第44話 ははーん、さてはコイツ

「この29階層に挑戦する、だってえ?」


 ギルドの総合カウンターではスキンヘッドが血管を浮かび上がらせてフィナたちに睨みを効かせている。


「そう怒るなよ、ハゲるぞ?」


「俺のはオシャレだっ、テメエらは一年したら俺の言ったことも忘れてしまったか?」


 昨日は大人しく19階層に行ったはずの3人が今日にはこの階層を、コミュニティの外に出て攻略すると言うのだ。


 かつてのように慎重に進めるのだとばかり思っていたスキンヘッドがいきなり方針を変えるというフィナたちに憤るのも無理はない。


「わたしたちは3人になって、お互いに戦力を確かめ合って決めたことなのよ。だから、大丈夫なのよ」


「この階層で役に立たねえからって置いて行かれた連中が子どもを加入させただけで攻略出来るってかあ?」


「うっ……それは……」


 フィナたちの身に起こったことは通常では考えられないことである。


 第1階層から大人が生まれるなんて事は往々にして聞いたことがない。


 そして確かにフィナたちはこれまでの自分とは違うチカラを感じている。


 けれどもそんな話は誰に出来るわけでもない。当事者であるこの3人だけの秘密である。


「おっさんよ……この階層の攻略なんてのはポータルも使わねえから誰に見られて行くわけでもねえ。行きたきゃ勝手に行けばいいんだ。それをこの2人がわざわざあんたに声を掛けているのはよ、義理ってのを感じてるからに他ならねえからとは思わねえか?」


 安全地帯であるコミュニティは何も柵で囲われていたり、門番が出入りを管理していたりはしない。


 そのため、シュシュの言うようにスキンヘッドにそれを伝える理由なんてのは個人的な思い入れ以外にはないのだ。


「うむぅ……なんなんだこのお子さまは……」


「相手が見た目通りの年齢だとは思わねえこったな」


「そりゃあ、一体どういうことで──」


「わーっ、わーっ!何でもない、何でもないのよ。ちょっとオマセさんなだけの子どもよ、見た目通りのっ」


 話を上手くまとめてくれそうな気がしていたのが、余計にややこしくなりそうでフィナが割って入る。


「とはいえ聞いちまった以上はそのまま行かせるわけにもいかねえ。前はそれで行方不明になったんだからよ」


「そこをどうにか……ね?」


 スキンヘッドの手を取り両手で包んでおねだりするようなフィナ。


 難しい顔をしているスキンヘッドの色もだんだんと赤く染まって行く。


「いいさ、放っといていこうぜ。それで帰って来られりゃいいだろうよ」


 かぼちゃパンツを惜しげもなく披露しながらシュシュはカウンターから降りて歩きだす。


「え、あ……その……行ってきます……」


 良くしてくれたスキンヘッドにきちんと理解してもらいたかったが、仕方なくフィナもモエを連れてシュシュのあとを追いかける。


「──待て」


「なんでぇ、しつこい男はモテねえぞ?」


「んぐっ……!」


 シュシュの間髪入れない返しに一瞬たじろいでしまうスキンヘッド。


「違う、お前たちを、お前たちだけで行かせるわけにはいかねえ、だからよ──」


「おい、まさかちょうどパーティを探してる2人組がいるとかか?」


 それならシュシュも都合がいいと話を聞く気になる。


「いいや、お前たちみたいなトンデモパーティに加入したがるヤツなんぞいねえ。だからよ、俺がついて行く。そんで本当に大丈夫なのか見極めてやる」


 カウンターを飛び越えてスキンヘッドが親指でズビシっと自分を指し示して筋肉アピールまでしてくる。


「それは、心強いことね」


「なのです」


 フィナとモエは一応の許可が降りた形に戸惑いながらも素直に喜ぶ。


「このハゲがフィナと一緒にいたいだけなんじゃねえのか?」


「うぐぅ⁉︎そんなわけあるかあっ!」


「えっ……違うんですか?」


「フィナさん、ドンマイなのですぅ」


 ジト目でシュシュが言えば反射的にスキンヘッドが否定して、男のそういう気持ちに慣れているフィナが分かっていながら落ち込むフリをし、モエが本気にしてフィナを慰める。


「ぐぬぬ……」


「わあっはっはっ!ハゲ頭がリンゴみてえに真っ赤になってら」


 からかいながらもスキンヘッドの同行に文句をつけないシュシュたちはコミュニティの外、29階層の攻略へと出発した。

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