第25話 なのですっ
「んひゃぁんっ」
「なのですっ!」
フィナとモエの2人は牛の脚に追いかけ回されながら逃げ惑い、どうにか壁に開いた穴へと転がり込むことに成功した。
「怖かったあー。ていうかモエは“なのですっ”って叫ぶの?」
「えぇ?さすがにそんなことはないのですよぉ」
(いや、言ってたし)
「まあ──それよりもここは」
立ち上がったフィナはそこがまたも巨大な空間で円の外周をぐるりと囲む幅3mほどの通路に転がり込んだことを知る。
「てっきりまた真っ直ぐな通路かと思ったんだけど」
「おっきな穴なのですよ」
モエも立ち上がり、自分たちの立つ円状の通路の内側が何もない空洞であることを確認する。
穴の手前にはスカスカの柵が張り巡らされているだけだ。
「もう少し勢いよく入ったら落ちてたかもね」
「なのですっ⁉︎」
「──今のはわざとね」
大きな牛から逃れたことで少しの余裕が出来たのだろう、モエも「てへへ」と笑ってフィナは呆れながらも同様に笑ってみせた。
「あっ、フィナさんっ。あれを見てくださいなのです」
「んー?あれは……あの青いカケラは」
通路の直径は大体200mくらいだろうかと推測するフィナだが、通路を囲む壁はその高さがどれほどあるのか全く予想出来ない。
上が見通せないからである。
そんな天井があるのかすら分からない上空からひとつの青い光がゆっくりと円の中心、目の高さまでおりてきたのだ。
「カケラなのです?綺麗なまん丸なのですよ」
「本当ね。グールと見た時は欠けたような、割れたような何かだったのに」
フィナはその手にグールの腕を握ったままだ。
「それになんだか大きいわね──ってなんか下から来るっ!」
「なのですっ!」
ゴゴゴゴ……と豪快な音を鳴らして穴の中央にせり上がってきたのは円形のステージだ。
通路の内側にすっぽりとハマるサイズのそれはすり鉢状になっていて沢山の穴が空いている。
「なに、これ」
「青い球がっ!」
フィナとモエが疑問に思っているうちに青のカケラだったと思しき球体は弾かれたように横に飛んでステージをぐるぐると回り始める。
「なに、なんなのっ⁉︎一体何が起こってるのよっ!」
「スピードがだんだん遅くなってきたのです。あっ」
2人が見守る中で球はその速度を緩めていくにつれて中心へとその軌道を移していく。
それは穴のひとつに引っかかってさらに不規則な回転になり、縦に横にと振れていく。
「あっ、落ちた」
「もう少しで真ん中だったのに」
中心まで到達すればそこには3つしか穴がない。
そこに行くまでに青の球は穴のひとつに飲まれて消えてしまった。
「でもまだ音はするのよね」
「なのです。まるでまだ回ってるみたいなのです」
そしてその音もしなくなったかと思うと、さらに遠く下の方から同じ音が聞こえてくる。
どれだけ経っただろうか。
遠くに聞こえる音にただ耳をすませるばかりの2人はまたしても轟音を響かせてステージが下がっていくのを「はぁ〜っ」と見送っただけであった。
「ねえ、もしかして今のがグールの言ってた──」
「クルーンなのですっ⁉︎」
この塔に生きる者たちが生まれる前に通過する儀礼。
回転する球と無数の穴。
そしてその先にはたしか──
「「──そこには世界に通じる穴があるっ!」」
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