第19話 領主

朝、上官からの一言で砦の兵士達はてんやわんやだ。

皆慌ただしく緊張し過ぎて吐きそうになった奴もいた。


「いつですか?」


「三日後だ」


「早いですね」


「泊まりですか?」


「泊まりは町長が対応する。俺たちは警護がメインの仕事だ。お前には塔への案内と魔女との連絡役を頼む」


「わかりました。なにかやっておかなくてはならない事はありますか?」


「とりあえず塔の魔女に領主様が来られることを伝えておいてくれ。それ以外はいつもと同じだ」


「ああ、それでは行ってきます」


そう言って俺は塔へと向かった。



「ああ、あんたか、どうしたんだい?」


ケーナは塔の三階にある部屋で何かしていた。


「実は三日後に領主様がこの町に来ることになった。おそらくこないだの件で視察されることにになったんだろう。あんたには領主様と会ってもらう事になるはずだ」


「ああ、そんなことかい、わかったよ」


「軽いな。うちの兵士たたはかなり慌てていたぞ」


「まあ、長生きしとるからねぇ。アタシにとっては小僧みたいなもんさ」


「すげえな」


「とりあえず、領主が来たらあんたが案内するんだろう?こっちはあんたたちに合わせておくよ」


「ああ、助かる」


そう言っていつもの仕事に戻った。


三日後。

領主様がやってきた。


みな緊張しており、上官なんかはげているのに頭皮のテカリがいつもよりすごい。ヒゲの手入れを念入りにしており、服装もいつもよりパリッとしている。皆、似たようなものだった。


領主が乗った馬車が止まり、中から三十歳後半ぐらいの男が出てきた。わりと小柄で165cmぐらいの身長、少しぽっちゃりとした体型、口髭があり髪の色は黄色で後ろに結んでいた。


「領主様ようこそこの町へおいでくださいました」


この町の町長と上官が前にでる。

かしこまってお辞儀をしていると領主のとなりにいた宰相が応対した。

宰相は銀髪、四十半ばの渋いおっさんだった。目は細く厳しそうな雰囲気だ。身長は領主より高く180cmぐらいはあるだろうか。細い体躯ではあるが何やら不気味なオーラをはなっていた。


「ご苦労である。此度の塔の襲撃の件を受け、領主自らこの地に赴くことを希望された。まずは塔の魔女に会わせよ」


「ははっ、それでは塔の魔女は今塔の修復を行なっておりますのでご案内致します」


「なに?いまここにはおらぬのか?」


「はい、さようでございます」


「……では案内を頼む」


そう言って、町長と上官、そして俺たちは領主の馬車に同行し一緒に塔へと移動した。


途中上官からは何故魔女を呼んでおかなかったかを説教され、とりあえず「はあ、そうですか、すみません」とだけ言っておいた。


塔に着くと、まず俺が塔の魔女を呼んでこいと命令されたので、先に塔へと入った。


「おい、ケーナ、領主様が到着されたぞ。いま塔の前でお前を待っている」


「ああ、わかった。今行くよ」


そう言って一緒について来てくれた。

俺とケーナは塔から出て領主と宰相の前で跪いた。


「お前が塔の魔女か。ご苦労である。此度の魔族の襲撃の件では見事に成敗したと聞く。魔族は何故この塔を狙ったのかお主の話を聞きたい」


「魔族はこの地の龍脈を奪い、魔族の領地にすることが目的です。また他の領地では既に塔を奪われており、既に龍脈の一部が魔族に奪われております。これから先、魔族の襲撃は増えるでしょう」


「塔の警備はどうなっているのだ?隠蔽の魔術が解けたと聞いておるが、何故なのだ?」


「おそらく他の領地の龍脈が奪われたことが原因かと思われます。おそらく王国や他の領地でも同じような事態になっているかと思われます」


「この領地にも魔物が来るのか?」


「おそらく今後魔族が塔を襲撃する可能性は高いでしょう。今回は討伐できましたが、これからも続くとなれば町の治安も含め対策が必要かと思います」


宰相が考え込み、領主は困った顔をしていた。


「わかった。この町だけの問題ではないな。まず塔を奪われぬよう警護の数を増やそう。何か必要なものがあればこの砦の衛兵に頼むが良い」


「わかりました」


「ところで、もう一人魔族と対峙した者がいると聞いているが、誰なのだ?」


領主の一言で兵士の全員が一斉に俺を見た。


「お前が塔の魔女と一緒に魔族を倒したのか?」


俺は皆の視線を浴び、恐縮しながら答えた。


「あ、はっ、はい、私でございます」


「なるほど、では後で褒賞を授けるとしよう。何か欲しいものがあるか?」


「いえ、ございません」


「ほう、なかなか欲のない、優秀な兵士ではないか。益々気に入った。あとで欲しいものがあればここにいる宰相に望みを言うが良い」


そう言って領主が笑った。宰相は無表情で領主に向かい頭を下げた。

そんな偉い人に言える度胸もない俺はこれ以上目立たないようさっさとその場から下がった。


「では、このまま引き続き塔の管理をせよ」


領主がそう言った後、馬車に、乗り込み、町長と上官が宰相と何か話をしていた。これから宿に向かうみたいだ。

俺は自分の仕事を終えたので安心していた。


まさかこの後に大問題を引き起こす事になろうとは……。


領主がこの町にやって来て町長の館に泊まることになったらしい。衛兵二十人ほど館周辺の警備を任されることになった。町の住民たちは領主の歓待の準備に駆り出され、マンサも給仕の手伝いに館に出向いていた。

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