第18話 襲撃
塔で何かあった。
そう思って急いで塔へ戻ると空に飛ぶ大きな翼を持ったトカゲがいた。
「あ、ありゃ何だ!?」
「ワイバーンだよ!そんな事も知らないのかい!?」
ケーナいわく遠い地に棲む魔物のようだ。
普通こんな所に来るようなことはないらしい。
仲間の兵士たちは襲撃に驚き、盾と剣を持って戦いに備えているものの、空を飛ぶ魔物にどう対処すれば良いかと困惑してただ空を見上げているだけだった。
「どうすりゃ良いんだ?」
ヴォルフも考えるが、どうしたら良いか、あんな魔物と戦ったことが無いので分からない。
誰も弓を持ってきておらず大砲などあるわけもない。
この町の防衛は本当に頼りないものだった。
「仕方ないねぇ。アタシに任せな」
そう言ってケーナが何やら始めた。
両手を上にかざし、なんかぶつぶつと言っている。
そうしているうちに彼女の両手の先に丸い紋様のようなものが現れた。
「
突如ワイバーンの頭上に黒い小さな雲が出来て稲妻がワイバーンを襲った。
グギァ!
雷に打たれたワイバーンは黒焦げになって地面に落下した。
「死んだか?」
恐る恐るワイバーンの近くに集まり生存を確認する。
どうやらさっきの一発で痺れているみたいだ。
「念のため、とどめを刺しておくか」
すぐにとどめを刺してワイバーンの首を落とした後、今度はワイバーンの腹を割いた。
ワイバーンの処理を終えたヴォルフは解体を仲間たちに任せて魔女と一緒に塔の中に入っていった。
「塔の様子はどうなんだ?」
遠くから煙が上がっていたのだ、火災であれば消火しなくてはならない。その時は消化作業のため増員が必要である。
魔女は何も言わず、小走りで塔の上に登っていく。
4階に登って扉を開けた先には一人、変な格好をした男がいた。
髪は黒く油を塗っているのかテカテカと光って後ろに流している。
肌の色は赤い。
身長は高くないものの態度がデカそうだ。
なにか威圧感を感じる。
貴族のような執事服のような見たことのない服を着ていた。
「やあ、塔の魔女か。やっと現れたね」
「お前さんは魔族か。なんでこんなところに来たんだい?勇者にやられて逃げたんじゃなかったのかい?」
「おやおや、そんなことまで知っているんですか。ええ、勇者の強大な力には我々も本当に困っていますよ。それで作戦を変えましてね?この地の龍脈に干渉し、我々魔族が再びこの領土を取り戻すことにしたのですよ」
「アンタたちにそれができるのかい?」
ヴォルフは警戒しながら二人の話を聞いているだけだった。
魔女の婆さんは魔法で盾のようなものを作り出している。
「いやあ、龍脈に干渉しようとするのならば、なかなかの魔力が必要です。だから塔の魔女が来るのを待っていたのですよ」
「アンタごとき魔族に塔の魔女が負けるとでも?」
「それはどうでしょうか、私も魔族の中ではそこそこ有名な方でして、塔の魔女ごときなら大丈夫だと思いますがね。ほら」
そう言って魔族の男は手に何かを差し出した。
その手に持っていたものはよくわからないが首飾りみたいだった。
ケーナはそれを見て怒りだす。
「アンタ‼︎既に別の塔を襲っていたのかい。チッ!アタシは塔の魔女の中でも戦闘派でね。甘くみてると足元掬われちまうよ?」
そう言ってケーナは口角を少し上げて両手を前に出し魔法を唱えた。
「フッ、貴方達魔術師は詠唱の時間がある。そんな隙だらけで私に勝てるとでもおもっているのですか?」
すぐ魔族の男はケーナに突っ込んできた。
!!?
