第5話 事情聴取
ビッグボアの征伐の翌日、意識を取り戻した少年の事情聴取がはじまった。
ビッグボアに吹き飛ばされた割には小柄な身だったのが幸いしてか大した外傷もなく打ち身で済んだだけだったようだ。
今は聴取室で取り調べ中らしい。
俺は門の前で槍を持って今日も見張りに徹している。
くぁぁ……。
少し涙目になりながら大きなあくびをしたところ取り調べを終えた上官がこちらにやってきた。
「おいヴォルフ、こっち来い」
あくびが見られて殴られるかと思ってちょっと身構えながら上官のもとへ移動する。
「はい、何でしょうか」
上官はジロリと睨みこちらに話しかけてきた。
「お前、いまひとり身だろう。確か両親は十年も前に亡くなったよな?」
「はあ、まあ、そうですが」
「実はな、昨日保護した子供をしばらく預かってほしい。宿屋に泊めるほどの金もないそうだ。また、こちらも家族が多い者たちの家には泊まる部屋がない。その他に独り身の者には家持ちも少ない。もちろん此処も駄目だ。お前の家は一人で住むにしては大きいし、まだ結婚する相手もおらんのだろう?しばらくの間頼む」
「手当ては?」
「食費ぐらいならこちらでみよう」
「それだけですか?」
「なんか欲しいのか?」
「……」
「嫌ならはようあの大きな家に一緒に住んでくれる結婚相手を見つけろ!」
上官はそう言うとガハハと笑ってこちらの肩を叩いてくる。
かなり強引だなと顔を顰めたが、上官には通じないようだ。
しばらくして、保護された少年が上官と共にやってきた。
「コイツがしばらくお前の面倒を見ることになったヴォルフだ。何かあったらコイツに頼みなさい!」
そう言って上官はこちらに目を向ける。
「この子はニマ、王国の出身で家族と一緒に隣町までの移動の途中に賊に襲われたそうだ。賊は馬車を襲って家族を殺したそうだ。まだ賊が発見されたという報告は来ていない。この子の保護者と連絡が取れるまで保護してやることになったということだ」
俺は慌てた。
「ちょ、ちょっと待ってください。コイツの保護者とはいつ連絡が取れるのですか?あとお話を聞いているとかなり長いこと預かることになるみたいですけど」
「あぁ、この子の両親はもう賊に殺されたそうだからな。ただ、兄が王国にいるので手紙を送るそうだ。しばらくかかるがどうせお前もひとり身だろう?子供だし、大して手間もかからん。夜は早く帰してやるからしばらく我慢して面倒見てやれ!」
うーん……
早く帰れるという言葉に思わず食いついてしまった俺は黙り込んでしまった。
その時、ニマがこちらに近づいてきた。
「あの、ご迷惑をおかけしますが、何卒宜しくお願いします」
涙目になりながら上目遣いでこちらを見つめてくる。少年だが中性的で整った顔立ちだ。
なんかドキッとしてしまい何故か慌ててしまった。
俺は女が好きだが、こういう子供を好む変態ではない。
変な輩もいるだろう、放っておくのもさすがに可哀想だと考え、俺が守ってやらなければと変な使命感が胸の奥から湧いてくる。
「仕方ねえ!俺がしばらく面倒見てやらあ!」
そう言って仕事が終わるまで休憩室で待ってもらうことになった。
仕事が終わり、今日の夕飯代を上官から預かってからニマを連れていつもの酒場に行った。
「あれ?その子どうしたの?」
マンサがこちらに話しかけてきた。
「賊に襲われた子を保護することになった。しばらく預かるんだよ。とりあえず何か食べる物をだしてやってくれ。俺はいつものやつを頼む」
「ちょっと!注文する前にちゃんと紹介しなさいよ!」
ヴォルフは面倒くさそうにマンサを見た。
「ニマ、こいつはマンサ。俺の幼なじみでこの酒場で働いている。ちょくちょく世話になるだろうからよろしくな」
「マンサよ。ニマちゃんよろしくね」
マンサがニコッと笑って挨拶した。ニマは恥ずかしそうにお辞儀した。
マンサに注文した後、ニマと一緒に空いたテーブル探し、席を取って酒と料理が出るのを待った。
「お前、王都から来たんだっけ?今回は災難だったな。まあ、慰めるような事もできんし、気の利いた事は正直言えん。汚い家だが、しばらく我慢してくれ」
「いえ!こちらこそご迷惑をおかけします。本当にすみません!」
「お前、小さいくせになんでそんなに気を使うんだ?疲れないか?」
そう言ってヴォルフは腕を組んだまま静かに語り出した。
「お前のご両親も殺されたんだったな。俺もガキの頃に両親が魔物に襲われて 死んだんだが、しばらく毎日泣いてたよ。何も出来なかった。後悔ばっかりしてたよ。お前も遠慮せず泣いていいんだ。お前の両親を殺した賊も領主様の兵士が出兵されればすぐに討伐されるだろう。お前は兄ちゃんに手紙を書いたら俺の家でごろごろしながら待っとけばいいんだ。遠慮せず言いたいことがあれば何でも言ってくれ!」
俺にまかせろとドンっと拳を胸に叩いた。
ニマは涙を流しながら微笑んでいた。
「はい、おまたせ」
なみなみと酒のはいったジョッキと料理が何品か、テーブルに並べてマンサがニマに向かって話かける。
「このオッサンは本当に気がきかないからちゃんと言いたいことがあったらはっきり言ってやりなよ。何か腹が立つことがあったらこのお姉さんに言いなさい。酒が飲めなくなるようにしてやるからね」
ニッコリと笑顔でそんな恐ろしい事を言ってくる。いくらなんでもやりすぎだ。俺に何か恨みでもあるのか。ちゃんと金は払ってるだろうがと言ったが何故かこちらを睨んでキッパリと言い放ってきた。
「あんたが気がきかないのはこの町の皆がよーーーーく知ってるよ!悔しかったらもっと気が効く男になりな!」
酒場のいる全員が笑い出し俺も口を尖らして黙って酒を煽る。
ニマは何か嬉しそうにご飯を食べ始めた。
マンサはニッコリとして調理場に戻っていった。
「素敵な方ですね」
ニマは嬉しそうに言った。
「俺には厳しいがな」
ゲップをして料理をつまみながら俺が言うとニマは意外そうな顔で答えた。
「ヴォルフさんのこと好きだからじゃないんですか?」
思わず吹き出す。
「な、なんて事言うんだ!そんな事あるわけねぇだろ‼︎」
何故か周囲がシラけて酒を飲み出している。
何故だ?
