第42話 モエがやるのですよっ

「今度はちゃんと19階層ね」


「酔ってないから大丈夫なのです」


 再びポータルで19階層を指定したフィナたちを送るトカゲは、何度も口にしながら確認して送り出してくれていた。


「個人のレベルでなら格下の階層だよな」


 階層のスタート地点に立つ3人がいるのは塔の中ではよくある平原で、所々に林が見えるがその他には特に何もなく遠くまで見渡せる。


「ここにはどんな魔物が出るんだ?」


「ちょっと待ってね……あった。うん、鳥だね、地這鳥っていう飛ばない鳥」


「ちなみにこの階層にした理由は?」


 フィナたちは49階層に送られる前にはじめた実績作りをシュシュに聞かせる。


「なるほど。冒険者ってのも大変なんだな」


「シュシュちゃんは違うんだっけ」


「ああ。俺は固有スキルで金を稼いで遊ぶのが本業だったからな。まあ、食って飲んで触って過ごしてただけだ」


「触る?」


「モエは知らなくていいのよ。とりあえずはここでお互いに確かめましょうよ。仲間として、今どんなのか」


 シュシュが戦えるのか、モエの身体能力がどうなっているのか、フィナに変化はあったのかなどクルーンを通り抜ける前と後でかなり状況は変わっている。


 とりわけ制御を誤ったモエは自分がどうなっているのかは確かめなければならないと意気込んでいる。


「このフィールドで歩く鳥なんて現れたらすぐに気づくだろ」


「おかげで大した苦労もなかったはずよ。ほらあそこにいるのがそう」


 フィナの指差す先に濃い青色のダチョウのような鳥が一体、フィナたちの方に歩いてくるのが見える。


「目はいいんだろうな。向こうも気づいてやる気満々らしい。で、誰が行く?」


「モエが──」


「わたしが行くわ」


 シャラっと剣を抜いたフィナが手を挙げて立候補するモエの前に出る。


「カマキリは取られちゃったからね。先にやらせてもらうよ」


 ダッダッダッダッ、と力強く走り迫る地這鳥にフィナは両手で構えた剣をすれ違い様に振り抜く。


「おお……やるじゃねえか」


「この感じ……わたし、強くなってる──」


 フィナは自分の剣がクチバシで攻撃しようと伸ばした地這鳥の首を抵抗なく両断したことに驚き戸惑う。


「今の動きすごかったのですっ!」


 真っ向から斬りつけるわけではなく、左にかわしてそのまま伸ばした首の後ろから斬り落としている。


 体を半回転して払ったその動きがモエにはとても美しく見えた。


「風の精霊が剣にまとわりついているの」


「その緑の粒々がそうなのか」


「何も見えないのです」


「シュシュちゃんには見えるのね」


「まあ、言われねえとそれが何だかは分からなかったが、そうなんだな」


 これまでのフィナの剣士生活でなら、あのようにかわしても気合いで力任せに真っ直ぐ叩きつけて何とか倒せたくらいであろう。


「風の精霊が導いてくれたみたい」


「いよいよ剣士ってわけだ。弓使いなのにな」


「むっ!今ならきっと弓だって風の精霊が補助してくれるはずよ。おあつらえ向きにもう一体来たことだし、覚醒したフィナちゃんの弓を見せてやるわっ」


 先ほどと同じくフィナたちを見つけた地這鳥がこちらに迫ってくる。


 魔法の瓶から弓矢を取り出したフィナは華麗な動きで矢を飛ばしたのだが。


「ぶははっ、なんで真後ろにUターンするんだ」


「ちょっとなんでよぉーっ」


 明後日の方向どころか、昨日へと飛び去った矢は当然何事も引き起こすことなく、猛然と迫る地這鳥は元気いっぱいである。


「ここはモエが──」


「いーや、俺にやらせろ」


 今度こそはと意気込むモエはまたもおあずけをくらってしまう。


「グール魔法“ジェネレイト”」

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