第29話 謁見

ケーナの修行でかなり精神的に疲れた俺はクタクタになって家に帰り、マンサに慰めてもらった。

上官と一緒に領主の城に呼ばれた事を話すとかなり心配されその日の夜マンサはかなり甘えてきた。


次の日、領主の城に行くための準備をし荷造りをした。さすがに何日滞在するのかもわからなかったため数日分の服を用意した。


マンサは不安がっていたがもう勇者の力を使える俺に敵うものはいないだろうと思いなんとか安心させた。マンサにもケーナがついているので今回は俺も安心して旅立つことができる。もうマンサを失うのは御免だ。


そして出発の日、俺はグスタ元上官と共に馬車で領主の城に向かった。

朝に出発し、昼過ぎには領主の城に着いた。城の中に入った俺は途中グスタ元上官と別れ、城内の兵士に案内されて待機部屋に連れていかされた。しばらく待っていると領主様の所に案内するということでグスタ元上官と共に領主の部屋に案内された。


領主の部屋に入ると左右に護衛騎士が四人ほど待機しており、領主は中央にある大きな椅子に座っていた。

グスタ元上官は領主に挨拶し、俺は隣で大人しくしていた。

最初に領主はグスタ元上官と堅苦しい言葉のやり取りをしていたが、しばらくすると領主は護衛騎士や臣下たちを人払いし、気がつけば領主の部屋には俺と元上官だけとなった。


「さあ、これで気が楽になったであろう!昔のように話し合おうではないか!」


「ミカエラ、お前は領主なんだ。昔のようにと気楽に言わんでくれ。こいつも戸惑っているだろうが」


グスタ元上官は広い額の汗を拭いて呆れていた。


領主は笑いながら気にするなと言っている。俺はどう言えばいいのかわからなかったのでとりあえず黙っておいた。


「まあいい、ヴォルフと言ったな?まずお前には礼を言おう。お前のおかげて私は再びここに戻ってこれた。前の領主に反抗した罪は私が領主となったことですでに不問となっておる。罪人として呼んだわけではないから安心するが良い、あと塔の魔女にも礼を伝えておいてくれ。お前と塔の魔女はこの城には来ていなかったことになっておるんでな。皆の前では公にできんのだ」


あの一件は無かった事になっている。そう言われて俺は安心した。


領主はそう言ってきた後に言葉を重ねてきた。


「とりあえずお前を呼んだのはいくつか確認したいことがあったからだ。まず、お前は地下牢に閉じ込められておったらしいがどうやって脱出した?そしてどうやって領主の寝室に行ったのだ?もう一つ、塔の魔女とはどのような関係なのだ?私は二十年以上離れの塔に幽閉されて最近の情報に疎い。ここ数日の間にいろいろと調べてみたものの、お前たちの存在がいまいちわからんのだ。なあに心配せんでも良い。べつにお前たちを捕まえて尋問することはせんよ」


急にいろいろ聞いてきたので、何から答えれば良いか悩んでしまった。


グスタ元上官は心配そうに俺を見ている。俺は一息吐いてから頭の中を整理して話してみた。


「まず、グスタ元上官殿にも伝えてあったことですが、私は塔の魔女より勇者の眷属としての力の使い方を教えてもらっていました。地下牢から出れたのはその力のおかげです。前の領主の寝室へは塔の魔女に必死になってついて行っただけなのでよくわかりません。塔の魔女は数ヶ月前に隠蔽の魔術が切れて塔が町に現れた時に知り合いました。」


俺は一息ついてまた説明を続けた。


「塔の魔女はこの領地の龍脈の管理をし結界を張って魔族が入れないようにしていたと言っていましたが、他の領地の龍脈が奪われたためこの領地にも魔族が侵入しました。幸い魔女が魔法で魔族を撃退させ、私も共に戦っていたため、無事塔と龍脈を守ることができましたが、魔物や魔族と戦えない俺たちにも戦える力がないか魔女に相談し、調べてもらったところ私の中に勇者の眷属の力があることを教えてくれたのです」


俺は上手く話ができたかどうかわからなかったが言いたいことは言えたと思った。

領主は何か考えながらしばらくしてまた質問してきた。


「何故お前に勇者の眷属の力があったのだ?」


「以前、勇者がこの領地で魔物と賊に襲われたとき私が保護したからだと思います。それ以上は俺にもよくわかりません」


「勇者の眷属の力というのはどんな力なのだ?」


「俺もまだ完全には理解していないのですが思ったことが現れてくる力のように感じました」


「思ったこと?」


「はい、地下牢では鎖が切れるイメージをした時に鎖が切れました。雷をイメージすると雷が出てきました。そういう力のようです」


「それはすごいな。どうだ、お前、私の下に仕えんか?」


領主がそう言うとグスタ元上官は咳をし、領主に進言した。


「ミカエラ!勇者の力は強大だ!王都に気付かれたら我が領地に勇者を隠していたのではないかと疑われてしまうぞ!まだこの領地も安定しておらのだ。前の領主の派閥の者もおる。この者をお主の下に置かせるのは止めたほうが良い!」


「ふぅむ、それはそうかもしれん。うむ、残念だ。お前の力は他の者に知られているのか?」


「いえ、私の力を知っているのは塔の魔女と私の妻だけです」


「そうか、ならばあまり表立ってその力を使わないほうが良いかもしれんな」


「魔物や魔族が来た時にはどうすれば良いですか?」


「その時は使ってもかまわん。持ち場の兵士たちに黙秘させるように命じておけ」


「わかりました」


「まあ、ワシからの質問は以上だ。わざわざ時間を取らせて悪かった。早く帰って妻を安心させてやれ」


そう言って領主はニヤっと笑っていた。


……ちゃんと事情知ってんじゃねえか。


言葉には出せず、ただお辞儀をしてヴォルフはグスタ元上官と部屋を出た。


その夜、


領主ミカエラはグスタと共に食事をとっていた。


「グスタ、お前は塔の魔女に会ったんだったな?」


「ああ、そうだが、どうかしたか?」


「うむ、確か私が王都の学院にいた頃に塔の魔女の事を教えてもらったのだが、確か我が領地には跡取りのいなかったため初代領主である勇者が自ら塔に入ったという記録があったようだ。しかし、この前みたのは小さな少女だった。どうしてか、少し、調べておかなくてはいけないだろうな」


「ふぅむ、確かに、何故か我が領地には塔の記録が残っておらん。それも関わっておりそうだな」


「我が祖先が何かしでかしておったのかもしれん。まあ、直接赴いて本人に聞く方が早いかもしれんな」


「まだこの領地は安定しておらん。あまり急ぐ必要はないのではないか?」


「そうだの。まだある。どうして結界を張ってあるにも関わらず魔族が領地に侵入できたのだ?確か魔族に龍脈を奪われた領地は王都の隣の国だったはずだ。この領地とは離れているはず。誰か手引きしないかぎりはそう簡単に侵入できるはずはない。これも確認せねばなるまい。あとは、、、勇者の件も厄介なものだ。王都の連中に気づかれないよう注意せねばなるまい。まあ、魔族に対抗する力が此処にあるということは有り難いことではあるがな」


「……そうだな」


二人はこれから対処しなくてはならない事の多さに溜息を吐いた。

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