第26話 あ、穴だらけなのです!

 モエとフィナは手を繋いで通路を歩いている。


「だとしてもどうしたらいいのか」


「なのですよぉ」


 あれからクルーンは見ていない。


 砂原の時でもそこまで頻繁にはあの青いカケラもやってきてなかった。


 ここでも恐らくはそういうことなのだろう。


「それにしてもモエはあの牛の脚を──」


「無我夢中だったのです。だけどモエのスライム魔法は、あれはなんだったのです?」


 計算などなかった。


 ただ自分の持つチカラをどうにかぶつけたかっただけだ。


「あれはエンチャントよね」


「付与、なのです?」


 付与術士は普通に存在するからモエにもその意味は分かる。


「ええ、単体では意味のない魔法。だけど付与する対象さえあれば効果を発揮するはずよ」


「付与……じゃあモエは魔法を使えたのですね?」


 魔法にも色々あるが何をしても水たまりにしかならないモエの魔法がなんなのかは誰にも分からなかった。


「そうね──スライム魔法だっけ?かなり特殊だけど魔法は魔法のはずよ。けど効果もどれだけのものか、使い勝手がいいのかも分かんないけど」


 恐らく固有スキルなだけにそれなりの効果はあるのだろうと思いつつも、巨大な牛の脚をはねのけたあれが素の威力なのかエンチャントのおかげなのかが分からないフィナには何とも言えない。


「ウォーターっ」


 モエの呼びかけに水よりも水色の球が宙に現れて、床に落ちる。


「今のが落ちる前に鉄球を──」


「モエっ、それよりも来たよ」


 スライム魔法なるものの検証を始めかけたモエだが、フィナの呼びかけに顔を上げると、先ほど見たように青いカケラが天から降りてきた。


「じゃあクルーンも?」


「おそらくは……きたわね」


 ゴゴゴと地響きを鳴らしながら迫り上がってくるクルーン。


「この先に“世界”が──」


 どちらが言うまでもなく、2人とも柵を乗り越えてクルーンに飛び乗る。


「カケラが落ちていくまでに調べるわよっ」


「はい、なのですっ」


 壁の外はあの黒牛の住む世界。


 ここには通路とクルーンしかないのであれば、希望はここにしかない。


「何これっ!虎とか鳥とか……ドラゴン?何なのよこの穴の文字は」


「生まれる先なのです?」


「それよっ!」


 カンッと弾き出されたカケラが転がり始めてクルーンを回りだす。


「あわわっ!速いのです!」


「モエっ!飛び込むわよっ」


「ええ〜っ、なのです!どこにっ、どこに飛び込むのですっ⁉︎」


 穴にはさまざまな生き物の名前が書かれている。


 それがフィナたちにどういう影響を与えるか分からない。


「変なことになっても嫌だものっ!わたしはエルフを見つけたからそこに入るわ!」


「じ、じゃあモエはヒューマンに入るのですっ」


 いち早くフィナは穴に飛び込み、モエもヒューマンを探す。


「あっ、あったのですっ!ここに入るのですっ!」


 モエもすぐにヒューマンと書かれた穴を見つけて駆け寄り──転がってきたカケラとぶつかる。


「いたっ!あれ、あ、あわわっ!」


 勢いよくぶつかったせいでモエは隣の穴に落ちてしまった。


「ひゃん⁉︎あれ?滑り台なのですっ!」


 どうやらどの穴に落ちたところでその下は繋がっていて、下に螺旋状に下る滑り台となっていたらしい。


「きゃんっ!」


 飛び出した先では既にフィナが次のクルーンの穴を調べている。


「来たのね!ここは単純よ。男か女、もしくはオカマよ」


 そう言ってフィナはさっさと女の穴に落ちていく。


「穴はたくさんなのに3択なのですっ⁉︎モエも女のところに──」


 ゴロゴロっと立ち上がったモエのお尻にカケラが衝突してモエは目の前の穴に落ちていった。

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