第11話 別れ
次の日の朝、ニマは木剣と盾を構えて俺と対峙する。
今日のニマは気合い充分で意気込みが伝ってくる。
俺も木剣と盾を装備してニマが攻撃するのを待ち構えた。
はぁぁ!
ニマが猛ダッシュで突進してきた。
速い。
俺は盾を構えてニマの攻撃を防ぐ。
ニマは左右に木剣を振りステップを取りながら距離を取り、また近づいて木剣を振ってくる。
もう素人ではない剣の太刀筋をみて周囲の者たちも感心している。
特に爺さんが感動のあまり号泣していた。
もう少し。
ニマが何か狙っている。
今までと少し違う攻め方で俺は警戒しながら剣を合わせた。
ガキっっ!
剣と剣がかち合ってニマは後退したと思いきや、すぐに踏み込んで足元を狙ってきた。
チッ!
足を後ろに下げ剣を逸らしたものの今度は上段に剣を振る。
体捌きが上手くなっている。次の攻撃への繋げ方も良くなっている。
盾を使って防御に徹していた俺はなかなか攻めきれないニマの焦りを感じつつ、わざと焦らせて隙をつくらせる。
ニマもそれに気づき、警戒しながら攻撃と防御をちゃんと使い分けていた。いつもより長い手合わせにこちらも疲れがでてくる。ニマは汗だくで息も上がってきた。
そろそろ終わりにしようかと思っていたその時、少しの瞬きの間に、一瞬ニマの姿が消えた。
どこだ?
左右を見てもいない。
するとなぜか真後ろにニマがいた。気がついた時には俺の首もとにニマの剣が当てられていた。
「私の、勝ちですね?」
息を弾ませながら嬉しそうな顔でニマが言った。
「ああ、……お前さんの勝ちだ。」
そういうとニマがぐったりと尻もちをついて苦しそうに息を吐いた。俺も疲れてニマの近くで座り込む。
「くそ、最後に負けちまったな」
「ふふ、最後に勝ちました」
嬉しそうにニマが勝ち誇る。爺さんは号泣したままニマの隣で扇をあおいでいる。ちょっとウザい。
「これで心置きなく帰れるな」
俺がそう言うと、ニマは少し寂しそうになるが、誤魔化すように笑顔をつくって頷いた。
「はい」
その後、汗を拭いて俺は仕事に行った。
門番として勤務する間、特に問題もなくただ突っ立っているだけだった。
「良い天気だな」
今日は風もなく暖かい良い天気だ。
ニマとの別れの日としては最高だなと思った。
数刻後、ニマを乗せた馬車が来てた。馬車の窓からニマの顔が出た。
「それでは……さようなら」
「ああ、達者でな」
「ありがとうございました」
「勇者になっても死ぬんじゃないぞ。生きて帰ってこい。また会おう」
「は、はい!」
ニマは涙を流しながら嬉しそうに手を振った。
馬車が門から出ていった。
遠くで馬車からずっと手を振るニマは何か言っているがよく聞こえない。俺は馬車が見えなくなるまで手を振った。
ニマも見えなくなるまで必死に手を振ってくれた。
長いようで短い時間だった。
そう考えているといつに間にか馬車の姿は無くなっていた。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
仕事が終わり久しぶりの酒場だ。
マンサも今日は酒場で働いていた。
「おかえり、どうだった?」
「どうもこうもねぇよ。酒をくれ」
どかっと席につき、出された酒を飲む。
「寂しいんじゃないの?今夜私が側にいてあげようか?」
「な!何言ってるんだ!俺をからかうんじゃねぇよ!」
「あら、昔はよく一緒に寝てたじゃない」
「ガキの頃だろうが!今は違う!」
「そんなに嫌なの?私魅力ないのかしら?慰めてあげる自信あるのに……」
「お前そんな経験あるのか?いつからだ?まさかこの前も!?」
「馬鹿ねぇ、そんな事ある訳ないじゃない。私は結婚する人のために操を護る貞淑な女よ?」
ニヤニヤしながら言葉で俺をいじってくる。そんなに俺をからかって嬉しいのか。というか嬉しそうだ。
「そ、それじゃ結婚する奴のために大人しく家に帰ってろ!ニマが居なくなって寂しいのはわかるがそれでわざわざ俺をからかうんじゃねえ!」
俺は酒を一気に飲みこんで酒代をテーブルに置いてさっさと家に帰った。
顔を真っ赤にして立ち去る男の後ろ姿を見て思わず溜息を吐く。
マンサは呆れた顔をしてやり過ぎたかしら?と呟く。
今夜の月は明るく光り輝きながらも寂しくひっそりと男の姿を照らしていた。
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