第27話 祝福の儀式
マンサを助け領主の城から脱出してから数日後、領主と宰相は失脚し、領主の兄が新たな領主として領地を治めることになったという御触れが出たことで領民たちは喜んだ。
領主の兄は統治の才に溢れ清廉潔白の人格者であったため、弟である領主の嫉妬によって騙され幽閉されていたらしい。
領主の兄が復帰したことで良心ある臣下も再び呼び出され重用された。上官も領主の兄とは旧知の仲であったらしく、領主のせいで小さな町の護衛監督として長らく左遷させられていたそうだ。
俺は無事仕事に戻った後、上官にこってり絞られ説教された。
さすがに犯人が前の領主と宰相だったということもあり数日間の清掃作業などの雑用と恐ろしいまでに過酷な鍛錬を科せられた。
仲間の兵士たちも事情を知っている者が多かったのでもうマンサの事でちょっかいを出す者はいなくなっていた。
そして一ヶ月後、町の小さな神殿で祝福の儀式が執り行われた。
これは神が勇者に祝福を施した記念の日であり、ながらく夫婦になる者たちが神の祝福を得られるようにと儀式に参加して夫婦となる報告と誓願を神に奉納するというものだった。俺とマンサは儀式用の服に着替えて神殿に行った。
マンサは紅色と白の基調でゆったりとした衣装を身に纏っていた。
俺もお揃いの色でマンサが男性用の服を用意してくれたので一緒になって歩いているときは少し気恥ずかしくなった。
神殿に行くまでの間、町の人たちが道の左右に集まり今日夫婦になる者たちを祝福していた。
俺とマンサが通っていると若い男たちは涙を流しながら悔しがっており、女たちはマンサの美しさに惚けて自分たちも早く結婚したいと騒いでいた。
神殿にはいると神殿の守り人が儀式を進行し、俺たちは促されるまま何組か夫婦になる者たちと交代で神の像の前で俯き、神の前で夫婦となることの報告と誓願を読み上げて奉納した。
祝福の儀式が終わると俺はマンサを抱き上げて家へと移動する。他の夫婦たちも同じように妻となる者を抱き上げ一斉に走っていった。
帰りは神殿から家までの間を若い男達が熟れた果実の実を新郎新婦に投げつけるてくるのだ。
新郎は新婦を抱え果物を避けながら猛ダッシュで家まで送らなくてはいけない。
俺は今までにないほどのスピードで家まで走った。
途中、さっきまで涙を流して悔しがっていた男たちが大量の実を抱えて一斉に投げてくる。投げられた果物は雨のように降り注ぎ、せっかくマンサが用意してくれた衣装が瞬く間に果物の汁でベタベタになり、果汁の色に染まっていった。よくみたら同じ紅色だったのでマンサも先を見越して布を選んでようだ。
俺は素直に感心した。
ようやく家にたどり着いた後、息を荒げながら家に入った。
家に入るとマンサの両親が豪勢な料理をつくって待っていた。
俺たちは部屋に入り果物の汁でベタベタになった衣装を脱ぎ、着替えて家族みんなで食事をとった。酒を飲み、歌を歌いながら踊り盛り上がっていた。マンサの母親の妹と息子も来ており大人数で賑わっていた。
食事が終わり、夜になると解散して俺はマンサと共に家に帰り一緒に寝た。
寝室で一緒に寝ているマンサの寝顔をみて俺は幸せを噛み締めた。
今日俺たちは改めて夫婦となったんだと。
♢
次の日、マンサの家に行くと塔の魔女ケーナがいた。
「おお!おはよう!そして結婚おめでとう!!」
「お、おお、ありがとう」
俺はケーナがいることに驚きマンサの両親を見た。
マンサの両親はにっこりと喜んでいる。
ケーナは嬉しそうに言った。
「ああ、マンサがお前の家に嫁ぐ事になったからアタシがこの家にお世話になることになったんだ!まあよろしくのぅ!」
何を悪巧みしているのかと思ったら……。
「マンサがいなくなって寂しくなると思っていたらケーナちゃんが来てくれることになったの。本当に嬉しいわぁ」