魔族の男はケーナの目前で勢いを無くし急に苦しみだして膝をついた。
「くっ!何を、した」
「どうせ、言ってもわかりゃしないよ。ヴォルフ!この魔族にとどめを刺しな‼︎」
何が何だかわからないが、俺は慌てて魔族に近づき剣で首を切り落とした。
しかし、首を切り落としたにもかかわらず、首だけになった魔族は意識を持ったまま喋り出した。
「く、ふはは!さすがだ!私をここまで簡単に倒すとはねえ」
「ヴォルフ!魔族は首を落としただけじゃ死なないよ!胸の中にある魔石を切り落とすんだ!」
「え?あ、ああ、わかった」
そう言って今度は魔族の胸に剣を突き立てる。
「黙ってやられるわけにはいかないな」
首だけになった魔族は俺のところに飛んで口を開け何か吐き出してきた。
うわっ!
剣を胸に突き刺したまま、慌てて盾を構え、吐き出したものを盾で受け止める。盾にかかったそれは煙をあげ盾が溶けてしまった。体の一部にもかかり服が溶け出した。
「なんじゃこりゃあ!」
俺は首だけの魔族を拳でぶん殴り吹き飛ばす。
「さっさと、胸の魔石を切り落としな!」
魔女のアドバイスに応えて、突き刺した剣を上下に振った。
何か硬い感触があり、気持ち悪いと思いながら胸に手を突っ込んで中の魔石を取り出した。それを地面に叩きつけ、剣で切り落とす。
パキィ!!
魔石が真っ二つに割れて魔族の男が苦しみだした。
そしてすぐに黒い灰となって消えてしまった。
「倒したのか?」
「ああ、よくやったね。その魔石は高価なものだから大事にしときな」
俺は魔石を取り上げ、腰につけていた皮袋に入れておいた。
「この塔は大丈夫か?」
「ちょっと上を見てくる。アンタはここで待ってな」
「ああ、もう魔族はいないのか?」
「ワイバーンは一匹しかいなかったからねぇ。おそらく単独で来たんだろうね。大軍だと、すぐにバレちまうから隠密で行動にでたのだろうね」
「しかし、アンタ強いな。魔族と戦ったのは初めてだが、あんなに簡単なもんなのか?」
「そんなわけあるかい!今回はたまたま運が良かっただけさ、アタシは足止めしただけ、アンタがいなかったらこんなに簡単にはいかなかったよ」
「ま、役にたったのならいいさ」
「それじゃここで休んでおきな。アタシが戻るのを待ってても仕方ないから一刻したら勝手に帰っていいよ」
「いや、上官に報告する。今回のことはかなり問題が大きい。ちょっと仲間に待機させ俺は報告にいくからアンタは上で状況を確認しておいてくれ」
そう言って俺は下に降りて塔を出た。
外ではワイバーンが解体され、何人かは交代で休んでいた。
「俺は今から砦に報告に行ってくる。しばらく待機していてくれ」
そういって砦に向かった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
砦に着いた俺はさっそく上官に報告する。
「何?この地にいない魔物が現れただと?」
「はい、ワイバーンが塔に現れ襲撃されました。塔の魔女が魔法でワイバーンを倒しましたが、塔の中には魔族が侵入してこの地の龍脈を奪い魔族のものにすると言っておりました。が、これも塔の魔女のおかげで無事被害も無く討伐することができました」
俺が報告を終えると上官は苦い顔をして唸り出す。
「うぅん、襲撃にきた魔族は一人だけだったのか?」
「はい魔族が一人、ワイバーンに乗って単騎で襲撃に来たようです。おそらく目立たぬよう少数で来ているのではないかと塔の魔女が言っておりました」
「奴らの狙いはこの領地の龍脈を奪うことなのだな?」
「はい、これも魔族と塔の魔女との話で聞いたものです」
「うーん、であればまた襲撃に来るかもしれんな。すぐに領主様に報告する。あと討伐した魔族とワイバーンはどうした?」
「ワイバーンは残りの兵士たちで解体しています。魔族は体内の魔石を壊したところ黒い灰となって消えてしまいました」
