第43話 ぜったいやると思ったのよ……
「グール魔法、“ジェネレイト”」
シュシュが唱えたのは新しい固有魔法のひとつ。
手を横に広げた右手の辺りに、転生前のグールの腕が現れる。
「ひゃあぁ」
フィナはそれが既に気持ち悪くて情け無い声を上げて震えてしまう。
現れたグールの腕はそのちぎれた断面から骨を伸ばし血肉がまとわりついて持ち手とし、先端に大きな鎌をつけた武器となり、空中に固定されている。
「勝負だ、鳥スケ」
地這鳥に対して余りに大きな鎌は、振るわれる事なくスライドして横向きのギロチンのように鳥の胴体を上と下に分けてしまった。
「キモいキモいキモいキモいキモいキモいっ!」
「何言ってんだ。かつての俺の腕を大事に持っててくれたんだろうよ?」
クルーンを通って再誕するまでフィナが大事に抱えていたはずである。
だからこそシュシュはエルフとして生まれたのだ。
「だって何よあれぇ!何が“勝負だ”よっ、明らかにオーバーキルだったじゃないのよおお」
中身を盛大にぶちまけた地這鳥は、シュシュが“サクション”で吸い込んで、今はもう跡形もない。
「初めてなんだからちょっとはカッコつけたいだろ?もちろん魔力の注ぎ具合で小さくも出来たんだけどよ、鎌を手で持ってなんて事は経験ないからさ」
シュシュの魔力全ツッパの大鎌は中空に浮いて、その指示通りに自動で動き切り裂いたのだ。
そのサイズがそもそも手に持てる物ではないのと、そんなセンスは持ち合わせてねえかも知れないと言うシュシュの今できる実践的使用法だとか。
「ぜえったい夢に出るわ。なんでそんな可愛い見た目で扱う魔法がグロいのよ」
「フィナに似たエルフだからじゃねえか?」
「わたしはあんなの出来ないわよっ!」
「はっはっは、まあ、それぞれ得手不得手があるってことだな」
どうやら検証は充分らしい2人は「さて、帰るか」と言うのだが。
「──モエがまだなのです……」
ちょっと困ったふうに控えめに言うモエが可愛くてフィナとシュシュが悶える。
「モエはもういいだろ?ジャイアントカマキリで見せてもらったしよ?」
「あ、あれはその……失敗なのです。あんなに振り回されるとは思わなかったのです」
スピードに乗り以前とは余りに違う勢いに、鉄球の重さに引っ張られて止まることが出来ずに体ごとシュシュごとカマキリの腹にダイブしてしまった。
「それが分かったら次は大丈夫よ。今日は戻りましょう」
優しく諭すフィナ。もう今日はお腹いっぱいである。
どうせこの可愛い猫獣人もロクな結果を生まない。
「だからっ、大丈夫だからっ見てもらいたいのですっ」
言うとモエはフィナの静止を振りほどき駆け出して、今見つけたばかりの地這鳥を仕留めに行く。
「抑えて……今までと同じだとまた失敗するのです」
モエは少しスピードを抑えて地這鳥を射程に収めると一気に鉄球を放った。
「立ち止まって投げりゃいいのによ」
「そういうのは先に言って欲しいのですぅ」
遠目に見ていたシュシュとフィナの元に帰ってきたモエは血まみれ内臓まみれの汚い姿で猫耳をペタンとさせてしっぽは力なく垂れている。
「“サクション”、対象、地這鳥」
シュシュの魔法でモエにまとわりついた汚物は全て吸い取られて綺麗になる。
「ありがとうなのですよ」
鼻をつまんでいたフィナもようやくと手を離したのだが。
「クサっ。やっぱりにおいは取れないのね」
「うぇぇ、ダメなのですぅ?」
「ああ、くっせえ……うんこのにおいだわ」
それは血のにおいだけではない、中身を被った故のにおい。
「ああぁ……言われると鼻が、鼻がぁっ!」
また転がって草のにおいをつけるモエだが、青臭さまでまじって余計にひどい事になる。
「まあ、あれだモエ。また、やるか」
「あわわ……でも仕方ないのですぅ」
シュシュが何を言っているのか察したモエは潔くすっ裸になりされるがままとなる。
「わたっ、わたしは先に帰ってるから!早く帰って来なさいよねっ!」
「ああ、部屋で致すんじゃねえぞ?」
「な、何にもしないわよっ!」
フィナがこの場にいると3人ともがそれぞれに困った事になる。
「はぁ……気持ちいいのですぅ」
モエだけが純粋にシュシュの好意を受け入れていた。
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