第27話 えいっ、んぐぐ……ひゃあんっ⁉︎
「ぎゃんっ⁉︎」
「とうとう可愛くない声になってるけど、ちゃんと選べてるよね?」
フィナは先に穴を調べているが今回は今ひとつ分からないでいる。
「あたた……き、きっと大丈夫なのです」
この時間のない時に余計な心配はかけたくないモエは嘘をついてしのいだ。
「ここ、数字ばかりなのよね。大体50から100ってところかしら?」
穴の数は20ほどだろうか。
その中で最小が50で最大が100らしい。
「真ん中が100なのです……」
「やっぱり気になるよね?」
クルーンの中心には3つの穴があり、いずれも100の表示である。
「100でいっちゃう?」
「分からないのは考えても仕方がないのですっ!」
今度はまだ上で転がっているカケラの邪魔もなくフィナとモエは仲良く同じ穴を通って下に滑り落ちた。
「とうちゃーくっ」
「ひゃんっ!」
「あうっ!」
落ち着いて滑り降りたフィナにモエが衝突して立ちあがろうとしたフィナがこける。
「ご、ごめんなさいなのです」
「──いいわよ、それよりも早く調べましょう」
最初に見たカケラがクルーンを転がる音がしなくなった頃にクルーンは降りて消え去ったのだ。
つまりは今転がってきているカケラが最後にたどり着くまでには決めて通過していないと“世界”の穴にたどり着けない可能性がある。
「そんなのが本当にあるなら、だけどさ」
こうして一生懸命に探しているフィナもグールの言葉をいくらかは信じているという事なのだろう。
彼もまた推測でしかなかったはずだが、確かにそこには希望がある。
「あるのですっ!必ずっ!」
モエははなから疑ってなどいない。
既に意識は穴の文字を追いかけているのだが。
「何よ、何よこれ文字じゃない」
そこには絵が描かれていて、その抽象的すぎる絵柄はもはやフィナたちの馴染みのない形をしている。
「分かんないっ、何も分かんないよ!」
「上のクルーンの音が不規則になったのですっ、もうすぐ落ちて──きたのですっ!」
シャアーっとフィナたちのいるクルーンの外周を勢いよく回り始めたカケラに焦りが出てくる。
「──分からないものはっ?」
「考えても仕方がないのですっ!」
もはやそれが絵なのかすら怪しい。
フィナたちは覚悟を決める。
「きっと真ん中の方がいいやつなのよ。だからさ」
「モエもそれでいいのです」
何が描かれているのかは分からない穴にフィナが飛び込みモエもついていく。
「ここもっ!」
「ここもよっ⁉︎」
その下2つも同様で、どんなに探しても分かるものはなかった。
だから選択は同じ。
カケラが落ちてきた時点で次へと移り、たどり着いたクルーン。
「穴は3つだけ」
「そのうち1つは風が出ていて──」
モエが手を近づけると身体ごと浮きそうなほどの風量に思わず尻もちをついてしまう。
「こんなの……残りの2つは?」
今回は分かりやすい。
はっきりと“神の塔”と書かれた穴が2つ。
風の出ている穴は“他”としか書かれていない。
「ファイア」
「え?」
モエは試しに風の穴に向けて赤い水を出してみる。
当然のように水は風に吹き飛ばされて霧散して消えただけである。
「何をどうしてもダメなのね」
「せめておじさんだけでも──」
モエはフィナからグールの腕を受け取り穴に押し込もうと頑張る。
穴のふちの裏側にでも持っていければあるいはクリアしているかもしれない。
「やあっ⁉︎」
頑張って押し込もうとしていたモエだが、押し負けてグールの腕がぷるーんっと空を飛んだ。
「おじさんっ!」
「あっ──」
弾かれた腕はそのまま“神の塔”の穴にダイレクトインしてしまった。
「ごごご、ごめんなさいなのですっ!」
「あーあ」
腕の落ちた穴を呆然と眺めるフィナとモエ。
しかしここで思わぬ変化が訪れていた。
「ねえ、風が──止んだ?」
グールの腕が穴に落ちた瞬間に、穴から吹き出ていた風が止み、フィナが手を入れても弾かれることは無くなった。
「モエ、わたしたちこれで──この穴に入れるわよ」
「“世界”が、そこに」
フィナとモエはお互いの顔を見遣り、それぞれに考える。
「モエ、わたしは──」
「モエはこっちに行くのです」
フィナが何かを言う前に、決意したモエがそう告げる。
モエの指差す先はグールの腕の落ちた穴。
「でもモエ」
「モエは、“世界”に興味があるのですっ。でもそれはおじさんが教えてくれたから。おじさんを差し置いて、そっちには行けないのです」
モエはもうフィナを見ていない。
見ればフィナにも無理強いをしてしまいそうだから。
「だから、フィナさんとはここでお別れなのです」
長引けばお互いに辛くなるだけだ。
モエは振り向きもせず、その穴に飛び込みフィナと別れた。
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