そう言って俺は皮袋の中から魔石を取り出して上官に見せた。
「わかった。この魔石は領主様に渡しておく。塔の方はどうなのだ?」
「塔の被害はまだ魔女が確認していますので状況は掴めておりません。また戻って確認する予定です」
「わかった。では引き続き塔の見張りと被害状況の確認を頼む。俺はこの件を至急、領主様に報告しておく」
砦で報告を終え、再び俺は塔に戻った。
塔の入り口付近で仲間の兵士が二人待機しており、残りの三人は解体したワイバーンの処理と選別をしていた。
「おいヴォルフ、このワイバーンの爪と牙、高く売れるぞ!」
「ああ、今度商人が来た時に売ろう。引き続き選別をして売れそうな部位は保存しておいてくれ」
「おれ今度、フィーナちゃんとデートするんだ。これならお金になるかな?」
「……ほどほどにしとけよ?バレたら只じゃ済まないぞ」
そう言って俺は塔の中に入った。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ケーナ、塔の被害はどんな感じだ?」
「ああ、どうやら侵入する際、壁の一部を破壊して中に入ったみたいだ。それ以外の被害は今のところ見当たらないね」
「壁の修復だけでいいのか?」
「まあ、盗まれるような物もないしねえ。そういえば魔族の男が持っていた首飾りを渡しておくよ。どうせ領主に報告しなくちゃいけないだろう?」
「ああ、助かる。しかし、この首飾りはなんなんだ?さっきアンタこれを見て怒ってなかったか?」
「これはね、塔の魔女の証明みたいものだよ。その地の領主一族の者だけが身につけることを許されている貴重なものでね。それを見たら何処の領地のものかわかるはずさ」
「そうか、わかった。上官に頼んで領主様にお渡ししよう。壁の修復は……上官に報告して指示を待つしかないか」
「まあ、多少のことならアタシの魔法で直しておくから大丈夫さ」
「魔法って本当に便利だな」
「まあ、使えない奴からすればそうかもしれんな。アタシには出来て当たり前のようなものだからよくわからん」
「そんなもんか」
その日は塔の見張りをする者と解体したワイバーンの亡骸を砦に運ぶ者と分かれて作業した。
夜にもう一度上官に塔の被害状況を報告し、家に帰る頃にはくたくたになった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
(帰宅)
「あら、おかえりなさい」
なぜか、マンサが俺の家にいた。
「お、おい、どうしたんだ?なんでお前が俺の家にいるんだ?」
「あら、私がいたら迷惑なの?塔の事とかあの女の子の事とか色々聞きたいからちょっとお邪魔したんだけど」
「昼に話しただろうが」
「あんなんじゃ全然わからないわよ、なんか騒ぎになっていたから気になったのよ」
「俺結構疲れてるんだけどな」
「あら、それじゃあこのお酒と料理はいらないのね。せっかく持ってきたのに」
「まあ、少しぐらいなら付き合ってやるよ」
「なによそれ」
「で、何から聞きたいんだ?」
「塔って何なの?」
「ああ、あれは龍脈ってヤツを管理するためにあるらしい。塔に魔女を置いて管理するみたいだが、詳しい話は俺も知らん。あの魔女は見た目は幼いが何百年も生きている化け物だ。塔に魔族と魔物が襲撃に来たんだがあの魔女がほとんど始末した」
「なんかすごい話ね」
「ああ、こんな小さい町に不釣り合いなほどにな。お陰様でこっちはくたくただよ。本当ウチの上官は人使いが荒いって」
マンサはクスクスと笑ってお酒を入れてくれた。
二人きりの時間は温かくまるで夫婦のようだった。
次の日
砦に行った俺は上官に呼び出された。
「朝から一体どうしたんですか?」
上官はいつも以上に厳しそうな顔で言った。
「領主様がこの町に来られることになった」
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