塔の魔女

第16話 塔の魔女

町の外れに小高い丘があり、その近くには小さな魔物がでてくる森がある。


ある日突然のこと、その小高い丘の上に塔が建っていた。


近くにいた羊飼いが発見したそうで、慌てて町の兵士に通報してきた。


そして何故か、


その塔の周辺を調べてこいと上司からの命令で、俺が巡回の当番に回された。


あの上官殿は最近俺をこき使い過ぎていないか?

俺になにか恨みでもあるのか?


ぶつぶつ言いながらヴォルフは五人ほど仲間の兵士と共に丘の上に建つ塔にやってきた。


羊飼いは恐ろしくて中には入っていないらしい。

そこで誰が先に塔に入るかという話になった。


「どうする」


「そりゃ、ヴォルフに決まってるだろ」


「おい!なんで俺なんだ?先に中に入りたい勇者はいないのか?」


「俺たちは命が惜しい。安い給料で命をかける奴なんぞいねぇよ」


「俺だって嫌だ!」


誰もが嫌がったので、しぶしぶ多数決で決める事になった。


「それでは多数決を取るぞ」


「ヴォルフに行かせた方が良いと思う者は手をあげよ‼︎」


「おい!なんでお前が言うんだよ‼︎」


俺がそう言うと、残りの五人は一斉に手をあげた。コイツら仕組みやがったな。


よくよく考えてみると、ここにいる者はいづれもマンサに振られた奴ばかりだった。


「くそっ!仕方ねぇな!」


俺は身につけている防具をしっかりと確認し、盾と短剣を装備して塔へ向かった。


扉を叩き誰かいないか確認する。


「誰もいないか?」


そっと扉を開け、隙間から中の様子を覗き見る。すると声が返ってきた。


「中にお入り。歓迎するよ」


「うわっ!」


その後、勝手に扉が開き俺は転ぶように中に入ってしまった。前のめりに倒れたので手と膝を地面に打ちつけてしまう。


「痛え……」


ゆっくりと起き上がって周りを見渡すが誰もいない。しかし、声だけが耳に届いてくる。


「上にいるから、上がっておいで。お仲間さんたちも一緒に来ても良いよ。せっかくなんだ、お茶ぐらいは出してあげるさ」


何故が外にいる連中にも声が聞こえるようで奴らは皆一斉に慌てている。誰か一人ついて来いといったが不気味がってついてこない。


「臆病者が!仕方ない……俺一人で行く、もし帰って来ない場合はすぐに砦に戻り上官に報告してくれ‼︎」


そう言って舌打ちしながら、しぶしぶ階段に登り上の階に移動する。


上の階に着くとすぐに扉があった。近づくとまた勝手に扉が開く。


「お入り」


ゆっくりと中に入るとそこには小さい女の子がいた。


「やあやあ、良く来てくれたねぇ。歓迎するよ。あたしはこの塔の管理人で魔女のケーナという者さ。臆病者な兵隊さんだと思ったけどアンタはちょっと度胸があるみたいだねえ」


幼い容姿の割にかなり歳食った話し方をする奴だなと思うとさらに説明をしてきた。


「どうせ急に塔が出来たものだから調べに来たんだろう?この塔は昔からここにあるんだよ。ただ隠蔽の魔術がかかっていたから皆気づかなかっただけさ」


「……オレはこの町に生まれてずっとここに住んでいる。今までここに塔があること自体知らなかったぞ」


俺が怪しんでいるとケーナは答えてくれた。


「この塔は二百年以上前からずっとここにある。領主様に確認してごらん?領主様ならこの塔のことをご存知のはずさ。もっとも代替わりしていてもう知らなくなっているかもしれないがね」