俺が悪いのか?
ニマも溜息をついて料理を食べだした。
「マンサさんに直接聞いたらどうですか?」
「おいっ!もうそれ以上言わなくてもいいだろ?さっさっと食べて家にいくぞ」
子供相手にも取り繕えないヴォルフを見てニマは笑いそうになった。
ヴォルフはいつもより酒の量も少なく食事を終え家に帰った。
家に入り、使っていない部屋にニマを連れて行く。
ランプがたりないので予備の蝋燭に火をつけると部屋にうっすらと灯りがさした。
そしてヴォルフはエマを部屋に入れて埃を被ったベッドに指差して「ここで寝てくれ」と言った。
「しばらく使ってなかったから汚いが我慢してくれ。明日時間があれば掃除してくれると助かる」
「ありがとうございます」
「あと体をふきたかったら水を汲んできてやるから言ってくれ。今日は遅いから無理だが、水釜のなかに少し残ってるかもしれねえし、飲み水はそれを使ってくれ。まだ暑くねえし水も腐ってはないはずだ」
ニマから「わかりました」と返事が返ってくる。
「あと服、だな。俺がガキの頃の服がまだあったはずだ。ちょっと探してくるから待っててくれ」
そう言って俺は服を探しに部屋を出た。
ニマの泊まる部屋は俺の母親の部屋だった。
もう十年も片付けていない。
さすがに鼠が出ないように気をつけてはいるが置いてある家具や服はずっとそのままだ。
自分の部屋に戻った俺は服をさがして
「無いな……」
そういや子供の服は木箱のなかに詰め込んで物置にしまったんだった。
ようやく思い出して、次は物置にある木箱を探した。
「おっ、あったあった」
もう長い事着ていない子供の服、当時の俺は子供の中でも大きかったからアイツにも着れるだろうと木箱を抱えてニマのいる部屋へと向かった。
部屋にいくとニマが布団の埃を落とす為に窓を開けていた。
外は月の光が窓から差し込んで暗い部屋が少し明るくなる。
「おい、この木箱の中の服を使ってくれ。丈が合わなかったら服屋に持っていくぞ」
「いえ、大丈夫です。大きかったら袖を折りますから、わざわざ気を使っていただいてありがとうございます」
深くお礼をするニマに気にするなと言って部屋を出た。そのまま俺も部屋に戻ってさっさと眠った。
その夜、
「お父様、お母様、ごめんなさい……」
誰もいなくなると途端にこみ上げてくる感情。涙が溢れ、悲しみが抑えられない。
ウッ、
ウッ、
声を押し殺して泣き声を抑え、埃まみれの毛布に涙で濡れた顔を拭く。
もう両親はいない。
兄の迎えが来るのはまだまだ先だ。
しばらくはこの家に居座るしかない。
ヴォルフという男は最初は嫌そうだったが、ちゃんとこちらの面倒をしっかりと見てくれそうだ。
こうして寝る場所と服も用意してくれた。
はっ!
そういえば……。
厠はどこだろう。
肝心なことを聞き忘れ、感情の収まりと共にお腹の下からジワジワと尿意が溢れてくる。
もうヴォルフは寝ているみたいだ。
彼のいびきがここまで聞こえるてくる。
さすがに起こすのも忍びない。
そういえば、こうした家には糞尿を入れる壺があったはずだ。
ニマの家の使用人から聞いた事がある。
そう思い出したニマは蝋燭を持って部屋をでた。
玄関の近くに来てそれらしい壺を探すと、蓋のある壺を見つけた。
ニマは溢れる尿意を我慢して蓋を取る。
ウッっっ‼︎
くっ、臭いっっ‼︎
思わず吐き気と涙がこみあげてくる。
尿意と吐き気でニマはもう動けない。
鼻を抑え口に息を吸い込み、息を止めたまま壺に向かって全てを解き放った。
息を止めたまま蓋をして、少し離れてから大きく呼吸をした。
ぶはーーーっ‼︎
死ぬかと思った。ビッグボアに追いかけられた時の情景が甦ってきて今度は涙だけではなく汗が吹き出してくる。
次の時のことも考えて、明日ヴォルフに相談しよう。
今回は小だけでよかったが大だとアフターケアの仕方がわからない。
拭くものがわからないので明日勇気を出して聞いておこうと心に誓った。
しかし、次の日にエマが目が覚ますとすでにヴォルフの姿がなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
・ニマ(エマ)
女勇者
12歳
身長142cm
体重38kg
ショートヘア、男の子のような格好をしている。細くちっちゃい感じ。
子供なのでヴォルフには女の子と気づかれない。
真面目っ子。
水色の髪に金色の目。
チート能力で魔族と戦う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます