第21話 望み

朝、起きると隣にマンサがいた。

俺は急に恥ずかしくなり、慌ててベッドから離れて服を着た。


……やっちまった。


昨日の夜はつい情が湧いてしまい、今まで隠していた本心をさらけ出してしまった。


マンサが好きだ。

そしてマンサも俺の事が好きだと言ってくれた。

そして、共に夜を過ごしてしまった。


マンサは美しい。


彼女の寝顔を見ながら微笑む。

しかし、これからの事を考えると気が重くなった。

もう仕事に行かなくてはならない。そしてマンサは領主と共に出発するため準備をしなくてはならない。


このまま何処かに連れて行きたくなる。


ヴォルフは束の間の幸せで夢見心地だった心境が急に色褪せてしまい落ち込んでしまう。


深く溜息をついて仕事に向かった。



マンサは起きると今自分が何処にいるのかわからず困惑する。

そして昨日のやり取りを思い出して顔を赤くしてベッドの中にうずくまった。


は、恥ずかしい……。


やってしまった。


後悔はしていないが、冷静になった今、一気に羞恥に晒されて一人で勝手にもがいている。


いつのまにかヴォルフはいない。

もう仕事に行ったのだろうか。


せっかくなら起こしてくれれば良かったのにと不満そうに口を尖らせてマンサはベッドから起き上がって服を着た。


これからの事を考えた途端、気が重くなる。

マンサはふらふらと重い足取りで自宅へと帰った。


家に入ると母はほがらかな笑みで出迎える。

父は朝から暗い顔で酒を飲み、なにやらぐちぐちと独り呟いている。


今日で、家族ともお別れなのね。


そう思うと胸のあたりがモヤモヤとなって寂しさの感情が喉元までこみ上げてきた。

とりあえず部屋に入り、着替えをする。手持ちの服を集めて荷造りをした。



朝、いつも通り砦に向かい、鍛錬をこなしてから砦の門番の仕事に就く。

上官が気を利かせてくれたのか、塔の見張りは他の者に任せてくれた。

仲間の兵士たち、特にマンサに振られた連中は今日で死ぬんじゃないかと思うぐらい暗い顔をしていた。こいつらこれから本当に大丈夫なのか?と心配になる。


マンサの後を追わないで欲しいと心から祈った。


「今日で最後か」


そう呟くと、領主の馬車が近づいてきた。領主の馬車の後ろには護衛とマンサの乗っている馬車がやってくる。

門をでる前に町長と上官が最後の挨拶に出る。


「この度は誠にありがとうございました。またのお越しを心からお待ちしております」

とお辞儀する町長。


「うむ、この町が再び魔族に襲われぬよう、しっかりと護衛せよ」


領主はそう言った時、俺は思わず前に歩み出る。


「ん?そなたどうした。何かあったのか?」


怪訝な顔で領主が尋ねた。

上官と町長はお前何やってるんだ!と声に出さず、顔で訴えかけてくる。


「あ、あの、実はこないだの褒賞の件で、お願いが、ございます」


少し目を細めた領主が言ってみろと促す。


「私に、マンサを、昨日、領主様が目にかけられた女を、頂戴したく思います。無礼を承知で、何卒、お願いします!」


そう言うと周囲の者たちがこいつやっちまったといった顔で一斉に俺を見てきた。


領主は不機嫌そうな顔で答える。


「ほう、そなたがあの女の懸想しておる男だったか、お互いに想い合うとは良きことよ。だが、私が見染めた女をそう簡単に手放すと思うか?」


一瞬、周りの空気が緊張で重くなる。


「無礼を承知で、どうかお願いします。ご容赦ください!マンサを俺にください!どうかお願いします!!」


そう言って俺はいつの間にか土下座して地面に頭をこすりつけていた。

領主は興醒めした感じで溜息をつく。

領主の隣で宰相がなにやら耳元で囁いていると領主が頷き返事を出した。


「うむ、仕方がない。私としては不本意ではあるが、忠臣の願いを無碍にするわけにはいくまい。そなたの願い、叶えてやろう」


その時、まわりの兵士たちが一斉に声を上げて喜んだ。


「あ、有り難うございます‼︎」


また土下座する俺。


後ろの馬車ではマンサがこのやり取りに気がつき、慌てて馬車から出て俺の元へ走ってきた。

マンサも涙を流しながら俺の隣で御礼を言った。

領主は勿体ない事をしたと呟きながら、もう俺たちに興味を無くしたかのように馬車を進ませた。


俺はマンサの肩を抱き、領主が去って行くのを見送った。


その夜、町では俺たちの噂でもちきりだったらしく、酒場に行くこともできなかった。

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