第31話 ケーナの正体

塔の最上部が破壊されてケーナが魔族の女に連れ去られてから次の日、俺を含む兵士たちが破壊された塔の片付けをしながらギルフォード上官と俺は塔の最上部にいた。


「それでお前たちの報告では塔の魔女は女の魔族に敗れ、連れ去られたと、そして塔の魔女は魔族の女のことを姉上と呼んでいたという事で間違いないな?」


昨日、現場にいた俺たちは一同に頷く。


「しかし、なぜ塔の魔女が魔族と関係していたのか。そして塔を管理していたのか。全くわからない。ヴォルフ。お前は何も聞いていないのか?」


ヴォルフは悔しそうに答えた。


「はい、俺は塔の魔女が初代領主に頼まれて管理していたとしか聞いておりません。なのであいつが魔族と関係しているということも昨日初めて知りました」


「むう、まあ仕方がない。まず領主様に報告をし、今後の対応を考えなければなるまい。状況によっては勇者に赴いてもらうことも考えねばなるまい」


「えっ!勇者がここに!?」


「まあ無理だろうがな。勇者は王都と魔族の領地の間で戦っている最中だ。恐らくここに来れる余裕はあるまい」


「昨日の魔族は塔の魔女を呆気なく倒していました。中途半端な戦力では敵わないかと思います」


「しかし、龍脈を奪われるとなれば、魔族の侵入が容易くなる。すでに龍脈を奪われた領地では魔物があちこちに出現し多くの人の命を奪っているらしい。ここがそうならないよう我々も最善を尽くすしかない」


ギルフォード上官は領主に報告すると言って砦に戻っていった。

俺は自分自身の力の無さと不甲斐なさを感じずっと俯いていた。


その夜、俺は家に帰りマンサに事情を話した。


「えっ!?ケーナちゃんが魔族にさらわれたの?」


「ああ、しかし、問題があってな。女の魔族に姉上と言っていたんだ。俺も知らなかったがどうやらケーナは魔族だったみたいだ。しかもケーナが魔族であることを皆に知られてしまった以上、助かったとしてもここに居ることは許されるないだろうな」


