第17話 街案内
町外れの丘に塔が突然現れてから一週間経った。
領主様からは砦の兵士の一部を塔の見張りに出すようにとの命令があり、俺とこの前一緒に行った連中は塔の見張り番の役を受けることになった。
「ふぁああ」
ヴォルフは大きな欠伸をして、眠たそうな顔で見張りをしていた。時々近くを通った町の人が話しかけてくるぐらいで問題という問題は起きていない。
しかし、隠蔽の魔術が切れてから一週間が経つのに、まだ直ったようには見えない。あの幼児婆さんは何やってるんだ。
そう考えていると魔女のケーナが塔から出てきた。
「婆さん」
「あ?死にたいのかい?」
「い、いや、魔女殿、どうした?……塔は直ったのか?」
「いや、ちょっと息抜きにねぇ。たまには町に行ってみようと思ってね。アンタちょっと案内してくれるかぃ?」
「俺は仕事中なんだが……」
「どうせ塔には誰も入れやしないよ。アタシが塔に入れないようにしておいたからね。せっかくだ。若い男に連れていってもらうのも悪くはないねえ。うひひひ……」
なんか気持ち悪い笑い方だなとヴォルフは若干引きながら仕方なさそうに了承した。
「どうせアタシも護衛対象なんだろ?」
「はぁ……仕方ねえ。町まで案内してやるよ」
そう言って仲間には待機してもらい、俺は魔女を町まで案内した。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ひゃあー、小さい町だねぇ、まあ二百年前は何にもなかったけどね」
そう言って魔女の婆さんは町を歩いていた。
「なんか食べる所はあるかい?あたしゃお腹がペコペコになってきたよ」
うるさい婆さんだなあと思いながら宿屋の近くの酒場まで案内する。
酒場は昼には普通の食堂として客たちが大勢昼食を取っていた。
「おすすめの食べ物はあるかい?」
婆さんは空いた席に座り俺に聞いてくる。
「うーん、昼はあまり来ないからなあ。まあボアの焼いた肉は旨いぞ!」
「いらっしゃい」
マンサが注文を取りにきた。
「あれ?ヴォルフこんな昼に来るの珍しいじゃない。どうしたの?……この可愛らしいお嬢さんはだれ?」
鋭い目つきで俺を射抜いてくるマンサ。何か疑いの目で俺をみているようだ。
「おお!この嬢ちゃんはよくわかっとるのぅ!アタシのこと可愛らしいとは嬉しいことを言ってくれるのぅ!」
婆さんが嬉しそうにはしゃいでいた。
「おい!このば……いや、このお方は、あの町外れの丘にある塔の管理をされている魔女だ。俺は領主様の命令であの塔の見張り番をしているんだ。子守させられているわけじゃないんだよ」
殺気をかんじながら慌てて俺は説明する。
特に魔女の婆さんは怖い。マンサは何となく理解したようでニコッとして注文を聞いてきた。
魔女の婆さんは周りの食べているものを眺めて自分が食べたくなったものを指差して注文していた。俺は仕事中に酒は飲めないのでいつもの飯を頼んだ。
「しかし、この町も寂しいもんじゃのう」
婆さんはどこと比較しているのかわからなかったがそんなことを言い出した。
「魔女殿は、何処の生まれなんだ?」
「ケーナと呼びな。魔女殿じゃ、かしこまっててあんまり好きじゃないね」
「ケーナはこの領地の生まれなのか?」
「いや、アタシはこの国が出来る前から此処にいたんでねぇ。魔女としてこの国に世話になったのは二百年ほど前だったかねえ。まあ、領主もこの地に来たばっかりでなぁんにも分からなくてね。アタシがいろいろ教えてやったのさ。そうしたら塔の管理もしてくれってね。人遣いの荒い奴だったよ。もういないけど、今の領主も同じかもしれないねぇ」
「はぁ、そんなに前からか。俺には想像もできねえよ」
「ま、長生きだけはしとるからね。人がこの地に来たのも二百年前だったかねぇ。それまでは魔族がこの地にいたんだ。魔族からすればこの地を人に奪われたと思っているんじゃないかねえ。だから取り戻すのに躍起になっているのさ」
「二百年も塔から出ていないのになんでそんなこと知っているんだ?」
「塔に居てもいろいろ分かるのさ。実際に視えるんだよ。たとえば勇者とかね」
「勇者を知っているのか?まだ最近の話だぞ!」
「そりゃ神様から選ばれた勇者だよ?知らないわけないさね」
驚いた俺は思わず立ち上がった。
魔女の婆さんはニヤリと笑ってこちらを見た。
「アンタも勇者と関わったんだろ?まあ、実力はまったく無いみたいだけど、心の支え、として勇者には大事な存在になっているみたいだね」
魔女の婆さんがそう言っていると、マンサが何やら顔を引き攣りながら料理を運んできた。
「はい、お待たせ。勇者のお気に入りさんもこちらをど、う、ぞ!」
そう言って料理を手荒く置いていった。
魔女の婆さんはニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「お前さんも隅におけないねえ」
「アンタ何勘違いしてんだ。そんなんじゃねえよ」
「何が勘違いなのかい?ありのままが真実だろうに。あの娘も可愛いもんだねぇ」
「さっさと食って塔に戻るぞ!俺も仕事中なんだ。無駄な話ばっかりするもんじゃねえよ」
「ぐふふ、まあ、これ以上はもう言わないでおこうかねえ。ああ、若いってのは良いねえ。アタシも胸がキュンキュンしてくるよ」
気持ち悪い顔をしてにやけながら飯を食う幼児ババア。俺はもう何も喋らずに黙々と飯を食った。
「さ、塔に戻るぞ」
そう言った矢先、爆発音と共に向こうに見える塔から煙が上がった。
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