「ケーナちゃんみたいな可愛い女の子が来てくれることになってワシも嬉しいぞ!」
マンサの両親はすっかり騙され、小さな子供だと思い込んでいる。どうやら塔の魔女だとは知らないようだ。
「おい、騙されるな!そいつは……」
途端に殺気が飛んできて俺は言葉を発することが出来なくなった。
ケーナはにっこりと微笑みながら小さな声で俺の耳元で囁いた。
「正体をバラしたらどうなるか……わかっておるだろう?」
途端に俺の頭の中に言葉にも表したくないほどのものすごく惨虐なイメージが流れ込んできて俺は体中の震えを抑えて何も言わず頷いた。
マンサも苦笑いしながら黙っていた。
「それじゃあ俺は仕事にいってくる」
「いってらっしゃい」
俺はマンサと唇を重ね、砦へと向かった。
朝の鍛錬の後、上官から人事異動の報告があった。
「長らく世話になった!俺の後任が来たので紹介しよう!」
どうやら上官が領主に引き上げられ、代わりの者が来たようだ。
「私の名はギルフォード、グスタ上官の後任として砦を任されることになった。宜しく頼む」
グスタ上官は町の防衛の任務から離れ、領主の近衛兵として城に勤務することになった。
上官の交代の挨拶の後、俺はグスタ上官に呼び出された。
「上官、お呼びですか?」
「ああ、お前には言っておかねばならんことがあってな。ちょっと面倒なんだが、領主が前領主の失脚にお前が関与していることを知ったため、お前を城に呼んでくるようにと命令が出されておる。私からも事前に詳細を伝えておるが実際に会って話がしたいそうだ。面倒だが明後日私が領主の城に向かうからお前も一緒について来い」
「わかりました。マンサはよろしいのですか?」
「まあ、大丈夫だろう。また盗られたくないのならこの町に置いておいた方が良いぞ?」
「……わかりました」
そう言って塔に向かうとケーナがいた。
「ああ、来たんだね」
「おい!朝のは何だったんだ?急にいるから驚いたじゃねえか!!」
「アタシだってずーーーーーっと一人で此処にいたんだ。少しぐらい羽を伸ばしても良かろうが!!」
「まあ、それはわかったけどよ。何でマンサの家だったんだ?」
「まあ、あんたの救出の手伝いのお礼にアタシが頼んだんだよ。マンサには話しを合わせてもらってね。ニ百年ぶりに家庭の手料理が食べられるんだ。こんなに嬉しいことはないよ」
そう言ってケーナは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、そうだ!俺は明後日、上官と一緒に領主の城に行くことになった」
「なんだい?なんかまた面倒な事に巻き込まれたのかい?」
「いや、この前の事で実際会って話がしたいんだとよ」
「へえ、結婚したばかりで早速嫁をほったらかしにするのかぃ?」
「お、俺だって嫌だよ!でも断れるわけないだろ?」
「ほうほう、まあ、仕方ないだろうね。まあ、あんたがいない間はマンサの事はアタシが見ておくさ」
「悪いな、助かる」
「それじゃ、こないだの続きをするとしようかね。あんたの力はだいぶ使えるようになったから、実戦経験を増やして戦いに慣れた方が良いね」
「どうするんだ?」
「まあ見てごらんよ」
そう言うとケーナは袖から水晶玉を取り出した。
「この珠をのぞいてごらん。中に沢山の星が見えるだろう?その星の一つをずうっと見ておくといい」
そう言われて俺は水晶玉の中を覗きこんだ。
確かに水晶の中には暗闇が広がっていて星のような小さな光がいくつも輝いていた。その中で一番大きな光があったのでその光をずっと見つめていた。
しばらくする俺に意識が暗転した。
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