「魔族って、ケーナちゃんは悪い子じゃなかったわよ?」


「そりゃあ、俺だって、そう、は思うが、なあ」


「別に人殺したわけでもないし、私たちのこと助けてくれたのよ?何が悪いの?」


「魔族ってだけでここじゃあ生きられないだろ?」


「魔族だから何なの?悪い魔族もいるんだろうけど良い魔族だっているんじゃないの?」


「俺にはわからん。しかし、女の魔族がケーナは半分人間の血が入っているって言ってたな。出来損ないとか言っていたよ」


「何それ!でもケーナちゃんは半分人間ってことはどちらかの親が人間だったってことね。それなら魔族と人間が一緒に居られるってことじゃないの?」


「昔は魔族が人間を奴隷や家畜のように扱っていたんだ。ケーナの親がどうだったか知らんが他の人間たちは魔族を受け入れてはくれないだろうな。当然魔族の方もだ」


「はあ、ケーナちゃんが無事ならそれでいいわ」


「まあ、すぐに殺されてはないだろうな。殺す気であればあの場所ですぐ殺していたはずだ」


「嫌だわ」


「今のところは領主様の判断を仰ぐしかない。俺たちに出来ることはないよ」


「あんたの勇者の力ではダメなの?」


「俺には敵わない。ケーナとあいつが戦っている時、俺は手も足も出せなかった」


「えっ!?そうなの?」


「ああ、すまん。あっという間に終わっちまったし、俺も攻撃する余裕が全くなかった」


「仕方ないわ。あんたが自分を責める必要はないと思うわ。相手が悪かったんでしょうね」


「ああ、そうだな……」


そう、仕方がなかったんだ……。


そう俺は自分に言い聞かせた。


数日後、


領主がこの町に再び訪れることになった。


領主の馬車が到着し、近くには護衛騎士としてグスタ元上官もいた。


領主はすぐに塔に案内せよと言ったので町の兵士たちを筆頭に数人馬車を警備しながら塔へ向かった。俺も先頭に配備され仲間と共に塔へと向かった。


塔に着くと領主は馬車を降り、自ら先に塔に入っていった。

塔の最上部では魔法陣があり、光を失いかけているように見えた。


「これが結界の魔法陣か」


領主がそう言って魔法陣を見ていた。

後ろにいた部下であろう護衛騎士が必死で魔法陣を描き写している。


「塔の魔女がいなくなったことで龍脈からの魔力が届いておらんのかもしれんな。であればなぜ勇者の力を持たぬ魔族の娘が塔の魔女となったのかだな」


ヴォルフは不思議に思い領主に尋ねた。


「魔族だと塔の魔女にはなれないのですか?」


領主はそうだと言い続けて答えた。


「どうやら塔の魔女は勇者の力を引く者でなければならないらしい。王都の者に確認させた。他の領地は代々領主の一族が塔を守っておったそうだ。我が領地の初代は勇者であったが子がいなかった。だから自ら塔に入り領地を我が祖先に委ねたそうだ」


「では塔の魔女であったケーナはなぜここに?」


「わからん。それがわかるかもしれんと思ったから此処に訪れたのだ」


護衛騎士が魔法陣を描き写し終えると領主に報告した。


「よし、これ以上ここにいても仕方がない。ワシは城へ戻る。再び魔族の襲撃に備え、何かあればすぐに知らせよ!」


そう言って領主はこの町に泊まらずにすぐに帰っていった。


「さっぱりわからん」


「何が?」


マンサが俺に聞いてきた。


ケーナが勇者とどういう関係だったのか。なぜ塔にいたのか。魔族であったケーナがなぜ塔の魔女になったのか。俺は難しい事を考えるのは苦手だ。仕方ないので考えるのをやめた。


「ケーナちゃんに聞いてみたら?」


「ここにいないのに聞く事なんてできねえよ」


「あんたの勇者の力ってやつならできるんじゃないの?」


「!?そ、そうかもしれん!よし!やってみるか」


そう言って俺はケーナと会話するイメージをやってみた。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


一方、


捕らえたケーナは魔族の城の地下牢にいた。


魔封じの鎖を首にかけられ牢に一人閉じ込められている。

ケーナは塞ぎ込んでいた。一人ただ座り時を待った。

おそらく龍脈を奪われた後は殺されるのだろう。


自分が捕らえられた以上、あの領地は後回しにされ、他の領地を奪っているはずだ。わざわざあんな奥の領地を先に奪うことなどしない。


しかし、であればなぜ先にあの塔を襲ったのか。

奥の領地を奪い、挟み撃ちにする予定だったのか。


ケーナは考える。

なかなか答えが見つからないままでいたケーナに小さな声が聴こえる。


「………ケーナ、……聴こえる、……か」


それはヴォルフの声だった。


周りを見渡すが声に気づいた者はいない。ケーナは心の中で応えてみる。


(ヴォルフか?)


(おお!……やっ……た、せい、……こうだ!)


ブツ切れの声で少し聞き取り辛い。しかしケーナは少し安堵した。


(ケー、ナ、いま、……ど、こ、だ?)


(アタシは魔族の城さ)


(何やって、るんだ!この、ば……か!)


(いまは地下の牢にいる。こないだのお前さんと同じさ)


ケーナは溜息を吐いた。


(なあ、あんた、ま、魔族、なの、か?)


(半分、ね)


(なぜ、あそこに、いた、んだ?)


(勇者と、一緒だった、から、さ)


(どう、いう、こと、だ?)


(アタシは勇者に敗れ、一緒にいたんだ)


(塔へ、……は?)


(勇者が部下に殺されたんだよ)


(なんで、お前、……そんな、こと、知って、い、るん、だ)


(アタシも奴らに、殺されたから、ね)


(どう、いう、こと、だ?)


(アタシが魔族だから、殺されたんだ、それを勇者が、かばった)


(勇者は、どう、なっ、たんだ?)


(アタシに勇者のチカラを託して、死んだ)


(お前、これ、から、どう、する、んだ?)


(さあね、たぶん、用がすめば殺されるんだろうね)


(逃げ、られ、ないの、か?)


(無理だね)


(どう、して?)


(魔法が、使えないのさ)


(そ、う、か、)


その後、しばらく返事がこなかった。


ケーナはヴォルフと話ができるなら退屈しないで良かったと思って一人微笑んでいた。

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