちろん依様のお隣の空き部屋に決まってます」
「守られる側がボディーガードを
自然と冗談ばかりが口から飛び出る。
「依様、それも楽しそうですね」
私の冗談をさらっと受け流すことも、メードの仕事の
「さあ、もうじき来られますよ」
それから約一時間後、ボディーガードさんがやって来た。
冗談で言っていた、”私を守ってくれる紳士的で男前なボディーガードさん”は、
背は180㎝以上。鍛えているであろう身体は、意外にも細く見えた。顔は
思っていたボディーガード像ではなく、拍子抜けしてしまった。
お互いに挨拶を交わす。深々としたお辞儀のあと、瞳を合わせた。
その綺麗な瞳にくぎづけになり、胸がぎゅっと締め付けられた。
これが、私とボディーガードさんの運命的な出会いであることも知らずに、淡々と時は過ぎていった。
彼は身を
他の雑念など
警戒していたわけではないが、彼と接する時は感情を殺す癖がついてしまい、無の精神を貫きたかった。
そのわけは、単にときめく感情を悟られまいとした結果だと思う。
だけど、ある日を境に、彼の
タガが外れ、調子に乗った私は、思い切った行動に出る。
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