第22話 告白
「ヴォルフ死ねぇぇ!」
毎朝、恒例の鍛錬の時間である。
男たちは熱気に溢れていた。
そして野望に燃え、目的の成就に向けて男達は切磋琢磨する。
「幸せな男に制裁を!!」
『おう!!』
男たちが雄叫びをあげる。
そして鍛錬場にいる全ての男がヴォルフを睨みつけていた。
「ヴォルフ!俺と勝負だ!」
「お前とマンサちゃんの結婚を俺はまだ許していない!俺と勝負だぁぁ!」
「お前がいなくなれば俺たちにもチャンスはある。悪いが死んでくれ‼︎」
「そんな勝負するかっ!真っ平だ!!」
「ヴォルフ!逃げるんじゃねぇ!」
力強い男たちの剣と剣が重なる。
時折鈍い音が鳴り、男たちの雄叫びが鍛錬場に響く。
「あー、毎日がこれじゃあキッツいわー」
鍛錬場の近くにある井戸で頭から水を浴びたヴォルフは独り愚痴っていた。
領主に直談判してマンサを取り戻したヴォルフは英雄として祝福され、一部に男たちには嫉妬の嵐を呼び起こし、なぜか制裁を受けている。ヴォルフは舌打ちして着替え始めた。
今日は塔の警護をすることになっている。
塔が襲撃された後、警備の人数は増員され、常備15名の兵士が交代で見回りをしていた。これは門番の人数より多い。
上官を合わせて約30名の兵士がこの町にはいる。戦争時など有事であれば少ない人数だが、普段こんな小さな町に訪れる者は少なく、商人か、貴族が王国へ移動する際、通過点として通るぐらいである。
途中、マンサの家に立ち寄るとマンサが機嫌良く出迎えてくれた。
「あら、どうしたの?」
「いや、塔に行くのでついでにお前の顔を見にきた」
そう言うとマンサが照れて、顔を真っ赤にさせていた。
「もう、そんな事言ってくれるようになるなんて……アンタ本当にヴォルフなの?実は偽者だとか」
「んな訳ねえだろ!せっかく来たのになんだよ」
俺が不貞腐れるとマンサは玄関の扉を閉めて急に抱きついて口付けをしてきた。
柔らかな唇が触れ、思わずボーっとしてしまう。
マンサは嬉しそうに「いってらっしゃい」と言ってくれた。
マンサの扉の向こう側、家の中ではマンサの家族が騒いでいる。
「ヴォルフ!いつ結婚するんだい?もうマンサを盗られないようにさっさと結婚しちまいな!」
「ヴォルフ、責任取れよ!逃げたらお前を確実に殺す!」
マンサの両親はウザい。改めてそう思った。
俺とマンサはクスリと笑ってもう一度口付けをした。
塔につくと魔女のケーナがニヤニヤして昨日の経緯を聞いてくる。どうやら仲間の兵士に聞いたようだ。俺は呆れながら差し障りのないようにことの顛末を話した。
ケーナは興奮して、やっぱり若いって良いのう!とか言っている。そんな暇があるのならさっさと塔の修理を進めてほしい。
しかし、また魔族が襲撃するかもしれないと言うが、実際魔物が襲撃に来た場合、ケーナの魔法がなければ通用せず、俺たちの力では全く歯が立たない。ワイバーンもケーナが魔物で倒したし、魔族もケーナがいたからなんとかなった。訓練でどうにかなるものでもなさそうだ。そう考えて、ケーナに相談することにした。
「なあ、今度魔物が襲撃にきたら、俺たちはどうやって戦えばいいんだ?」
「そうじゃなー、んー、確かにアタシの魔法だけに頼られても困るしのう」
「実際、空飛ぶ魔物にどうやって戦えばいいんだ?弓なんて効くのか?」
「大きな矢とクロスボウならなんとかなるかもしれないが、当てるとなるとかなり練習しないと無理じゃな」
「こんな小さな町にそんな武器置いてねえよ。俺たちにも魔法は使えないのか?」
