第4話 マンサ

「マンサ!俺と結婚してくれ!」


「……無理ね。悪いけど、あなたと結婚する気なんてないわね」


「な、なんだって!?」


「他の娘と結婚しなさいな」


「や、やはり、アイツか、アイツの方が良いんだな!?」


「なっ!?アイツは関係ないでしょ!な、何言っているのよ!」


「いや、もうそれ、図星だって言っているようなものじゃないか」


「うるさいわね!わ、私が誰を好きになろうがアンタには関係ないでしょ!?」


「まあ………そうだな。はあ、やっぱりアイツかぁ……」


「ま、そういう事だから、私の事なんか諦めて早く他の娘と結婚しなさい!じゃあね!」


マンサは早足で告白した男から去っていった。


「ちくしょう!あの野郎!」


男は涙を流して壁に拳を突きながら悔しがっていた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


マンサはヴォルフの幼なじみ。


年はヴォルフの二つ下だが、しっかりして頼りになる姉さん肌の女性。


気が強くヴォルフに片想いを抱いているが、朴念仁のヴォルフにいつもイライラして八つ当たりするため、せっかく秘めた恋心がなかなか届かずいつも台無しに……。


態度と同じぐらい胸も大きい、そしてウエストは細い。


町一番の美人。


好きなものは料理と家族、あとヴォルフ。


女性なのに貴金属にはあまり興味なし。


嫌いなもの、しつこい男、暗い男、プライドの高くて自己中な男。


モテるのでヴォルフ以外の男には結構厳しい。


赤い髪でストレート、長い髪。酒場では髪を後ろで結んでいる。


酒場では人気が高く、多くの男たちに告白されるがいつも断り続けている。


小さい町なので若い女性の数はそう多くないために、その中でもとびきり美人で料理もできて気が効くマンサは希少価値が高く超優良物件扱いなのである。


だからか、町の若い男の約半数がマンサに恋心を抱いているらしい。


しかし、マンサがことごとく断り続けているせいか男たちのヴォルフへの嫉妬の憎悪は少しずつ高くなっているのであった。


そして昨晩も、


「おい!ヴォルフがビックボアにやられて怪我したってよ!」


「なんだって!?そりゃあザマァねえな!」


酒場では男たちが酒の肴として今日の出来事を語らっている。


「マンサ、アイツはもう死ぬんだから俺と結婚しようぜ!」


「いやいや、マンサは俺と結婚するんだ。なあ!そうだろ?」


マンサはこの手の話は大嫌いだ。額には怒りのマークをつけて超イライラしていた。


「まあ、悪いけど、アンタたちもすぐ死ぬだろうからねえ。それならまだヴォルフの方がマシだろうねえ」


「なんだと!?」


「俺たちじゃあ不満だってか!?顔だけ良いからっていっていつも調子乗りやがって!」


「ふん!弱い奴ほど犬みたいにキャンキャン吠えるんだよねえ!」


男たちは頭にきたのか怒りに身を任せて立ち上がると、さすがのマンサも驚いて少し後ずさる。


そして、


「おい、マンサ、酒をくれ」


ちょうどのタイミングでヴォルフがやって来た。


「あら、なんかあったの?」


「チッ」


「くそアマが!」


男二人はヴォルフが来たのですごすごと席に戻っていった。


ヴォルフはマンサと会話を続ける。


「いやあ、ビッグボアと戦って討伐したんだよ。ほら少し腕の皮が擦り剥けてるだろ?」


腕をめくって少し赤くなったところを見せるヴォルフ。

呆れたようにマンサは答える。


「また無茶したの?自分の弱さをそろそろ思い知った方が良いんじゃない?」


「いや、オレの活躍で討伐したようなもんだぞ?とどめを刺したのもオレなんだからさ!」


力強く反論するヴォルフを軽くあしらうようにマンサは笑って答えた。


「あんた昔から体力しかないんだから、あと周りのサポートがあったからたまたまとどめを刺せたんでしょう?あんまり自慢してると笑われちゃうわよ?」


「そんなことねぇよ!」


「はいはい、すぐにムキになるんだから、昔から成長してないわね」


そういいながらマンサは調理場に戻っていった。


「せっかくの酒が不味くなっちまった」


ヴォルフはとりあえず空いている席に座って料理が出てくるまで待っている。

すると隣にいた爺さんが話しかけてきた。


「魔物にやられたんだって?」


「は?誰が?」


「いや、アンタが魔物にやられたってその二人が言ってたよ」


「いや、大したことねぇよ。ほら」


ヴォルフは戦闘で怪我したところを爺さんに見せた。


「ほう……ま、大した怪我じゃなくてよかったなあ」


「まあな」


「ひどい怪我なんかしようもんならマンサちゃんに怒られるぞい」


「な、何だって?」


「お前さんもそろそろ……」


爺さんがヴォルフに話かけている途中でマンサが酒を運んできた。


「ち、ちょっと、何でそんな汚いもの見せてんのよ!」


「な、何だと!?俺の何が汚いんだよ!」


「全部よ!全部!」


「な、ひでぇ事言いやがるな!」


今度はマンサとヴォルフが喧嘩し始めた。


酒場にいる連中はまた始まったとばかりに喧嘩する二人を見ながら静かに酒を飲み始める。爺さんも、まあいいや、と諦めるように溜息を吐いてまた酒を飲みだした。


先程の二人もヴォルフとマンサの二人のやり取りを見て冷静になったのか、喧嘩するほど仲の良い二人を見て諦めたのか、ため息を吐いて座り込んだ後、また酒を飲み始めた。


こうしてヴォルフとマンサの二人はいつも通りの口喧嘩をするのであった。


マンサは料理長から喧嘩していないで早く仕事しろと怒られる。


ヴォルフはザマァみろと上機嫌になってマンサに早く酒を出せよと得意満面の顔だ。


マンサはふんっ!と不貞腐れたようにトレイに乗せた酒の入ったジョッキをヴォルフの前にドンっと置いた。


ヴォルフはマンサを睨みながらジョッキを持つ。


「おい、酒の量が少ねえぞ!」


「アンタにはちょうど良い量だろ!コッチは忙しいんだから文句を言うんじゃないよ!」


「チッ!」


ヴォルフは仕方なく席に座り、少ないと文句を言った酒の入ったジョッキをゴクゴクと飲み始めた。


こうして酒場ではいつも通りの時間が流れるのであった。


そしてマンサに振られた男たちは失恋ゆえか、酒を飲み過ぎたからなのか、おぼつかない足取りでふらふらと家に帰っていった。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢


この町ではマンサの人気が高いのだが、もう一人ライバル的な女の子がいる。


町の人気者で美少女のアーニャちゃんだ。


彼女はスレンダーな体格をお持ちで背が低く小柄な美少女タイプ。


庇護欲をかき立てられ守ってあげたくなると勘違いする男が多い。


それを利用するのがとても上手な女の子だ。


実は割と腹黒でマンサとはまた違う層の男たちを手玉にとっているらしい。


まだ若いので結婚への意識はそんなに高くないが、いつか素敵な貴族に見染められることがいまのところ目標だそうだ。

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