第二話

「ここが俺の家だよ」


 本当に来てしまうとは。


「妹さんは僕がいても平気なのか?」


「あいつ今部活の合宿で1か月くらい居ないんだ。というか妹がいたら佐藤に一緒にいてくれなんて頼まないよ。」


 そりゃそうか。てか合宿で1か月って夏休みとはいえ、どんだけ長いんだよ。


 てことは妹が帰ってくるまでは一緒にいるってことだよな。まさかこんなことになるなんて思ってもなかった。マルチより面倒くさいかもしれないぞこれ。


「当たり前だけど佐藤は食費とかそういうの一切出さなくていいからね。

 無理やり頼んじゃったし。」


「いいのか?」


「もちろんだよ。」


「じゃあお言葉に甘えさせて頂くよ。」


 当たり前だ。急に一緒に住むことになって生活費まで払うなんてたまったもんじゃない。


「この家にあるものは好きに使ってくれていいよ。ところで仕事とかは大丈夫?」


「ああ。ありがとう。今は色々あって仕事してないんだ。葉山こそ大丈夫なのか?」


 聞かれたくないことを聞かれてしまった。所謂ニートなんだ僕は。


「さすがに今の精神状態で仕事には出れないかな。なんとか理由作って会社に休みもらったよ。」


 まあそうだよな。仕事に出るのはきついだろう。でもそれだとコイツとずっと一緒にいるってことだよな。


「まあお互い色々あるんだな。

 あんまり詮索はしないでおくよ。」


 葉山はそう言ってくれた。多分コイツが人気者だったのはこういう所なんだろうな。

 周りに気が使えるところ。俺に足りない部分を持ってる人間だ。


「着いて早速で悪いんだけど、僕ちょっと家に取りに行きたいものがあるから、

 一回帰ってもいいか?」


 いきなり一緒に暮らすことになったので、着替えなどいろいろ用意できてない。葉山は洋服は自分のものを使ってくれて構わないと言っていたけれど、流石に下着などは自分のものを使いたい。ニートで金もないのでコンビニとかで買うのを避けたいってのはあるが。


 家を出るとき、一瞬見えた葉山の手が震えているように見えた。


 やっぱ短時間でも1人でいるのは怖いんだな。




「ただいま。」


「おかえり。晩御飯カレーでいいかな。嫌いなものとかない?」


「特にない。手伝おうか?」


「いや大丈夫だよ。佐藤のことは客人としてもてなすつもりだからね。ゆっくりしてて。」


「悪いな。ありがとう。」


 慣れた手付き。普段から料理しているのだろう。料理できる男子が持てる理由も分かる気がする。なんて思いながら見ていた。


「お待たせ。食べようか。」


「ありがとう。いただきます。」


 普通においしい。ご飯を作ってもらうのは久しぶりだからなんだか温かい気持ちになった。


「佐藤ってさ普段無表情なのにご飯は美味しそうに食べてくれるんだね。」


 笑いながらそう言ってきた。


「なんだよ。悪いかよ。」


「いいや、うれしいんだ。」


 なるほど。これはもてるな。




「ごちそうさま。本当においしかったよ。」


「まさか2回もお代わりしてくれるなんてね。こっちも作った甲斐があるよ。」


 普通に美味しかった。家庭の味って感じがした。




 風呂に入って後は寝るだけ。そんな時に葉山が言ってきた。


「毎日寝る前に少し僕の話を聞いてくれないかな。今の気持ちをずっと自分の中にしまっておくのは危ないんじゃないかって思ってさ。佐藤先生にカウンセリングしてもらおう!って感じでさ。」


 何か違和感があると思ってた。無理に元気を出している。笑顔もそうだ。目が笑っていない。家を出るときに手が震えてたのもそうだ。コイツはまだ怖いんだ。証拠が残ってないはずとはいえ、絶対じゃない。警察がいつ来るかも分からないし、殺してしまった罪悪感だってある。それらに押しつぶされそうで、自分を騙しているんだ。


「なあ葉山。」


「どうしたの?」


「泣いたっていいんだぞ。無理に自分を騙す必要ないんだ。俺だったらいくらでも話は聞く。その代わりに自分を偽らないで、自分を許してあげてくれ。ゆっくりでいいからさ。」


 その瞬間葉山は泣き崩れた。やっぱり見た目以上に辛かったんだ。最初は面倒くさいなんて思ってたが、コイツを。葉山を助けてあげたい。自分を許せるまで。それまでは僕は葉山の傍を離れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

@kakibito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