「あんたたちの体内に魔力があるかどうかだね。普通の人間にはあまり魔力がないんじゃよ。魔力が少なくてもダメ。多くても魔力のコントロールができないと魔力が暴れて小さいうちに死んじまう。だから魔力の量とコントロールは代々魔術師たちがそのやり方を習い伝えてきた。魔法を使えるものは少なくて魔力に適合した者だけが選ばれてきたのさ」
「そんじゃ俺には無理か」
「まあ、せっかくだから魔力の量をみてやろうかね。ちょっと服を脱ぎな」
「何すんだ?欲求不満か?婆さん」
「何言ってんだよ!人の好意を無碍にしやがって!あと婆さん言うな!!死にたいのかい?」
ケーナが怒り狂う。
「おお、悪い、冗談だよ、冗談」
あまりもの剣幕にヴォルフは思わずたじろいでしまう。
「ふん!お前さんなんかに魔法は絶対教えてやるもんかい!」
「おい!冗談だって!すまん!悪かった!何でも言うこと聞くから許してくれ!」
「ほほう、何でも言うこと聞くんじゃな?それはいい事を聞いた。楽しみだのぅ」
ケーナは悪い笑みをうかべ、何を頼もうかと考えている。
「ま、また何かしてほしい事があれば頼もうかかねえ。ぐへへへ」
残念な笑い声を発して、どうれ診てやるかの、と言っておれの胸に手を当ててきた。
「ふーむ、お前さん自身に魔力は、あんまり無いのう……ただ、なんじゃ?これは」
「どうした?」
「お前さん勇者となんかあったのかい?お前さんの中に勇者の眷属としての力が内在しているようじゃ」
「なんだと?」
「これは勇者との深い繋がりを持つ者だけが許された特別な力じゃ、勇者が本当に大事だと思う者でなければ持つことはない」
「そうなのか?勇者ってエマのことだろ?俺にそんな資格を得るような身に覚えは無いぞ」
「まあ、今の勇者は女じゃろう?お前さんに懸想でも抱いとるんじゃないか?」
「そんなわけねえだろう。俺はあいつをずっと男だと思っていたんだぞ?そんな奴に惚れるなんてあるわけないだろう」
「ま、何にせよ、アンタには勇者の力の一部が使うことを許されてるってことさ。その力を有効に使えるようになれば魔物が来ても戦えるようになるぞい」
「ほ、本当か!?どうすればいいんだ?」
「まあ、慌てなさんな。まず、最初に言っておくが、その力は本来お前さんのものじゃない。勇者の力は強大だ。その一部でもワイバーンぐらいなら簡単に倒せるだろうよ。ただ、勇者とお前さんの縁が切れたら、もうその力を使うことはできない。だから勇者の力に頼って過信し、力に驕ってはいけないよ?」
「あ、ああ、わかった」
「本当にわかるようになるのはこれからじゃよ。本当に力を使えるようになってからが大変なんだ。そんなに安いもんじゃないんだよ」
「まあ、いい、俺になんかあった場合はお前が俺を止めてくれ。それならいいだろう?」
「年寄りに無茶させるもんじゃないよ!全く!まあ、アンタなら大丈夫かもねぇ」
「それじゃ、悪いが教えてくれ。本当に魔物を倒せなくてはこの塔だけでなく町も守れない。俺はこの町を護りたいんだ!」
「ほう?良い顔じゃないかい。わかった。教えてやるよ」
そうして俺はケーナに力の使い方を習うことになった。
「まず、座って、目を閉じな。深呼吸を繰り返して精神統一をするんだ」
俺は言われた通りやってみる。しかし今までの鍛錬とはやり方がまったく違い、精神統一と言われても全然感覚が掴めなかった。
「しばらくは深呼吸を繰り返して集中するんだよ。気持ちが散漫になってたら全くダメだ」