「わかった。後で確認しよう。しかし、何故今になって塔が出てきたんだ?」


ケーナは溜息をついて答えた。


「隠蔽の魔術が突然切れたんだよ。なんせ二百年も経っているからねぇ。いま原因を調べているところだったんだよ」


「何か手伝うことがあるか?」


俺がそう言うとケーナは笑い出した。


「ひゃあっひゃっひゃっ!お前さんさっきまでビビっておったのに、今度は手伝ってくれるのかい?変わった奴だねぇ」


ケラケラと笑いながら俺にお茶を出してくれる。


「まあ、魔術はあんたらにはわからんだろう?まあ、二百年ぶりに町にでも行ってみようかねぇ。その時は案内してくれるかい?」


「ああ、任せてくれ!」


「それじゃキリがついたら砦まで行くよ。アンタ名前は何ていうんだい?」


「俺の名はヴォルフだ。砦で門番を務めている。町の案内ぐらいならお安い御用さ」


「そんじゃ楽しみにしておくよ。よろしくねぇ」


ケーナはそう言ってお茶を飲んだ。俺は気になっていた事を聞き出す。


「なあ、アンタはいつからここに住んでいるんだ?」


「もうかれこれ二百年ぐらいかのぅ」


「はっ?!アンタ一体いくつなんだ?」


「ばかたれ!淑女に歳なんて聞くもんじゃないよ!そんなんじゃあんた結婚できんぞぃ?そもそもしとらんだろうけどなぁ」


ひゃっひゃっひゃっと笑う童顔の幼女。

見た目と言葉のギャップが酷い。


どう見ても13歳ぐらいの女の子にしか見えない。


幼く可愛らしい顔立ちで長い黒髪と白い肌、黒い目をしており、薄緑のローブを着ている。

容姿だけ見てもこの町の人間ではないことはすぐにわかるが魔女とは何かもわからないヴォルフは混乱していた。


「んーーー、それじゃあ、何でこの塔にずっと住んでいるんだ?食べ物はどうしてるんだ?町に出たことはなかったのか?」


「あたしはこの塔の魔術の管理をしてるんだよ。隠蔽の魔術だけではなくてこの領地の管理にも関係している。あんまり詳しいことは言えんが昔の領主様から頼まれてずっとここにいるのさ」


「なんでそんなに若い姿なんだ?」


「うっひゃっひゃっ!アンタもしかしてあたしに惚れたのかい?いくらあたしが美人でもあんたは若すぎるねぇ」


「いやいやいや、歳取らないのが異常だから聞いているんだ。魔術で若くできるのか?」


「ふーーーん?あたしの美貌がわからない奴に教えてやることは出来ないねぇ。まあ、魔力が在ると若くはなるみたいだね。私はソッチの研究はしとらんからよくは知らないけど、魔術をかけてる訳ではないよ。勝手に若返っているのさ。でも寿命はあるよ?まあ、放っておけば、あと五百年ぐらいは生きるだろうけどね」


「ご、五百年?!」


驚く俺を見て童顔の魔女はまた笑いだす。お茶を飲み終えた俺は領主様に確認すると約束して外にでた。あとくれぐれも周囲に問題を起こさないように念押ししておいた。


「誰もそんな面倒なことしたくないよ」


「俺だってそう願うよ。まあ、隠蔽の魔術頑張って解決してくれ!」


そう言って外を出ると残された仲間が気まずそうにこちらを見た。


「どうだった?」


「領主様に頼まれてこの塔を管理しているらしい。とりあえず上官殿に報告し、領主様に確認していただくしかない」


悪い奴ではなかった。


本当に領主様の依頼で塔を管理しているのであれば魔女を拘束した時点でこちらの責任になってしまう。


面倒はごめんだ。


そう言って、仲間を引き連れて砦へと戻った。



・ケーナ

塔の魔女

○五百歳以上

身長138cm

体重34kg

黒髪、黒い目

ロングヘアー

見た目は13〜14歳ぐらいの少女、魔力によって長生きをしており年もとらない。実は何百年も昔から領主の依頼で塔を管理している魔女。魔法で領地内の龍脈を管理している。

好きなもの

お菓子と紅茶

嫌いなもの

無礼な人間とお化け

かなり賢いが、意外とおっちょこちょいでドジな面もある。



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