結局その日は座って深呼吸だけで終わってしまった。
仕事が終わり、帰りに酒場に立ち寄る。マンサも働いており、男たちも何か盛り上がっていた。
「あら、仕事終わったのね。お疲れ様」
マンサが来て声をかける。
「ああ、酒といつものやつを頼む」
「わかったわ」
そう言ってマンサは機嫌良く厨房にいった。
注文を頼むと隣にいた爺さんが話しかけてきた。
「おおい、英雄どの!女神とはいつ結ばれるんかのう。はやくせんと季節が流れて別の神に奪われてしまうぞい!」
上機嫌でそう言ってくるのを軽くあしらっていると別のグループの男が割り込んできた。
「クソっ!英雄気取りやがって!俺は認めんぞ!マンサは俺たちのもんだ!」
「おいおい、俺たちって、、マンサがそれを望んでいるのかよ」
「フンっ!お前にマンサを任せるぐらいなら、くぅぅ、俺たちと勝負しやがれぇぇ!俺たちが勝ったらマンサをあきらめろぉぉ!」
周囲の若い男たちが勝手に盛り上がり、全員立ち上がった。酔っ払いが多くて話をしてもわかってもらえなさそうだ。
とりあえず、男が殴りかかってきたのでそれを躱し、外の放り出す。そしたら五人同時に突っ込んできた。おれは後ろに下がり何人かの攻撃を躱すがさすがに大人数には敵わない。
二人の男に押さえ込まれ奴らは一斉に俺を殴ってきた。
「やめなさい!!」
マンサが大きな声で怒鳴る。
男たちは怯んで立ち上がり俺の側を離れて言い訳を始めた。
「俺たちはマンサのためにやったんだよ」
「お前を幸せにできるのは俺たちだ!コイツじゃあない!」
マンサはブチ切れて男たちを説教する。
「アンタたちが何をしてきたっていうの?領主が私を妾にしようとした時、アンタたちは何をしてたの?ヴォルフは領主に土下座して私を守ってくれた!私はヴォルフの事しか愛してないのよ!」
そういって俺の元に来たマンサは皆の前で俺に口付けをした。
黙り込んで目を逸らす者、
ショックで倒れる者、
泣き出す者、
マンサは鼻息を荒げて皆に見せびらかすように俺に抱きついてくる。
男たちの悔し涙と怨憎の声に囲まれ、俺はため息をつきながらマンサを抱き寄せる。
「マンサ、俺と結婚してくれ」
「うん!」
キャラに似合わない可愛い声で頷くマンサ。
男たちは泣き崩れた。
食べ途中だった俺は酒を持ち帰り、残りの料理も家に持ち帰った。
マンサが仕事を終えて俺の家に来た。
ニコニコと機嫌が良く、家に入ってすぐ俺に抱きついてくる。ちょっと酒臭い。
俺はそのままマンサを横抱きにしてベットへ移動した。
その夜、俺たち二人は思い切り愉しんだ。
♢
ただいまーー。
マンサが家に帰るとマンサの母が満遍の笑みをうかべている。
「あら、昨日の夜はヴォルフにお持ち帰りされたのかい?昨日酒場で起きたあんたたちのやりとりは朝っぱらからもう噂になってたよ」
田舎のネットワークは恐ろしい。改めてマンサは思った。
すでにこの町全てに情報が網羅されているようだ。
しかし、母は強し。噂なんて気にするもんじゃないよと言ってくれた。
「まあ、アンタの結婚が決まって私も嬉しいよ」
母は心から喜んでくれた。
しかし、父は片隅でひっそりお茶を飲みながら涙を流していた。どうやらヴォルフにお持ち帰りされたことがかなりショックだったらしい。
「まあ、結婚することが決まったんなら準備しないとねえ」
「そうね」
マンサは浮かれながら部屋に戻った。
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